異世界召喚でわかる魔法工学

M. Chikafuji

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Chapter 2 ある転生者の場合

2.7 One-to-one correspondence

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 冒険者ギルドのカウンターにて、カナリアoさんに報告を済ます。

「精霊がとらわれていたとのこと、承知致しました。しかし、クエストの範囲から外れるようであれば、一度報告に戻って頂きたく思います」

「前回に引き続きすみません」

 冒険規定で決められた依頼内容から大きく外れると、冒険の神マリノフの庇護下から外れて、難度がクエスト等級以上に跳ね上がる可能性が出てくる。

「冒険は自己責任とはいえ、皆様ひとりひとりが貴重な要員です。それに我々も、難度に見あった報酬を支払うことができなくなりますので」

「即席のパーティを組んでいるせいか、どうしても緊急対応になってしまうんですよね」

 カナリアoさんは僕の愚痴ぐちを聞き流して魔力板を操作し、クエスト達成確認の事務処理をする。

「全て含めてルークン様に達成できると、冒険規定に基づいた判断がなされています」

「あー…」

 冒険規定は冒険の神が定める。術理院会員はただでさえ庇護下から外れやすいので、もっと気をつけるべきなのだろう。

 ここのところ街の外に出る度に緊急事態になるし、たまには大教会にお祈りに行くべきかもしれない。

 ギルド併設の酒場で、食事を取りながら状況整理を行う。

「結局のところ、目的は土精霊ノームの救出だったってことですか?」

「ええ、うちのぶどう畑を手伝ってくれないかと思って。まさか、他の精霊までとは思っていなかったけど」

「全属性の精霊と契約するなんてぇ、さすがですお嬢様ですぅ! まぁ? 先に聞いてたらぁ? 真っ先に休み貰ってぇ、お先真っ暗な死地には絶対行ってませんがねぇ!」

 メイドさんはジョッキを煽り、テーブルに叩きつけると、給士の方に1本指を見せておかわりを要求している。ついでにレオ君は料理を追加注文している。

「だから、本当は土精霊ノームだけのはずだったんだってば。他の精霊は、似たような他のダンジョンにいるはずで、それぞれ適正レベルが…」

「さすがですお嬢様ですぅ! 願わくばコトを成す前にひとこと欲しいとこですねぇ! もう一杯!」

「俺様もおかわりだ!」

 驚異的なスピードで出来上がっていくメイドさん。
 そばにいるサラ君は自身の容積を無視した量の食事を詰め込んでいくし、手がつけられない。

「似たようなダンジョンっていうと、あの立体迷宮のような?」

「ええ。見た目はまったく同じで、⧉⧉⧉⧉の謎解きリドルをクリアして進んでいくの。でも、どうしてルークンの方には全属性の精霊がいたのかしら?」

 恐らく、僕の方の迷宮に全ての精霊がいたわけではないのだろう。

「僕はリドルを解いたのではなく、魔法で精霊を探索したんです。それぞれの入口が異なっているといっても、迷宮の構造が同じというなら、まとめて検出して連れてきてしまったのでしょう」

 あの立体迷宮は複数のダンジョンと繋がっている特殊な階層になっていて、それぞれの入口に対応した区域があったと推察される。
 ダンジョンAから入ると迷宮階層の区域aに、ダンジョンBから入ると区域bに、といった具合だ。

 僕達が迷宮の区域を越えて移動することはできないとしても、魔力は同じ階層構造であれば簡単に伝播でんぱする。
 そして精霊は物質としての実体を持たないから、魔法で簡単に連れてこられたと考えられる。

