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Chapter 1 ある召喚者の場合
1.10 Symmetry
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ダンジョンと召喚者の調査結果をレポートにまとめていると、旅装束のマヒロ君御一行が挨拶に来た。
「マヒロ君にリズィちゃんと、そちらの方は?」
「リズィのママよ! あれから元気になったから、王都に戻ることになったの。マヒロも王都までどうしても一緒に行きたいっていうから、連れていってあげることにしたわ」
「おい、俺はそんなだだ捏ねてないぞ!」
「ふん、ママに「魔法を教えてくださいー」とか言って泣きついてたくせに!」
「ついてない! なんでそんな絡んでくんだよ!」
相変わらずの仲のようで、これだと引率は大変かもしれない。
「ロザリィ・ロザリンドです.........その節は......リズィがお世話になりました」
リズィちゃんのママは、緩く編んだ金髪を肩に流した綺麗な方だった。子どもがいるとは思えない若さで、見た目から年齢が推定できない。
「とんでもありません。ロザリィさんもお元気になられたということで、良かったですね」
「ええ......今日は復帰クエストで.........リズィ達とあのダンジョンを踏破してきました」
「僕の推定では21階層でしたが、復帰で1日攻略ですか」
ダンジョンを攻略するには、普通は途中に拠点を設置して少しずつ進んでいく極地法をとる。このやり方だとかなりの時間が掛かるものの、比較的安定して攻略が可能だ。
それを、まだまだ浅層とはいえ1日で踏破するなんて、圧倒的な実力がないとできない。流石は金星の魔法使いだ。
「ルークン.........今回の件で......ちょっとお話を......」
「何でしょう」
ロザリィさんが子どもの方に目をやると、ふたりは言い合いの最中で彫像のように硬直していた。
「リズィ達にはあまり聞かせたくないので......少し時を止めました」
「無詠唱とはさすがです。それで、具体的には何のお話を?」
「まずは御礼を......貴方により......祈りは導かれました」
「あー、ごたごたして誉められた内容じゃなかったですけれども」
「いえ...リズィだけでなく......私までこうして在ることができるとは... ࿙࿙です」
目線をそらす僕に、ぽそぽそと非言語の何かで答えるロザリィさん。あいにく僕に理解することはできない。
「それと...あの子......どう思いますか」
「マヒロ君ですか、まあ、普通の異世界の子どもですよね。持ちこんでいる情報も、原理までは理解していないようでしたから、大きな影響はないでしょう」
少なくとも、異世界の知識を術理に応用して魔法現象を実現させるほどの理解はなかった。
「いえ...どうして元の世界に戻らないのかと」
「さあ? 術理院としては、戻れる状態にありさえすればいいので聞きませんでした」
「術理院会員から見て理由が気にならないとなれば.........」
目を閉じて黙考したのち、カッと見開くリズィちゃんママ。
「࿙࿙࿙࿙ですね! 世界の࿙が増えるとは素敵なことです。これはぜひ見守っていかねばなりませんッ!」
いきなり性格が変わったように捲し立てはじめた。
僕の両肩をつかんで揺らしながら、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「ルークン...これからいくつの࿙࿙࿙࿙を見守れるか、とても楽しみですね......!」
「そうですね」
大教会徒のこの手の話は流すに限る。
「それと......御礼には足りませんが...これを......」
「品物まで、わざわざありがとうございます」
包みを机に置くと、止まっていた時間が動き出した。
「ロザリィさん。そういえば、あのダンジョンで何か感覚しませんでした? 嫌な予感というか」
「術理院の方でも......感じられましたか…? 《࿚࿚城》の兆しを......」
「ママ、ルークンはそうじゃなくて、変な道具で階段の模様を調べてたのよ」
時間が戻ったリズィちゃんが補足をする。
「そうなんです。その、階段の模様が5回対称性を有していた所が気になったもので」
「ルークン、その5回対称性って何なんだ?」
「例えば正5角形を1回転させると、1周する間に元の図形に5回重なる。1周動かした時に重なる回数で番号がついているんだ」
