我輩は人類を蹂躙する。~どんなに勇者を転生させても無駄だ。《全知全能最強無敵絶対優位》の我輩がすべて返り討ちにして世界を滅ぼしてやるわ!~

日和崎よしな

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第20話 我輩 VS. モフモフの幻獣フェンリル

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 我城に来訪者が現れた。

 勇者ではない。モンスターだ。
 このパターンは前にもあったが、今回はモンスター自身が転生者というわけではない。転生者のペットがやってきたのだ。
 純白に輝く長い毛並をまとった、巨大な狼だ。

「私は幻獣フェンリルです。あなたを倒しにきました」

「これはご丁寧にどうも……て、なるわけねーだろ! ペットだけ寄こして主人が来ないとはどういう了見だ!」

 これは質問ではなく詰問という名の圧力である。全知である我輩にはすべてお見通しだ。

 フェンリルの主人は戦えない。それは単純に強くないからだ。

 フェンリルの主人は転生時に得た女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》で、「強くて安心できる存在に守ってもらいたい」と願い、S国では伝説の存在とされる《幻獣フェンリル》をペットとして獲得した。

 それ以来、すべての戦闘をフェンリルにやってもらっている。ギルドで受けた依頼もすべてフェンリルにやらせ、それで稼いだ金で生活している。

「ご主人様は優しい心の持ち主なのです。他者と戦うなんてできる人ではありません」

「いや、我輩と戦う約束で女神のギフトをもらっているんだよね? 戦う意思がないってことは、女神をだましたってことになるけど。それ、詐欺じゃん」

「いえ、だからこうしてご主人様に仕える私が戦いに来たのです」

「つまり、おまえの独断じゃなくておまえの主人の意思で来たってことだよね? だとしたら、戦わない理由は『優しいから』じゃないでしょ。相手を攻撃する意思自体はあるんだから」

 そもそも我輩が「どういう了見だ!」と詰問したのは、こいつの主人自身が戦わないことを言っているのではない。戦わないにしても見守りにすら来ないことを言っているのだ。

 面倒になったので、我輩は全能の力をもって、こいつの認識のズレを強制的に直した。

「い、いま、何が起こったのです……?」

「我輩が強制的に理解させたんだよ」

 通常、その者に理解できないレベルのことを無理やり理解させてしまうと、その者はもはや別人といえる状態になってしまう。
 だがこれは勘違いを正しただけなので、人格への影響はない。

「そんなことができるとは、あなた、何者です!?」

「いまさら訊くの? 我輩は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》だ。その名のとおり、ありとあらゆるすべてのことを知っているし、不可能と思われているようなどんなことでも実行することが可能だし、いかなる存在よりも強いし、どんな攻撃も我輩には効かない。絶対優位だから、我輩を倒すための抜け道なんてものも存在しない」

「それが本当なら勝てないではないですか」

「そうだよ」

 フェンリルは我輩が嘘を言っているのではないかと疑っていたので、これが真実であることも強制的に理解させた。

「……帰ります」

「おいおいおい、待て! 帰すわけがないだろ。戦いを挑んでおいて自分が勝てないと知ったときだけ『やっぱなし』は虫がよすぎるだろ。それはネット対戦ゲームで負けそうになったときに通信切断する奴と同じおこないだぞ。卑怯、卑劣、愚劣! 最低だ」

 きびすを返したフェンリルの足は止まった。S国では伝説の幻獣ともてはやされた奴がそこまで愚弄されて黙って引き下がれるはずがない。

 しかし同時に、我輩には絶対に勝てないことも知っている。ヤケを起こして飛びかかるということはしない。
 プライドのせいで八方塞がりになってしまっている。

 仕方ないので我輩は行動選択を手伝ってやることにした。

「それにおまえが帰るってことは、おまえの主人が女神との約束を破ることになるぞ」

「あなたは私に立ち向かわせたいのですね。弱い者いじめが趣味なのですか?」

「我輩がいじめたくなるのは弱い者じゃなくて無礼者だ。おまえ、敬語を使っているからって礼儀を尽くせているなどと思い上がるなよ」

 フェンリルは押し黙った。口論では勝てないし、そもそも口論をしに来たわけではないという思考の後、意を決した。

「分かりました。私はあなたに挑みます。ただ、私が負けてもご主人様だけは見逃してくれませんか?」

「主人だけは? 主人が無事なら他はどうなってもいいの? 我輩、S国をまるごと潰すつもりなんだけど」

「S国も見逃してほしいと言ったら、見逃してくれるのですか?」

「見逃さないよ」

「だから、せめてご主人様だけでもと頼んでいるのです」

「おまえの主人もS国も同じなんだけど」

 フェンリルはあきらめたようだ。

 こいつが主人に忠誠の限りを尽くすのは、日頃から主人に溺愛できあいされているからだ。
 フェンリル自身はその理由を自分の忠誠が認められているからだと思っているが、真実はそうではない。
 その溺愛の理由は、フェンリルがモフモフだからであり、つまりは癒しという快楽のために溺愛されているだけなのだ。
 もしこいつがフェンリルではなくゴツゴツのリザードマンだったら溺愛なんかされていない。

 フェンリルは主人を優しい人間だと思っているが、実際には優しくなんかない。

 我輩はペットだけを差し向けたフェンリルの主人に相応の報いを受けさせることに決めた。

 フェンリルが臨戦態勢になったとき、我輩は手のひらを突き出して制止した。

「あ、我輩は戦わないよ。ペットだけ差し向けられたんだから、我輩もペットを使う」

 我輩のペットとは、もちろんモフである。
 饅頭まんじゅうのような小さな体に、フェンリルよりも柔らかい白の毛並。ペットバトルといこうではないか。

「ぷぅぷぅ!」

 モフがやる気を出している。
 フェンリルはこれなら勝てそうだと思ったのか、勇ましく突撃してモフに噛みついた。

「アガッ!」

 フェンリルは頭部全体が口内から串刺しになっていた。モフが毛を硬質化して逆立たせたのだ。

「望みどおり、おまえの主人だけは殺さないでおいてやるよ」

 それを聞き届けた後、フェンリルは力尽きた。

 我輩はS国に国の形をした高さ二十キロメートルの黒い塊たるモノリスを落とした。ただし、フェンリルの主人だけを避ける形状にして。

 たしかに我輩はフェンリルの主人を殺さなかったが、それはあくまで直接手を下さなかっただけ。
 フェンリルの主人は全方位をモノリスに囲まれ、身動き一つとれなくなっている。そのまま糞尿を垂れ流しにしながら、飢えて死ぬしかない。

 さすがに我輩もモノリスを落とす作業に飽きてきたが、女神への報復としてやっているので、この世界のすべての国を潰すまでは続ける所存である。
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