1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-

丁玖不夫

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第3章 秘めし小火と級友の絆編

70.烈火刃とカウンター・ストライク

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「てりゃああ!!」


キャメル色の髪を持つ五歳ほどの少年が、その小さな手に握った木剣で、何度も攻撃を繰り返している。

しかし、その振り方は如何にも先ほど習ったであろう覚束ないもので、レイヴンが片手に持った木の棒によって軽くいなされていたのだ。


「いいぞ、その調子だ!なかなか上手いじゃないか」


日差しが熱い中、外で剣術の鍛錬をしているせいか、レイヴンがいつも着ている黒いコートは既にどこかに脱ぎ捨てられており、さらにその下に着ていた紫色のシャツに至っては、左右の袖が少々雑に捲られていた。


"シャイニール王国"の首都、"フラッシュリア"の中央に聳える白城、"センテリュオ"。
その一角にある広場では、レイヴンによる剣術の鍛錬が行われていたのだ。


「よし、本日の鍛錬はここまでだ。各自、今日学んだことを反復して練習するんだぞ」


そう言って、鼻歌を歌いながら木陰に脱ぎ捨てられていた気に入りの黒いコートを拾って袖を通すレイヴン。


「あ~、腹減った~。今日の昼飯は何食べようかね~っと」


その姿は、さっきまで子供とは言え八人連続で相手をしていたにも関わらず疲れている様子は微塵も感じられず、さっきまで流れていた汗もいつの間にか見当たらなくなっていた。


「……………あ、ありがとうごさいました」

「……………流石に、キツいね」

「チクショウ……………今回も勝てなかった」

「……………はぁ……………はぁ………………」

「ハハハ…………僕たちも、まだまだ未熟と言うことだね」


一方、レイヴンに剣術を教わっていた子供たちはと言うと、八人全員がバテバテに疲れ切っており、中には大の字に倒れ込んでいる者も居たほどであった。


「まぁ、だいぶマシになってきたけどな。特に、今日はキンバーライト家の"次男坊"の動きが中々良かったぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ、剣術だけだったら兄貴よりも筋がいいかもな」


レイヴンは、未だ動けない状態であるキャメル色の髪を持つ少年の傍までやってくると、その少年の頭を優しく撫でるのだった。


「…………ありがとうございます!」


少年は、褒められたことに対して喜びながらも、周囲の目が気になるのか顔を俯かせながら、はにかんでしまうのだった。







「うおりゃあああ!!!」


ファイによる鋭い斬撃が、リッドの持つ小柄な盾に叩きつけた瞬間、演習場に激しい衝撃音が鳴り響いたのだ。


しかし、その直後のことであった。攻撃を仕掛けていた筈のファイの体が、唐突に空中へと吹き飛ばされていたのだ。


「─────"カウンター・ストライク"!!」

「…………くっ!また、その技か!?」


さらにリッドは、追い打ちをすべく吹き飛ばされたファイの着地地点に狙いを付けると、ほんの数分前と同じように六本の岩の棘を魔法で作り出すや否や、そこに目掛けて撃ち放つのだった。


「同じ手は、二度は効かないよ!!」


おそらく、空中に吹き飛ばされた時点で、この展開を読んでいたのだろう。
ファイは、フィールドの床に着地する前の不安定な体勢であるにも関わらず、剣に魔力を込め始める。

そして、まるで炎のように鮮やかな赤いオーラが剣身の先まで包み込んだタイミングを見計らって、ファイは迫り来る岩の棘に狙いを定めると、剣を上から垂直に振り切ったのだ。


「──────"烈火刃"!!!」


ファイが勢いよく振った剣から、今まで剣身に纏っていたオーラと同じ色の赤い三日月型の斬撃が飛び出す。

その斬撃は、既にファイの目の前にまで迫っていた岩の棘を全て焼き落とした後、勢いを全く落とすことなく、そのままリッドの方へと向かっていったのだ。


「………………"実力テスト"の時の技か!!」


ファイによる思わぬ反撃に、一瞬だけ驚いていたリッドであったが、猛スピードで向かってくる三日月型の斬撃を迎え撃つために、すぐ様右腕に装着されている盾を構え直すのだった。

演習場に居る"観客"の誰もが、リッドはファイの攻撃を受け止めて無力化するものだと思っていであろう。

しかし、違っていた。

赤い三日月型の斬撃が小柄な盾に触れた瞬間、リッドは衝撃を受け止めながら盾を斬撃の横面へと滑り込ませると、突然体を時計回りに回転させる。

そして、彼はその回転によって巻き込んだ斬撃の進行方向をぐるりと変えてしまうと、なんと斬撃を放った張本人であるファイに目掛けて打ち返して見せたのだ。


「……………なっ!?」


その斬撃は、咄嗟に右方向に避けたファイのすぐ横を猛スピードで通過した直後に、後方にあった壁に激突するや否や、けたたましい音を鳴らすのだった。

ファイが振り返った壁には、斬撃が食い込んだであろう深い傷痕と、その周りには真っ黒い焦げ跡がしっかりと残されていたのだ。


「こりゃ、簡単には勝てそうにないや」


ファイは、困ったようにそう呟いた。
しかし、その時の彼はどこか楽しそうな表情を浮かべては、白金色の剣を握り直すのだった。
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