3 / 18
1章.崇高な夢とそれを邪魔する者(総理・富田貴広)
2.富田内閣発足と生き残り貴族
しおりを挟む
「科学‥とくに、遺伝子分野における発展に一番妨げになる考え方って何だと思う? 言うまでもない‥倫理観だ。
私に倫理観がないというが、‥私が人を殺したことがあるか? 人殺しを擁護したことがあるか?
倫理観という言葉を口にして、科学の進歩を躊躇している者たちの方が、よっぽど人を殺している。
遺伝子の領域は神の領域で、人間が容易に踏み入れていい分野じゃない‥っていう。
だけど、‥例えば、精子は毎日作られ、多くは「何にも」ならずに排出される。人はそれに何の敬意を払う? 可哀そうに‥命がまた一つ奪われた‥って気に掛ける奴がどれほどいる? 」
勿論、この様なことを「そのまま」「公の場」で言う事はない。
だけど、富田がこのことを一番重要視しているということは、富田の周りの人間であればみんな知っている。
富田に心酔している人間は、無条件に受け入れ、「それはそうだ」と相槌を打ち、アンチ富田派は「非常識だ」と眉をひそめた。
倫理観がない。
冷たい。
富田は、自分の事をそう評価する輩が理解できない。
否、‥軽蔑する。
倫理観という言葉を口にする輩の多くは、「自分は相手より常識がある」と相手を見下している。
多くの者が、倫理観という言葉を「便利に」口にし過ぎている気がする。
倫理に反するからって言葉に逃げている。
倫理という言葉は、富田にとっては、怠け者や臆病者の常套句にしか聞こえないのだ。
「遺伝子操作で産まれた「理想の子供」、結構じゃないか。
理想の子供が産まれたら、そりゃあ愛せるさ。可愛い服だの、玩具だの色んな物を買い与えたくなるし、最高の教育を受けさせたいって思うだろうし、旅行に行く時間だって取るかもしれない。そうやって、金を使えば経済が回る。
虐待も減るかもしれない。
いいことずくめだ」
富田がそういうと、常識人は
「その考えは、悪しき優性遺伝子保護法と同じだ!
人として生まれて来た者は、誰であっても愛されるべきだ」
と反論した。
富田は、そんな相手に対しても力で押さえつけず、とことん議論を交わした。
「理屈ではそうだろう。
だけど、実際は、そうじゃない。
‥そうではない者もいるということだ。その事実を無視することは出来ない。
そういう要望は無視し、「倫理的ではない」と否定して、倫理的な「自然な出産」だけを尊重する‥それが正しいとは‥少なくとも私はそうは思わない」
そうして気が付けば、富田につっかかっていた者の多くは、富田信者に変わっていった。
富田にはそういう人間的な魅力があったのだ。
そして、そんな中‥最後までアンチの姿勢を貫いたのが、後に「生き残り貴族」と呼ばれるようになる一派であった。
彼らは、
「自然の道理に反することは、どうしても受け入れられない。
富める者も貧しい者も、人は等しく同じ地球上に生きる一つの生命として、天命を受け入れるべきだ。
欲望によって捻じ曲げられた「理想の生命」を我々は尊いとは到底思えない。
それは‥ロボットと同じだ」
と反論し、国家からの独立と、国家と敵対する意思を宣言した。
以後、現在に至るまでその敵対関係は続いているのだった。
私に倫理観がないというが、‥私が人を殺したことがあるか? 人殺しを擁護したことがあるか?
倫理観という言葉を口にして、科学の進歩を躊躇している者たちの方が、よっぽど人を殺している。
遺伝子の領域は神の領域で、人間が容易に踏み入れていい分野じゃない‥っていう。
だけど、‥例えば、精子は毎日作られ、多くは「何にも」ならずに排出される。人はそれに何の敬意を払う? 可哀そうに‥命がまた一つ奪われた‥って気に掛ける奴がどれほどいる? 」
勿論、この様なことを「そのまま」「公の場」で言う事はない。
だけど、富田がこのことを一番重要視しているということは、富田の周りの人間であればみんな知っている。
富田に心酔している人間は、無条件に受け入れ、「それはそうだ」と相槌を打ち、アンチ富田派は「非常識だ」と眉をひそめた。
倫理観がない。
冷たい。
富田は、自分の事をそう評価する輩が理解できない。
否、‥軽蔑する。
倫理観という言葉を口にする輩の多くは、「自分は相手より常識がある」と相手を見下している。
多くの者が、倫理観という言葉を「便利に」口にし過ぎている気がする。
倫理に反するからって言葉に逃げている。
倫理という言葉は、富田にとっては、怠け者や臆病者の常套句にしか聞こえないのだ。
「遺伝子操作で産まれた「理想の子供」、結構じゃないか。
理想の子供が産まれたら、そりゃあ愛せるさ。可愛い服だの、玩具だの色んな物を買い与えたくなるし、最高の教育を受けさせたいって思うだろうし、旅行に行く時間だって取るかもしれない。そうやって、金を使えば経済が回る。
虐待も減るかもしれない。
いいことずくめだ」
富田がそういうと、常識人は
「その考えは、悪しき優性遺伝子保護法と同じだ!
人として生まれて来た者は、誰であっても愛されるべきだ」
と反論した。
富田は、そんな相手に対しても力で押さえつけず、とことん議論を交わした。
「理屈ではそうだろう。
だけど、実際は、そうじゃない。
‥そうではない者もいるということだ。その事実を無視することは出来ない。
そういう要望は無視し、「倫理的ではない」と否定して、倫理的な「自然な出産」だけを尊重する‥それが正しいとは‥少なくとも私はそうは思わない」
そうして気が付けば、富田につっかかっていた者の多くは、富田信者に変わっていった。
富田にはそういう人間的な魅力があったのだ。
そして、そんな中‥最後までアンチの姿勢を貫いたのが、後に「生き残り貴族」と呼ばれるようになる一派であった。
彼らは、
「自然の道理に反することは、どうしても受け入れられない。
富める者も貧しい者も、人は等しく同じ地球上に生きる一つの生命として、天命を受け入れるべきだ。
欲望によって捻じ曲げられた「理想の生命」を我々は尊いとは到底思えない。
それは‥ロボットと同じだ」
と反論し、国家からの独立と、国家と敵対する意思を宣言した。
以後、現在に至るまでその敵対関係は続いているのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる