未来はハッピーウェディング?

さとう涼

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第6章 とうとうバレました

019

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 深見課長は30代半ばで独身。彼女がいると聞いたことがないし、一希も深見課長の女性関係の話は一切知らないと言っていた。
 それゆえ深見課長を狙っている女子社員は大勢いて会社の飲み会のときの隣の席の争奪戦はすさまじいし、今年のバレンタインデーには本気モードの女子社員たちがチョコを手に次から次へと店舗開発課を訪れていた。

「そうだな。俺が送るっていうのも変だな。なら本間に送らせるよ」

「一希にですか?」

「あいつはたしか午前中は会社にいるはずだから」

「それもけっこうです。一希も忙しいと思うので」

「遠慮する仲でもないだろう?」

 やっぱり深見課長もわたしたちが別れたことを知らないのか。
 一希は深見課長のことを尊敬し、信頼している。そのため深見課長にだけは報告しているかもと思っていたけれど、どうやら違うようだった。

「今日は急ぎの仕事があるので。それに体調はよくなりました。朝ごはんを抜いてきたのが原因かもしれません」

 深見課長は意外におせっかいな人だ。見た目と雰囲気だけでずっと冷たい人だと勘違いしていた。

「そこまで言うならしょうがないな」

 わたしが頑なに遠慮するので深見課長は諦めてくれたらしい。

「でも無理はしないように。宮原さんはちょっとがんばりすぎるところがあるから」

「わたしがですか?」

「うん。一生懸命はいいと思う。だけどひとりで全部抱え込もうとする必要はない。もっとまわりを頼ってもいいんじゃないか?」

 部署が違うのに、わたしのことを見ていてくれたのだろうか。そんな言い方だった。

「悪い。余計なことだったな」

「とんでもないです。気をつけます」

「説教するつもりはなかったんだ。つまり仕事は適度にってことだ。そのほうが見落としも少なくなるし、達成感もあると思う」

「たしかにそうですね」

「まわりの人間は宮原さんが一生懸命がんばっているのはちゃんとわかっているはずだから」

「……ありがとうございます」

 無理しているように見えるのかな。たしかにここ最近は忙しかったし、加納さんも含め、まわりのひとたちのレベルが高いから気を抜くとすぐに置いていかれそうで、だいぶ仕事をつめ込んでいた。
 深見課長の言うとおりだ。仕事に追われるようでは質が落ちるだろうし、大きなミスをしかねない。仕事を苦しいものにしてはいけないんだ。

 一希が深見課長を慕うのもわかる。今まで一希の口から深見課長に関する愚痴を聞いたことがないのはこういうことだったのか。

「つぐみ」

 突如聞こえてきた声に振り向くと、深見課長が「じゃあな」と言って去っていく。その先に一希がいた。すれ違いざまに深見課長が一希の肩にぽんっと手を置いていった。
 立ち止まっていた一希が深見課長に軽く頭を下げ、再びこちらを向く。それからわたしのほうに歩み寄った。
 廊下で一希とふたりきりになってしまった。

「こんなところで何してんだよ?」

 冷たく言い放たれた声。それが気に障り、わたしも「別に」と素っ気なく返した。

「深見課長、なんだって?」

「なんでいちいち一希に話さないといけないの?」

「ふーん……」

 一希が嫌みったらしく言う。

「何が、『ふーん』なの?」

「深見課長、格好いいもんな」

「どういう意味?」

「前に大切な人ができたって言ってただろう?」

「あれは……」

 大切で守りたい人ができたの──。
 たしかに言った。模擬披露宴のあった日、わたしが一希に言った言葉だ。

「深見課長のことだったんだな」

 さすがにこの発言はない。一希にはがっかりした。

「違うって」

「隠すなよ。親密そうに見えたけど」

「普通に話してただけでしょう。どうしてそれを『親密』なんていう言い方をするの?」

 深見課長はわたしを恋愛対象として見ているわけではない。彼は純粋にわたしを心配してくれただけ。何をどう勘違いして、一希はそんなことを言うんだろう。

「それならなんの話をしてたんだよ?」

「ただの世間話だよ」

「世間話? つぐみと深見課長の間に共通の話題なんてあるのかよ?」

 一希の様子がいつもと違う。イライラしているみたいで言い方もいちいち刺々とげとげしい。

 なんなの、いったい。わたしは何も悪くない。そんな思いで抗議の目を向けた。

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