天鼠の恋人

木野葉ゆる

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天鼠の恋人《誠視点》

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 吾妻誠、三十歳、独身。恋人はペットのコウモリ。人に言うと笑われるだけなので言わないが、誠は自分の現状を、悪くないと思っていた。
 少し前まで一人ぼっちだったのだ。しかし、学生時代の先輩に押し付けられたコウモリとの生活は、誠の好奇心と性欲を満たし、幸福感さえ感じるようになった。
 誠は今夜も、コウモリ姿に変容し、恋人でもあり、ペットでもある雄のコウモリ、てんそに抱かれるのだ。
「てんそ、舐めて……」
 コウモリはオーラルセックスをするのだと、てんそと恋人になって初めて知った。
「誠、もう挿れるぞ。後でたっぷり舐めてやる」
 てんそは、かわいい姿に反して、男前な性格をしている。飼い主をコウモリ姿に変容させる魔法を使う、特別なコウモリ。
 コウモリのてんそをかわいいかわいいと可愛がっていたら、てんそは誠の方がかわいいぞと、トロトロに蕩かしてくれるのだ。
「てんそ、ずっと僕だけを愛してくれる?」
「ああ、誠も、人間と浮気するなよ」
「浮気なんかしないよ。僕はてんそのメスだもの」
 最近、書いているコウモリが主人公の幻想小説は、なかなか評判が良いのだ。それも全て、てんそのおかげだと思っている。
 誠は、てんそとの日々が出来るだけ永く続きますようにと、お月様にそっと願ったのだった。
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