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第三章 共和国編
第135話 諸島連合
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ひとまず諸島連合を構成する島々のおよそ中心と思われる海の上空で静止し、俺は海上に点在する緑色や褐色の塊を眺めている。
高層の建物どころか、ここから見える限りではコンクリートの建物すら存在しない。かなり文明が遅れている。
アークドラゴンはかなりでかいと聞く。それが暴れていればひと目で分かるはずだが、どこにもその気配はない。
空間把握モードを広域に展開して探すか?
いや、ここまでの飛行で疲れた体を休めるべきかもしれない。
実のところ、盲目のゲンと戦ったとき、遠距離移動後にまともな休息を取らずに戦闘を始めたことを後悔した。
アークドラゴンの強さが未知数である以上、万全に備えるべきだ。
俺は近くの島へと降りることにした。
選んだ島は比較的大きい島だ。島が小さすぎると人口が少なすぎて国家の体をなさず、まともな設備もないだろうと予想してのことだ。
だが、よくよく考えてみると言葉は通じるのだろうか。ジーヌ共和国の難民が話していた言葉は俺たちと共通のものだったが、それが移入してから学んだ結果なのか分からない。もし言葉が通じないならば宿を取れない。
そんなことを考えていたが、半時ほど歩きまわってその考えが甘いと知った。
そもそもこの国には宿が存在しない。この国の人間にとって、よそ者は歓迎すべき客などではなく、排除すべき侵入者でしかなかった。
俺は斧を両手で握り締めた島民たちに囲まれていた。
麻で作った服を着ている者が多いが、大陸人みたいに綿製の衣料をまとう者もいた。いずれも泥がにじみ、薄汚れている。
斧はお手製なのか、柄の部分がモロに樹の枝で作られているため、カクカクに折れていてまっすぐになっていない。刃の部分も大小さまざまで、ものによっては研磨が足りずにただの鈍器になっているものもある。
そんな斧を持つ島民たちが少しずつにじり寄ってくるが、二十メートルほどの距離を開けて止まった。
泥にまみれて浅黒くなった顔たちが、警戒心をむき出しにして睨みつけてくる。
「勝手に入って悪かった。すぐに出ていく」
ここは彼らのテリトリーだ。俺は両手を挙げ、自分を包む空気を持ち上げて空へゆっくりと上がっていく。
そのときに、背後からブオンブオンという音が近づいてきて、後方の空気の壁を何かが叩いた。
後ろを振り返ると、島民の一人が俺に向かって斧を投げたのだった。
俺は我慢した。俺の心の中にある何かが、同じく心の中にある袋の中に落ちて、袋を吊るす紐をずしりとひっぱった。
俺は自分に落ち着くよう言い聞かせた。いまのはおそらく仕方がない。
言葉が通じないのであれば、俺の「出ていく」という意思表明も伝わらないし、異なる常識の国であれば両手を挙げる行為が「危害を加えませんよ」という意思表示であることも理解できないだろう。
これだけの大人数がいれば、判断を誤る者も出てくるというものだ。
俺は一度止めていた上昇を再開した。
ブオンブオン、カツン。
二回目。今度は右側からだった。さっきとは別の一人が斧を投げてきた。
こいつらの腕力と投擲精度はなかなかのもので、いまの二つは見事に俺を包む空気に命中していた。
俺は斧を手放したであろう人物を探したが、元々斧を持っていない者もいるらしく、誰が犯人か分からなかった。
俺の中で、先ほど袋の中に入った何かが分裂した。体積が増えて袋を膨らませた。
何か警告すべきかと思ったが、言葉が通じないのなら仕方がない。
俺は再び黙って上昇を再開した。
「攻撃してこねーぞな」
「あいつ逃げるぞな」
「撃ち落として服だけでも剥ぎ取るぞな」
これは島民たちの声だ。方言なのか、妙な語尾がついてはいるものの、文法や単語など言語の根本的なところは共通だった。
ということは、先ほどの俺の言葉も理解できていたはずだ。
それなのに彼らは攻撃してきた。しかも、俺が攻撃しないと見たのか、この身ひとつの俺から服を奪おうとしている。
斧を投げるということは、俺を殺してでも奪おうとしていることになる。
三つ目、四つ目の斧が飛んできた。そして、島民たちはいっせいに斧を投げはじめた。
俺の体から十センチほど離れた場所で斧がカツンカツンと弾かれる。弾かれた斧が誰かの頭に当たり、そいつが倒れた。
ほかの誰かがそいつに駆け寄った。助けるのかと思いきや、斧を拾ってそいつも俺に投げてきた。
俺の心にぶら下げられた袋の中では、先ほど分裂した何かが弾けてしまった。
それは固体が気化したのと同じで急激な体積膨張をともない、袋の口を縛っていた紐が千切れ飛んだ。
「おまえら……」
彼らの行為は俺の想定を完全に超えたものだ。
怒りの感情がうまく言葉に変換されない。
元々俺は異世界の人間だ。この世界の人間なんてどうでもいい。それこそ俺の気まぐれで殺しまくっても構わない。そんな考えをしたこともあったが、そんな意識はいろいろな人と関わることで薄れていったし、むしろそんな野蛮な意識では駄目だとさえ思うようになっていた。
いま、人を殺したいと思う自分の存在に血の気が引く。
もし空気を全身にまとっていなければ、俺は斧の直撃を受けて死んでいたはずである。
そういうふうに、俺は立てた仮定の中でそいつが人を殺めてしまっていたら、俺の中ではそいつを殺人者と認定して極刑の判決を下す。
それでいま、ここにいる者の大多数が極刑に値する罪人になっている。
はち切れた袋から噴き出した蒸気が俺の心にまとわりつき、じんじんと中身を焼いていく。俺の思考は茹であがり、どんどんのぼせていっている。
「エスト、やめたほうがいい。後悔することを分かっているのに、それをやろうとしている」
俺の真正面にエアが顕現した。
斧は彼女にも飛んでくるが、すり抜けるため当たらない。
「エア、後悔先に立たずって言ってな、後悔はやった後からしかできねーんだよ」
言った後で自分でも何が言いたかったのか分からなくなった。
エアは俺の顔をまじまじと見つめてくるが、俺は下方の島民どもを見ていた。
「私はエストの理性を代弁しただけ。私はエストの理性に同感」
「俺の感情がまずいか? 安心しろ。メインディッシュは取ってある」
治まらない。
いまさらながら、俺は空間把握モードを展開して島民一人ひとりの行動を監視した。それから空気の手を無数に伸ばした。
標的は俺とエアに斧を投げた者。
「完全に捕捉した。刑を執行する!」
空気の手は捕捉した標的の首を後ろから掴み、腕を振り上げるように持ち上げ、そして地面へと叩きつけた。
顔面に硬い砂と激突する衝撃を受けた標的たちは、呻きをあげることはできても立ち上がれなかった。
それを目撃した周囲の者たちは、刑を執行された同胞を見捨てて一目散に逃げ散った。
静寂が訪れた。
その静寂に挑むのは風のみ。
彼らの家はかやぶきの屋根を丸太の柱と藁の壁が支える構造となっている。家としては底辺といえるほど脆弱な部類だ。火に弱いし、強い風でも壊れ得る。
ちりぢりに逃げた島民たちが家屋に入りきるのを待ち、空間把握モードで住人のいない家屋を把握する。
地面に突っ伏している人数に比べ、留守の家屋数は少ない。一つの家屋で、おそらく血縁とは無関係に複数人で暮らしているのだろう。
制裁に偏りができてしまうのは致し方ない。見せしめだ。欲のために無遠慮に人の命を狙う者の報いというものを、全島民に思い知らせるのだ。
俺は留守家屋を空気の圧力で潰し壊した。
すっきりしない溜息を一つこぼし、俺は上昇を再開した。
「エア。殺さなかったぞ。誰一人殺していない。極刑に値する罪人どもだったが、殺しはしなかった。満足か?」
「私が満足かどうかは、エストが満足かどうかによる。だから、その答えはエストがいちばん分かるはず」
もう一度吐き出した溜息も、やはりすっきりしないものだった。
俺は人間で、エアは精霊。エアは俺の感情を食べて成長し、容姿が本物の人間に近づき、人間らしい感情を芽生えさせる存在。
容姿からして彼女が人成するのも近いはずだ。だが、常に冷静な俺よりも冷静だ。それは感情が未成熟だからか? それとも、そういう個性か?
いずれにせよ、俺より冷静な者がいることが癪だ。昔ならまだしも、いまとなっては感情の起伏は俺とエアで逆転していてもいいはずなのだ。
「ああ、満足はしていないさ。だが、後悔もしていない。元々俺はあいつらをアークドラゴンから守るためにわざわざここまで来たのだ。それを俺が殺していては元も子もない」
「それは嘘。独自の基準とはいえ、自分の決めた基準を曲げて判決の執行内容を変えたことを後悔している。それをすると筋が通らなくなるから。刑の執行ではなく、ただの暴力としておこなうべきだった」
「ああ、そうだよ。勢いで刑の執行と言ったのは失言だった。だが、あれは単なる暴力ではない。教育だ。一方的であることを自覚した教育だ。そのおこないはおそらく無駄で自己満足だということを自覚した上での教育だ」
こういう話を聞いたことがある。
極めて後進的な民族に対して農業を教えた場合、彼らは種や苗を食べてしまい農業にならない。生活を豊かにするための機械や装置を与えた場合、それを分解してパーツを売り払ってしまう。生活の援助として現金を与えた場合、その日のうちに食料を買えるだけ買って、食べきれない分を腐らせてしまう。
この話は以前シャイルから聞いた難民たちの特徴とも一致する。
彼らに学ばせるのは非常に困難だ。おそらく、赤ん坊を取り上げて最初から教育を続けでもしなければ無理だ。
そう、だから無駄だろうと言ったのだ。それを分かった上でやったのだから、体罰、いや、やはりただの暴力だろう。
ただ、彼らは俺の命を奪おうとした。俺の心を鬼にしたのは彼ら自身だ。俺がやった行為自体に後悔はない。正当化しようとするから悩んでしまうのだ。
「エスト、あなたは悩むだけまだマシな人間だと思う」
「そうかい、ありがとよ」
エアに慰められるとは。道具みたいに言われるがままだった奴が、いまでは対等に会話ができるようになっている。
やはり、感情も含めてエアは成長している。
エアが人成すれば、俺の空気操作の力は格段に上がるだろう。
俺はすでに精霊が人成していたリーズ・リッヒや盲目のゲンと対等に戦い勝利を収めたが、彼らとの力量の差も、より明確になることだろう。
島に降りて休憩するはずが、結局、疲労が増してしまった。
だが、モチベーションはむしろ上がった。
これからメインディッシュだ。
アークドラゴンを下し、勝利の美酒をエアに味わわせてやる。エアとの契約を履行し、俺は最強になる。
高層の建物どころか、ここから見える限りではコンクリートの建物すら存在しない。かなり文明が遅れている。
アークドラゴンはかなりでかいと聞く。それが暴れていればひと目で分かるはずだが、どこにもその気配はない。
空間把握モードを広域に展開して探すか?
いや、ここまでの飛行で疲れた体を休めるべきかもしれない。
実のところ、盲目のゲンと戦ったとき、遠距離移動後にまともな休息を取らずに戦闘を始めたことを後悔した。
アークドラゴンの強さが未知数である以上、万全に備えるべきだ。
俺は近くの島へと降りることにした。
選んだ島は比較的大きい島だ。島が小さすぎると人口が少なすぎて国家の体をなさず、まともな設備もないだろうと予想してのことだ。
だが、よくよく考えてみると言葉は通じるのだろうか。ジーヌ共和国の難民が話していた言葉は俺たちと共通のものだったが、それが移入してから学んだ結果なのか分からない。もし言葉が通じないならば宿を取れない。
そんなことを考えていたが、半時ほど歩きまわってその考えが甘いと知った。
そもそもこの国には宿が存在しない。この国の人間にとって、よそ者は歓迎すべき客などではなく、排除すべき侵入者でしかなかった。
俺は斧を両手で握り締めた島民たちに囲まれていた。
麻で作った服を着ている者が多いが、大陸人みたいに綿製の衣料をまとう者もいた。いずれも泥がにじみ、薄汚れている。
斧はお手製なのか、柄の部分がモロに樹の枝で作られているため、カクカクに折れていてまっすぐになっていない。刃の部分も大小さまざまで、ものによっては研磨が足りずにただの鈍器になっているものもある。
そんな斧を持つ島民たちが少しずつにじり寄ってくるが、二十メートルほどの距離を開けて止まった。