「チートじゃないそんなの」

「ズルってことですか?  そうではなくて、迷宮の性質で自然とそうなってしまったんですよ。いて言うなら、迷宮の設計が悪いんです」

「まあ、良くわかんないけど。私の知ってる⧉⧉⧉⧉とは違ってきてるなら、それはそれで良いことだわ」

 聞けばお嬢様は、将来的に破滅する運命を予知しているそうで、それを回避するために色々動いているらしい。

「破滅を回避するために、僕にもできることがあったら遠慮なく言ってくださいね」

「くださいね? 無いですねぇ!! 術理院会員な者にぃ…ヒック…頼むくだりはもぅ無いですねぇ! ねぇ!?」

「え、私に言ってる? こう言ってくれてるわけだし、頼ってもいいんじゃない?」

 真っ赤になったメイドさんがお嬢様の肩に手を置きながら盛大にため息をつく。

「全てはヤバな召喚士に始まり、終わってゆくの…でしたとさ」

「なに言ってるの?」

「術理院会員に絡んでなきゃぁ、あんな羽目は避けられたんですよぉ! 破滅を回避できても、それよりヤバな場面が回ってくんですよぉ! 術理院に頼むとぉ!」

「!?」

 お嬢様の胸ぐらを掴んで揺さぶるメイドさん。領主様にバレたら職を失うんじゃないかと思う。



「術理と言えばルークンよー、召喚魔法、甘くなってんじゃねえの?」

「たしかにレオ君みたいな星霊を喚ぶつもりは無かったんだよね」

「ま、おかげで俺様はこうして美味いモン食えるんだけどな!」

 自分より大きい串焼きをどうやってか飲み込むレオ君。
 この最弱形態でも星霊のレベルは65535、一緒に冒険するには諸刃の剣だ。

 でも、このような強大な存在を召喚するのは、実はそこまで難しくない。
 世界間を上手く繋ぐことさえできれば、水が高い所から低い所に流れていくように召喚できてしまう。

 だから僕たち召喚士はむしろ、強大な存在をに気を使っている。ところが、そのための精密な魔力調整が、思ったように機能していない。

「もちろん改善は目指すけれど、召喚の1対1がとれているから、酷いことにはならないはずだよ」

「その一対一って、どういうことなの?」

「この世界に召喚されたレオ君ひとりに対して、星霊の世界に住むレオ君がひとり定まる、これを1対1の関係One-to-one correspondenceと言います」