正3角形は3回対称性を持つし、直線上の2点なら2回対称性だ。
ダンジョンの階段には周期性のある模様のパターンが要請されるけれど、例えば正5角形で平面を敷き詰めようとすると必ず隙間ができてしまう。
5回対称性は周期構造をつくるには不安定で、自然なダンジョンには現れてこない。
いちおう、2種類のひし形を組み合わせると部分的に5回対称になる平面敷き詰めができることが、術理院のライブラリで調べて分かった。
ただし、このパターンでは周期性が少し落ちてしまうので、ダンジョンの構造として不利なことには変わりない。
「あと、高位悪魔が出た超階でもデータをとったんですが、特異点、例えて言えば空間そのものがこんがらがったようなものがあって」
「そんなこと言われても分かんないわよ!」
「リズィ......術理院会員のこの手の話は...流せばいいのよ......」
また悪い癖が出てしまった。
「今回のように超自然的なダンジョンが増えてくるかどうか、大教会徒の方で今後の予感とかあれば聞きたいと思いまして」
「私の感覚......言葉にすることは難しいですが.........恐らく......ルークンと似たことを予感しています」
術理院と大教会の2つのアプローチで似た推測をしているなら、大枠は外さないだろう。
「ルークンとママで全然違うこと言ってるようで、同じことを考えつくなんて不思議ね」
「それも࿙࿙よ......リズィ」
術理を用いるか、第6感を用いるかの違いで、それぞれに長所と短所がある。
だから術理院と大教会は、何かと助け合うこともある。
その後、僕は街の出口まで付いていって旅の見送りをした。
「みんな元気でね」
「ルークンもね! ࿙࿙の祝福がありますように!」
「痛っ、もっとまわり見て手を振れよ」
「楽しい旅に...なりそうね......」
リズィちゃんとマヒロ君が言い合いを始めている。ロザリィさんはこちらにお辞儀をしてから、ふたりを引き連れて旅立って行った。
レポートを術理院に提出して通常営業に戻した店にいると、ライトブラウンの兎耳がひょっこりドアからのぞいた。冒険者ギルド受付職員のソフィーさんだ。
「潰れないねー、ルークンの店は」
「実は、ロザリィさんからの御礼が相当な額のお金だったんですよ」
この前大量に使った紙とインクの補填どころか、借金の一部を返せるくらいだった。
「何でか客足が遠退いたままですが、じきに戻ってくれば大丈夫です」
「あれ、ルークン知らないの? 今までルークンとこでしか売ってなかった薬、教会ですごい安く売りはじめたよ」
ソフィーさんが、頭上に伸びた兎耳を横に振りながら言う。
「まさか。普通に製薬したらかなりの値段になるものばかりですよ。うちの技術が簡単に真似されるとは思えませんし」
「技術がどーとかは知らないけど、この前天使が降臨したとかの跡地あるじゃん。あそこの花畑から良い感じの薬草が取れるようになったらしいよ」
あったね、そんな花畑。
特に問題がなさそうだからと放置していたら、そんなことになっていたとは。
「いやでも。でもですね、新しい薬草からの製薬方法なんてすぐには分からないはずでしょう」
「教校の子が、話題のマヒロ君に教わったって。あの子も若いのによく知ってるよね」
そういえばダンジョン内でも、大教会の教え子と知り合いのような話しぶりだった。
ポーションは神様スキルで1発調製してるばかりと思っていたけれど、ちゃんとレシピがあったのか。
「とにかく、教会で常備薬を安価に売るようになったってことですか」
「そーそー、売上は子どもたちの生活費にするんだって」
「それは、困ったな。ソフィーさん、それを教えるためにわざわざ来てくれたんですか?」
ソフィーさんが長い耳を縦に折り畳んで、指でバツ印をつくっていた。
「それがさー、二日酔いの薬だけは売ってないんだよね。己を律することができない者に反省を促すー、とかで。だからこれ買いに来たの」
「毎度ありがとうございます」
2日酔いは絶対に予防できる体調不良だから、教会も薬を出さないのだろう。絶対的な予防とはもちろん、お酒を飲まない事だ。
「それにしても、何か考えないと赤字ですね」
「いっそのこと冒険者になればいいんじゃない?カナリアoもルークンのこと誉めてたよ」
「危ない仕事はしたくないですから」
術理院会員は魔法を使うのにもお金がかかり、今のままでは出費が収入を上回る。あるいは無理して等級が高いクエストを受注しても、失敗したら花畑をあちこちに作ることになりかねない。
