1000 BLADES-サウザンド=ブレイズ-

丁玖不夫

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第3章 秘めし小火と級友の絆編

72. アーイディオン・ソードとリュッケンシルト

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「さぁ、始めようか!……………私たちの、本当の勝負を!!」


 リッドは後ろにジャンプすると、ファイとの間合いを取る。
 そんな彼の足取りはとても軽快で、先ほどまでの硬い動きと比べると、全くの別人のようであった。


 リッドの左手に持っている剣は、ファイの剣よりも少々短めの所謂"ダガー"であり、特殊な素材で作られているのであろうか、左右の双刃には鮮やかな橙色に彩られていたのだ。


「我が愛剣、"アーイディオン・ソード"に誓う…………」


 リッドは、自らの剣を顔の前に持ってくると、静かに目を閉じる。
 その姿は、まるで神様か何かに祈りを捧げているような神聖な雰囲気を醸し出していたのだ。


「全身全霊をかけて、ファイ…………君を倒そう!!」


 そう言い放つや否や、リッドは一目散に駆け出す。
 そして、左手に握られた剣が綺麗な橙色の軌道を描きながら、ファイへと振り下ろされたのだった。

 しかし、本領を発揮した筈のリッドが繰り出した渾身の一撃は、ファイによって真っ向から受け止められてしまったのだ。


「……………リッドが本気で来るなら、俺も全力で答えなくっちゃね!!」


 両者の力が拮抗しているためか、暫しの間鍔迫り合いが続いたのだが、その時の二人の顔はとても生き生きとしていて、まるで戦うことを楽しんでいるようであった。

 そんな彼らの互角の戦いに、試合を見守っていた教師たちも思わず見入ってしまうほどであり、さらには先ほどヤジを飛ばしていた生徒たちからは、大きな歓声が上がっていたのだ。


「やれやれ。アイツら、楽しそうに戦いやがって」


 レイヴンは、そう呟くと少しだけ羨ましそうに二人の戦いぶりを羨ましそうに見つめている。
 そんな彼が、今にも激戦を繰り広げている二人の中に乱入してしまわないかと、思わず心配してしまうフリッドとクランなのであった。



 暫く続いた鍔迫り合いの後、二人は全く同じタイミングで後方に軽く飛ぶ。
 そして、互いの手に持つ愛剣へと魔力を込めていったのだった。


「そろそろ決着をつけさせてもらうよ。ファイ!!」

「望むところさ!…………当然、勝つのは俺だけどね!!」




 両者共に、攻めるタイミングを伺っていた中、先に駆け出したのはファイの方であった。

 ファイは、ある程度進んだところで魔力を纏わせていた剣を思いっきり縦に振るう。

 すると、その剣から三日月型の赤い斬撃が勢いよく飛び出したのだった。


「─────"烈火刃"!!」


 そう、ファイの一番の得意技である"烈火刃"である。


「フッ…………忘れたのかい、ファイ?その技は、私には効かないよ!!」


 リッドは、飛んできた赤い斬撃を右腕に装着されている盾で受け止めながら、器用に盾をそのまま斬撃の横面へと滑り込ませると、その場で体を時計回りに一回転させる。


「─────"リフレクト・スマッシャー"!!」


 そして、彼はその回転で巻き込んだ斬撃の進行方向を変えてしまうと、前回と同じように技を放った張本人であるファイへと目掛けて、打ち返して見せたのだ。


「また、跳ね返されたか!…………だったら!!」


 自らが放った得意技"烈火刃"が、ファイへと襲いかかる。
 しかし、ファイはそれを避けるどころか防御する気配さえも見せることなく、"烈火刃"に向かって突っ込んでいったのだ。

 さらに、それを紙一重で横に避けると、握っていた剣が"烈火刃"との間に火花を散らせる。
 やがて、その火花が瞬く間に紅蓮の炎へと姿を変えると、白金色の剣に広がっていったのだ。


「─────はぁああああッ!!"烈火刃"!!」


 ファイは体を素早く回転させると、握った剣に宿る紅蓮の炎を三日月型の刃に変えて、リッドに撃ち放つのだった。


「……………何ッ!?その技を、こんな僅かな時間で連続して放つなんて!!」


 ファイによる予想外の反撃に、リッドの判断がほんの一瞬だけ遅れてしまう。
 そのせいで、攻撃を反射するための反撃手段であった"リフレクト・スマッシャー"も使うことができなかったのだ。


「チッ!こうなったら……………"シールド・スロー"!!」


 リッドは、右腕に装着された小振の盾バックラーを素早く取り外すと、迫り来る三日月型に向かって投げ放つ。

 まるで、フリスビーの様に一直線に飛んでいった小振の盾バックラーが"烈火刃"に触れた瞬間、大きな爆発を引き起こした。

 その衝撃で、在らぬ方向に飛んでいったリッドの盾は、演習場の壁に深く突き刺さってしまったのだ。


 "烈火刃"が爆散した時に発生した煙が、辺り一面に広がっている。
 それにより、試合を見ていた殆んどの者が二人の姿を確認できなくなっていたのだ。

 無論、この煙の発生源の至近距離に居たリッドも同様で、目の前に居た筈のファイの姿でさえも見失ってしまうほどであった。


「くっ!!ファイは…………!?」


 リッドは、ファイを探すべく周囲を見回す。
 だが、立ち込める煙の中から彼を見つけることは困難であった。


「……………!?上か!!」


 突然、何の気配を感じ取ったリッドが天を仰ぐ。
 すると、そこには煙の中から大きく跳躍するファイの姿があったのだ。

 彼の握る剣には、既に火属性特有の赤いオーラが根本から剣先にまでみなぎらせており、今にもリッドに向けて強烈な一撃を振るわんとしていた。


「させるか!!来い、"リュッケンシルト"!!」


 リッドは、演習場の壁に突き刺さってしまった小振の盾バックラーに向かって手を伸ばした。

 すると、まるで彼の声に反応したかのように、壁に深く突き刺さっていた盾が、突然持ち主であるリッドの元へと、猛スピードで飛んでくる。

 そして、その飛んできた小振の盾バックラーがリッドの右腕に戻ってくるや否や、もう目の前にまで迫ってきていたファイの攻撃を受け止めるために、"あの技"を発動するのだった。





「悪いが、これで決めさせてもらう!─────"カウンター・ストライク"!!」








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