未来はハッピーウェディング?

さとう涼

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第1章 元彼の子を妊娠しました

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「……えっ?」

 5月の大型連休の最終日。思いもよらない出来事に一瞬、息が止まった。
 ローテーブルの上の妊娠検査薬には、くっきりと陽性判定が出ている。
 ひとり暮らしのアパートの小さなワンルームで、わたしは茫然とそれを眺めていた。

 だいぶ時間が経過してから、ハッとしてスマホを手に取った。
 いつのときのだっけ、とスマホのカレンダーを見ながら考えを巡らせていたら、ある日付が目にとまった。

「あっ! あのときの……」

 思い起こせば覚えがあった。彼氏の一希かずきと些細なことでケンカをした日、仲直りした勢いでそういうことにいたってしまった。
 それが3週間と少し前のこと。その日はたまたま避妊具を切らしていた。だけど恥ずかしい話、欲望に勝てなかった。
 お互いにいい歳をした大人なのに、何をやっているんだろう。

 これまで一希と避妊具なしのエッチは何度かあったけれど、妊娠することはなかったので、今回もきっと大丈夫かなと思い込んでいた。でも生理が2週間近く遅れていて、まさかと思い調べてみたら、そのまさかだった。

「どうしよう……」

 なんでこんなことになっちゃうの?
 仕事はどうする?
 上司にいつ言う?
 結婚はどうするの?
 その前に、わたし、本当に産むの?

 一希とは具体的に将来の話をしたことがない。もちろん一希と幸せな家庭を築いていけたらと夢見ていた。子どもだってほしいと思っていた。料理が大好きだから、外食やコンビニ弁当ばかり食べている一希の栄養管理も奥さんの立場としてしたいと思っていた。

 だけど急に目の前に突きつけられた現実をしっかりと受け入れられない。もっと真剣に考えないといけないのに、そうできない。自分の置かれている立場に泣きそうになる。

「ここに赤ちゃん、いるんだ……」

 ぺたんこのお腹を触ってみても実感がわかない。
 ローテーブルの上の妊娠検査薬はゆがんで見えた。

 どうしてこんなタイミングなんだろう。お腹の子どもの父親である一希とは別れたあとだった。

 わたしが一希にフラれたのは2週間ほど前のことだった。
 その日もケンカが勃発。その前の日曜日はデートを仕事でドタキャンされたのが原因でケンカしたばかりだった。
 ここのところ一希に会うたびにわたしは怒っているような気がする。自分にも非があることは自覚していたので、今日こそは気をつけようと思っていた。それなのにやってしまった!

 でもこの日は仕方なかったというか……。普通、怒るでしょう。だって一希がうちの会社の受付嬢と1階ロビーでイチャついていたのだから。
 あー、今思い出しても腹が立つ!

 わたしたちは社内恋愛だった。部署は違うけれど同じフロアで働いていて、1年ほどつき合っていた。
 つき合うまで一希とはあまり親しくしていなくて挨拶を交わす程度だった。そのためその頃はぜんぜん気づかなかったが、わたしとつき合う前に何度かその受付嬢を口説いていたらしく、その噂を聞いて以来、彼女との仲が気になって仕方がなかった。なので、ちょっと話をしただけでも許せなくて、つい苛立ちをぶつけてしまった――。



         ■■■



 ――2週間前。

「だから、そんなんじゃないんだって!」

 その日の夜、話があると一希を呼び出していた。わたしの部屋を訪れた一希は、わたしの怒り顔を見て怯みながらも必死に釈明していた。

「それじゃあ、なんなの? 随分と楽しそうだったけど」
「ただちょっと世間話をしてただけだよ。別に普通だろう?」

 一希は反省した様子もない。

「彼女だけは特別視しているように見える」

「特別視なんてしてないって。俺、いつもあんな感じだと思うけど。他の女の子と接するときと変わんないよ」

「そうは見えなかった。だからもう彼女には話しかけないで。向こうから話しかけてきても無視して」

「それは無理だよ。仕事でかかわることもあるんだから」

「なら仕事のときは事務的に対応して。それは許す。でもそれ以外は接触禁止! 笑顔も禁止! 挨拶もダメだからね」

「つぐみ……。さすがにそれは厳しすぎるって」

 一希が困りながらも笑顔を見せ、甘えるように言う。

「そんな顔したって無駄! ダメなものはダメなの! だいたいね、一希は女の子にデレデレしすぎ」

「会社で楽しく会話してるだけだよ」

「それがダメなの。誰それかまわず愛嬌を振りまいて、女の子が勘違いしたらどうするの?」

「別にどうもしないけど。俺、そんなつもりないし」

 なんでわかってくれないんだろう。そういう性格なのはわかっていたつもりだったけど、そろそろ我慢の限界だった。

「一希になくても向こうがそうじゃないときだってあるでしょう。お願いだから、これ以上わたしをイライラさせないで!」

「そんなに怒ることかよ?」

「なんでわかってくれないの? 言っとくけど、これでもかなり譲歩してるんだからね」

「どこがだよ……」

 さっきまでの笑顔は消え、今度は力なく言って肩を落とす。

 一希はめったに怒らない。わたしが何を言ってもいつもやさしく受け止めてくれて、わたしにきつい言葉を浴びせたこともない。
 だけどこの日はいつもと少し違っていた。

「俺、最近つぐみにそんな顔ばかりさせてるよな。怒らせてばっか」

 そう言った一希は小さな溜息をつき、伏目がちにとても申し訳なさそうな顔をしていた。
 さらに続けた。

「別れたほうがいいのかな」 

「はっ?」

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