「ま、ルークンなら何か思いつくでしょ」
僕の頭をぽふと叩いて店を出るソフィーさん。
さしあたり、これから地界を訪問する予定なので、帰ってきたら頑張ろうと思う。
「マヒロ君にリズィちゃんと、そちらの方は?」
「リズィのママよ! あれから元気になったから、王都に戻ることになったの。マヒロも王都までどうしても一緒に行きたいっていうから、連れていってあげることにしたわ」
「おい、俺はそんなだだ捏ねてないぞ!」
「ふん、ママに「魔法を教えてくださいー」とか言って泣きついてたくせに!」
「ついてない! なんでそんな絡んでくんだよ!」
相変わらずの仲のようで、これだと引率は大変かもしれない。
「ロザリィ・ロザリンドです.........その節は......リズィがお世話になりました」
リズィちゃんのママは、緩く編んだ金髪を肩に流した綺麗な方だった。子どもがいるとは思えない若さで、見た目から年齢が推定できない。
「とんでもありません。ロザリィさんもお元気になられたということで、良かったですね」
「ええ......今日は復帰クエストで.........リズィ達とあのダンジョンを踏破してきました」
「僕の推定では21階層でしたが、復帰で1日攻略ですか」
ダンジョンを攻略するには、普通は途中に拠点を設置して少しずつ進んでいく極地法をとる。このやり方だとかなりの時間が掛かるものの、比較的安定して攻略が可能だ。
それを、まだまだ浅層とはいえ1日で踏破するなんて、圧倒的な実力がないとできない。流石は金星の魔法使いだ。
「ルークン.........今回の件で......ちょっとお話を......」
「何でしょう」
ロザリィさんが子どもの方に目をやると、ふたりは言い合いの最中で彫像のように硬直していた。
「リズィ達にはあまり聞かせたくないので......少し時を止めました」
「無詠唱とはさすがです。それで、具体的には何のお話を?」
「まずは御礼を......貴方により......祈りは導かれました」
「あー、ごたごたして誉められた内容じゃなかったですけれども」
「いえ...リズィだけでなく......私までこうして在ることができるとは... ࿙࿙です」
目線をそらす僕に、ぽそぽそと非言語の何かで答えるロザリィさん。あいにく僕に理解することはできない。
「それと...あの子......どう思いますか」
「マヒロ君ですか、まあ、普通の異世界の子どもですよね。持ちこんでいる情報も、原理までは理解していないようでしたから、大きな影響はないでしょう」
少なくとも、異世界の知識を術理に応用して魔法現象を実現させるほどの理解はなかった。
「いえ...どうして元の世界に戻らないのかと」
「さあ? 術理院としては、戻れる状態にありさえすればいいので聞きませんでした」
「術理院会員から見て理由が気にならないとなれば.........」
目を閉じて黙考したのち、カッと見開くリズィちゃんママ。
「࿙࿙࿙࿙ですね! 世界の࿙が増えるとは素敵なことです。これはぜひ見守っていかねばなりませんッ!」
いきなり性格が変わったように捲し立てはじめた。
僕の両肩をつかんで揺らしながら、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「ルークン...これからいくつの࿙࿙࿙࿙を見守れるか、とても楽しみですね......!」
「そうですね」
大教会徒のこの手の話は流すに限る。
「それと......御礼には足りませんが...これを......」
「品物まで、わざわざありがとうございます」
包みを机に置くと、止まっていた時間が動き出した。
「ロザリィさん。そういえば、あのダンジョンで何か感覚しませんでした? 嫌な予感というか」
「術理院の方でも......感じられましたか…? 《࿚࿚城》の兆しを......」
「ママ、ルークンはそうじゃなくて、変な道具で階段の模様を調べてたのよ」
時間が戻ったリズィちゃんが補足をする。
「そうなんです。その、階段の模様が5回対称性を有していた所が気になったもので」
「ルークン、その5回対称性って何なんだ?」
「例えば正5角形を1回転させると、1周する間に元の図形に5回重なる。1周動かした時に重なる回数で番号がついているんだ」
正3角形は3回対称性を持つし、直線上の2点なら2回対称性だ。
ダンジョンの階段には周期性のある模様のパターンが要請されるけれど、例えば正5角形で平面を敷き詰めようとすると必ず隙間ができてしまう。