 もし1対1の関係が成立しないと、この世界に召喚されたレオ君ひとりに対して、星霊の世界に住むレオ君がふたり以上定まったり、ひとりも定まらなかったりするだろう。

「この世界から召喚や送還をする度に、レオ君が増えたりいなくなってしまったりするなら、それは大変なことです」

「ヒック…何でもできる最強の術理でどぉにかすりゃあいーでしょーがぁ」

「誤解ですよ。術理には限界があります」

 何でもできるのは大教会の魔法だ。僕達が実現する魔法は術理で説明できることだけだし、それになりにお金もかかる。

「どぉですかねぇ! こちとらどぉにかなりかけて、どぉしようもなかったってのに…ヒック、ダンジョンでも動揺せずですしぃ」

「精密な魔力調整のためには、常に冷静でいることが必要です。それに、少しは大変でしたが、よくある冒険だったでしょう」

 ジョッキをかたむけるメイドさんの動きが止まる。

「…少しは? …よくある? ……お嬢様ぁ!!  私はもう二度と術理院会員な者と冒険に行きませんよぅ…!」

「泣かない」

 お嬢様は肩にもたれてきたメイドさんを押し返す。

「一対一の関係、っていったわよね? …その、私は今と前世で、二つの世界の記憶があるんだけど」

「記憶がどうかよりも、この世界と前世の世界で、それぞれ貴方がひとりずつ定まることが重要です」

 僕たちがこの世界でただひとり定まるというのは、とても重要な性質だ。
 だから、この世界と1対1の関係がある世界なら、その世界でも僕たちはただひとり定まる。

「異世界で貴方がふたり実在したのなら、その記憶を持っているのは珍しいことですよ」

「前世の私はともかく、ゲームのキャラは…、実在っていうのとはちょっと違うのよね」

 そう言って、盛り上がる机の片側に視線を送る。

「俺様おかわり!」

「こっちももう一杯ぃ!」

「あのー、このテーブルまだ飲みます?」

「言うまでもなくぅ! 今日は祝杯なんですぅ!この生命を祝福するんですぅ!」

 この世界に実在を誇るメイドさん達に、お嬢様はガタガタ椅子を動かして距離を取る。

「そういえばダンジョンの中で、他にも転生者がいるって言ってたじゃない。ルークンは会ったことある?」

「僕が実際に会ったのは、魔力の無い世界からの召喚者だけです。この世界とは1対0の関係になりますが、超自然的に召喚が実現していました」

 本来、魔力の無い世界に住む存在は、この世界にひとりも定まらないので、召喚魔法は失敗する。ところが僕が会ったマヒロ君は、どこかの神に超自然的な魔力を付与されて実在していた。

 ちなみに召喚は実体を伴って世界間を移動する現象、転生は実体を伴わずに世界間を移動する現象を指すことが多い。ただし、魔法現象としては厳密な区別はなくて、同じようなものと考えて良い。

「魔力のない世界、かあ。私の前世もそうだったのよね」

「魔力のない世界の情報は珍しくて、術理院では色々と聴取しているんです。よかったら」

「お嬢様を解剖しちゃだめぇ!」

「!?」

 メイドさんが席をスライドしてきた。
 当然のようにお嬢様の膝の上に座っているけれど、いいのだろうか。

「交渉なら…ヒック…この私を通してくれないと困りますな」

「膝からどいて」

 機会は改めた方が良さそうだ。

 そろそろ帰り支度を、と思ってレオ君の方を見ると、ライトブラウンの大きい兎耳がピンとたっているのが見えた。

 兎耳?

「その時間さえも凍りつくという究極氷魔法、それが眼前に迫る極限でこそ、俺様のハートは燃え盛るわけだな!」

「へー、すごいすごい! あ、ちょっとごめん。すいませーん!その揚げ野菜こっち! 席変えたから!」

「お、あれもうまそーだな! 俺様も食っていいか?」

「あたしがおごったげるよ」

 明らかにジョッキを持つソフィーさんだった。
 そういえば、さっき声が聞こえたような。

「ソフィーさん、いつのまに」

「やー、盛り上がってるし、数が多い方が楽しいと思ってさ」

「そぅですよねぇ! 優しい! 」

「仲間に入れてくれた!優しい!」

「優しさに!」

「乾杯!」

 腕を組んで乾杯しあう酔っぱらいふたり。
 どこで覚えたのか、レオ君が音頭おんどをとって飲むペースを煽っている。

「これ、長そうね…」

「こういう日もありますよ」





 しばらく後、ふたりが潰れてしまったので薬を飲ませて介抱する羽目になった。
 さらに、起き上がっては「私たちはチームフェニックス」などと別店舗に繰り出していったので、僕達は解散した。

「メイドさん、護衛なんですよね?」

「あーいうとこあるのよ」

 ひと息ついてレオ君の方を見ると、背を向けた姿が薄れて消え始めている。魔力はまだ十分にあるはずだけれど、どうしたんだろう。

「……どうやら、時間みてーだな」

「レオ君」

「そんな顔すんな。またいつでも、助けにいくからよ…!」

 3角形の突起が並んだパーカーをの背を僕に向けたまま、横に伸ばした腕の先で親指を立てた。

「助けられるような状況にならないといいんだけれど」

「そうだ、その意気だぜ! それじゃーな、ルークン。楽しかった…な…!」

 消えていくレオ君は、僕に向き直って手を振り返す。その姿が完全に光になって消えてしまうと、あたりは静かな夜の静寂に包まれた。

「何の寸劇なの?」

「レオ君は、ああいうところがあるんですよ」




 
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