泥にまみれて浅黒くなった顔たちが、警戒心をむき出しにして睨みつけてくる。
「勝手に入って悪かった。すぐに出ていく」
ここは彼らのテリトリーだ。俺は両手を挙げ、自分を包む空気を持ち上げて空へゆっくりと上がっていく。
そのときに、背後からブオンブオンという音が近づいてきて、後方の空気の壁を何かが叩いた。
後ろを振り返ると、島民の一人が俺に向かって斧を投げたのだった。
俺は我慢した。俺の心の中にある何かが、同じく心の中にある袋の中に落ちて、袋を吊るす紐をずしりとひっぱった。
俺は自分に落ち着くよう言い聞かせた。いまのはおそらく仕方がない。
言葉が通じないのであれば、俺の「出ていく」という意思表明も伝わらないし、異なる常識の国であれば両手を挙げる行為が「危害を加えませんよ」という意思表示であることも理解できないだろう。
これだけの大人数がいれば、判断を誤る者も出てくるというものだ。
俺は一度止めていた上昇を再開した。
ブオンブオン、カツン。
二回目。今度は右側からだった。さっきとは別の一人が斧を投げてきた。
こいつらの腕力と投擲精度はなかなかのもので、いまの二つは見事に俺を包む空気に命中していた。
俺は斧を手放したであろう人物を探したが、元々斧を持っていない者もいるらしく、誰が犯人か分からなかった。
俺の中で、先ほど袋の中に入った何かが分裂した。体積が増えて袋を膨らませた。
何か警告すべきかと思ったが、言葉が通じないのなら仕方がない。
俺は再び黙って上昇を再開した。
「攻撃してこねーぞな」
「あいつ逃げるぞな」
「撃ち落として服だけでも剥ぎ取るぞな」
これは島民たちの声だ。方言なのか、妙な語尾がついてはいるものの、文法や単語など言語の根本的なところは共通だった。
ということは、先ほどの俺の言葉も理解できていたはずだ。
それなのに彼らは攻撃してきた。しかも、俺が攻撃しないと見たのか、この身ひとつの俺から服を奪おうとしている。
斧を投げるということは、俺を殺してでも奪おうとしていることになる。
三つ目、四つ目の斧が飛んできた。そして、島民たちはいっせいに斧を投げはじめた。
俺の体から十センチほど離れた場所で斧がカツンカツンと弾かれる。弾かれた斧が誰かの頭に当たり、そいつが倒れた。
ほかの誰かがそいつに駆け寄った。助けるのかと思いきや、斧を拾ってそいつも俺に投げてきた。
俺の心にぶら下げられた袋の中では、先ほど分裂した何かが弾けてしまった。
それは固体が気化したのと同じで急激な体積膨張をともない、袋の口を縛っていた紐が千切れ飛んだ。
「おまえら……」
彼らの行為は俺の想定を完全に超えたものだ。
怒りの感情がうまく言葉に変換されない。
元々俺は異世界の人間だ。この世界の人間なんてどうでもいい。それこそ俺の気まぐれで殺しまくっても構わない。そんな考えをしたこともあったが、そんな意識はいろいろな人と関わることで薄れていったし、むしろそんな野蛮な意識では駄目だとさえ思うようになっていた。
いま、人を殺したいと思う自分の存在に血の気が引く。
もし空気を全身にまとっていなければ、俺は斧の直撃を受けて死んでいたはずである。
そういうふうに、俺は立てた仮定の中でそいつが人を殺めてしまっていたら、俺の中ではそいつを殺人者と認定して極刑の判決を下す。
それでいま、ここにいる者の大多数が極刑に値する罪人になっている。
はち切れた袋から噴き出した蒸気が俺の心にまとわりつき、じんじんと中身を焼いていく。俺の思考は茹であがり、どんどんのぼせていっている。
「エスト、やめたほうがいい。後悔することを分かっているのに、それをやろうとしている」
俺の真正面にエアが顕現した。
斧は彼女にも飛んでくるが、すり抜けるため当たらない。
「エア、後悔先に立たずって言ってな、後悔はやった後からしかできねーんだよ」
言った後で自分でも何が言いたかったのか分からなくなった。
エアは俺の顔をまじまじと見つめてくるが、俺は下方の島民どもを見ていた。
「私はエストの理性を代弁しただけ。私はエストの理性に同感」
「俺の感情がまずいか? 安心しろ。メインディッシュは取ってある」
治まらない。
いまさらながら、俺は空間把握モードを展開して島民一人ひとりの行動を監視した。それから空気の手を無数に伸ばした。