5回対称性は周期構造をつくるには不安定で、自然なダンジョンには現れてこない。
いちおう、2種類のひし形を組み合わせると部分的に5回対称になる平面敷き詰めができることが、術理院のライブラリで調べて分かった。
ただし、このパターンでは周期性が少し落ちてしまうので、ダンジョンの構造として不利なことには変わりない。
「あと、高位悪魔が出た超階でもデータをとったんですが、特異点、例えて言えば空間そのものがこんがらがったようなものがあって」
「そんなこと言われても分かんないわよ!」
「リズィ......術理院会員のこの手の話は...流せばいいのよ......」
また悪い癖が出てしまった。
「今回のように超自然的なダンジョンが増えてくるかどうか、大教会徒の方で今後の予感とかあれば聞きたいと思いまして」
「私の感覚......言葉にすることは難しいですが.........恐らく......ルークンと似たことを予感しています」
術理院と大教会の2つのアプローチで似た推測をしているなら、大枠は外さないだろう。
「ルークンとママで全然違うこと言ってるようで、同じことを考えつくなんて不思議ね」
「それも࿙࿙よ......リズィ」
術理を用いるか、第6感を用いるかの違いで、それぞれに長所と短所がある。
だから術理院と大教会は、何かと助け合うこともある。
その後、僕は街の出口まで付いていって旅の見送りをした。
「みんな元気でね」
「ルークンもね! ࿙࿙の祝福がありますように!」
「痛っ、もっとまわり見て手を振れよ」
「楽しい旅に...なりそうね......」
リズィちゃんとマヒロ君が言い合いを始めている。ロザリィさんはこちらにお辞儀をしてから、ふたりを引き連れて旅立って行った。
レポートを術理院に提出して通常営業に戻した店にいると、ライトブラウンの兎耳がひょっこりドアからのぞいた。冒険者ギルド受付職員のソフィーさんだ。
「潰れないねー、ルークンの店は」
「実は、ロザリィさんからの御礼が相当な額のお金だったんですよ」
この前大量に使った紙とインクの補填どころか、借金の一部を返せるくらいだった。
「何でか客足が遠退いたままですが、じきに戻ってくれば大丈夫です」
「あれ、ルークン知らないの? 今までルークンとこでしか売ってなかった薬、教会ですごい安く売りはじめたよ」
ソフィーさんが、頭上に伸びた兎耳を横に振りながら言う。
「まさか。普通に製薬したらかなりの値段になるものばかりですよ。うちの技術が簡単に真似されるとは思えませんし」
「技術がどーとかは知らないけど、この前天使が降臨したとかの跡地あるじゃん。あそこの花畑から良い感じの薬草が取れるようになったらしいよ」
あったね、そんな花畑。
特に問題がなさそうだからと放置していたら、そんなことになっていたとは。
「いやでも。でもですね、新しい薬草からの製薬方法なんてすぐには分からないはずでしょう」
「教校の子が、話題のマヒロ君に教わったって。あの子も若いのによく知ってるよね」
そういえばダンジョン内でも、大教会の教え子と知り合いのような話しぶりだった。
ポーションは神様スキルで1発調製してるばかりと思っていたけれど、ちゃんとレシピがあったのか。
「とにかく、教会で常備薬を安価に売るようになったってことですか」
「そーそー、売上は子どもたちの生活費にするんだって」
「それは、困ったな。ソフィーさん、それを教えるためにわざわざ来てくれたんですか?」
ソフィーさんが長い耳を縦に折り畳んで、指でバツ印をつくっていた。
「それがさー、二日酔いの薬だけは売ってないんだよね。己を律することができない者に反省を促すー、とかで。だからこれ買いに来たの」
「毎度ありがとうございます」
2日酔いは絶対に予防できる体調不良だから、教会も薬を出さないのだろう。絶対的な予防とはもちろん、お酒を飲まない事だ。
「それにしても、何か考えないと赤字ですね」
「いっそのこと冒険者になればいいんじゃない?カナリアoもルークンのこと誉めてたよ」
「危ない仕事はしたくないですから」
術理院会員は魔法を使うのにもお金がかかり、今のままでは出費が収入を上回る。あるいは無理して等級が高いクエストを受注しても、失敗したら花畑をあちこちに作ることになりかねない。
「ま、ルークンなら何か思いつくでしょ」
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