標的は俺とエアに斧を投げた者。
「完全に捕捉した。刑を執行する!」
空気の手は捕捉した標的の首を後ろから掴み、腕を振り上げるように持ち上げ、そして地面へと叩きつけた。
顔面に硬い砂と激突する衝撃を受けた標的たちは、呻きをあげることはできても立ち上がれなかった。
それを目撃した周囲の者たちは、刑を執行された同胞を見捨てて一目散に逃げ散った。
静寂が訪れた。
その静寂に挑むのは風のみ。
彼らの家はかやぶきの屋根を丸太の柱と藁の壁が支える構造となっている。家としては底辺といえるほど脆弱な部類だ。火に弱いし、強い風でも壊れ得る。
ちりぢりに逃げた島民たちが家屋に入りきるのを待ち、空間把握モードで住人のいない家屋を把握する。
地面に突っ伏している人数に比べ、留守の家屋数は少ない。一つの家屋で、おそらく血縁とは無関係に複数人で暮らしているのだろう。
制裁に偏りができてしまうのは致し方ない。見せしめだ。欲のために無遠慮に人の命を狙う者の報いというものを、全島民に思い知らせるのだ。
俺は留守家屋を空気の圧力で潰し壊した。
すっきりしない溜息を一つこぼし、俺は上昇を再開した。
「エア。殺さなかったぞ。誰一人殺していない。極刑に値する罪人どもだったが、殺しはしなかった。満足か?」
「私が満足かどうかは、エストが満足かどうかによる。だから、その答えはエストがいちばん分かるはず」
もう一度吐き出した溜息も、やはりすっきりしないものだった。
俺は人間で、エアは精霊。エアは俺の感情を食べて成長し、容姿が本物の人間に近づき、人間らしい感情を芽生えさせる存在。
容姿からして彼女が人成するのも近いはずだ。だが、常に冷静な俺よりも冷静だ。それは感情が未成熟だからか? それとも、そういう個性か?
いずれにせよ、俺より冷静な者がいることが癪だ。昔ならまだしも、いまとなっては感情の起伏は俺とエアで逆転していてもいいはずなのだ。
「ああ、満足はしていないさ。だが、後悔もしていない。元々俺はあいつらをアークドラゴンから守るためにわざわざここまで来たのだ。それを俺が殺していては元も子もない」
「それは嘘。独自の基準とはいえ、自分の決めた基準を曲げて判決の執行内容を変えたことを後悔している。それをすると筋が通らなくなるから。刑の執行ではなく、ただの暴力としておこなうべきだった」
「ああ、そうだよ。勢いで刑の執行と言ったのは失言だった。だが、あれは単なる暴力ではない。教育だ。一方的であることを自覚した教育だ。そのおこないはおそらく無駄で自己満足だということを自覚した上での教育だ」
こういう話を聞いたことがある。
極めて後進的な民族に対して農業を教えた場合、彼らは種や苗を食べてしまい農業にならない。生活を豊かにするための機械や装置を与えた場合、それを分解してパーツを売り払ってしまう。生活の援助として現金を与えた場合、その日のうちに食料を買えるだけ買って、食べきれない分を腐らせてしまう。
この話は以前シャイルから聞いた難民たちの特徴とも一致する。
彼らに学ばせるのは非常に困難だ。おそらく、赤ん坊を取り上げて最初から教育を続けでもしなければ無理だ。
そう、だから無駄だろうと言ったのだ。それを分かった上でやったのだから、体罰、いや、やはりただの暴力だろう。
ただ、彼らは俺の命を奪おうとした。俺の心を鬼にしたのは彼ら自身だ。俺がやった行為自体に後悔はない。正当化しようとするから悩んでしまうのだ。
「エスト、あなたは悩むだけまだマシな人間だと思う」
「そうかい、ありがとよ」
エアに慰められるとは。道具みたいに言われるがままだった奴が、いまでは対等に会話ができるようになっている。
やはり、感情も含めてエアは成長している。
エアが人成すれば、俺の空気操作の力は格段に上がるだろう。
俺はすでに精霊が人成していたリーズ・リッヒや盲目のゲンと対等に戦い勝利を収めたが、彼らとの力量の差も、より明確になることだろう。
島に降りて休憩するはずが、結局、疲労が増してしまった。
だが、モチベーションはむしろ上がった。
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