24 / 66
第7章 本音は会いたくてたまりません
024
しおりを挟む
その後、水嶋課長と記者たちが部屋を出ていき、わたしはカップを片づけるために同じフロアにある給湯室へ向かった。
シンクの前で疲れたなあと息をつく。
社長の取材立ち会いは緊張感が半端ない。トップに立つ人間の静かな迫力がダイレクトに伝わってくる。記者もその迫力に押されないよう、気を張っていたんだろう。空になったカップを見てなんとなくそんなことを思った。
社会人といっても、わたしはいつも会社の中で守られながら仕事をしている。でも本当の社会というものは、きっとわたしが思っている以上に厳しい世界に違いない。
一希がいる世界はそんなところ。
今でこそ、その活躍ぶりから社内でもてはやされている部署だけれど、会社の苦境を一希たちは先頭に立って乗り越えてきたんだ。
でもそんな苦労をしてきたようには見えない。一希はいつも笑顔で悩みなんてないような顔をして、仕事の愚痴なんてちっともこぼさなかった。
素質か……。他のひとよりも秀でた何かを持っている一希がうらやましい。
わたしにはたぶんそんなものはない。女だし、おそらく出世にも無縁な立場にある。
たとえば5年後もわたしはアシスタントのままなのかな。このままでいいのだろうか。せっかく広報課に配属されたのに。わたしは与えられているチャンスをみすみす逃そうとしているんじゃないだろうか。
広報課に戻ると、加納さんが「どうだった?」とたずねてきた。
「勉強になりました。会社の見方が変わるというか、今まで会社の内側しか見ていなかったんだなって。テレビやネットニュースや新聞などをチェックして外側も見ていたつもりだったんですけど。よく考えたら、それってほとんどうちの会社から発信しているものなんですよね」
「それ、わかるよ。わたしも初めて社長の取材に同席したときそんなふうに思った」
「加納さんもですか?」
「世間の目というのを意識するようになったよ。うちの会社の経営や動向をたくさんのひとが注目していてニュースになったり、コメントされたりすることが、誇らしいけど怖くも感じる」
あの記者の意地悪な質問がそうなんだろう。あれが世間の興味であって知りたいこと。つまりそれが外側の部分ということだ。
昨今はインターネットの普及によってSNSなどで瞬く間に不祥事が拡散される。店舗スタッフの接客、異物混入など。何か不備があっても本社へ報告が来る前に世間の知るところとなり、クレーム対応が間に合わないときもある。
我が社はそういったことはまだないが、もし万が一そうなった場合、落ちてしまったイメージを回復させるのは相当困難なことになるだろう。
けれどイメージ回復も広報課の仕事だ。そして企業イメージを守ることも。
入社したての頃は広報課というと花形部署で、そこへの配属が決まったときは少し浮かれていたけれど、実はけっこう過酷な部署なのかもしれない。だけど、だからこそかかわっていきたい。もっとたくさん仕事を覚えて、自分の役目を果たしていけたらいいなと思う。
シンクの前で疲れたなあと息をつく。
社長の取材立ち会いは緊張感が半端ない。トップに立つ人間の静かな迫力がダイレクトに伝わってくる。記者もその迫力に押されないよう、気を張っていたんだろう。空になったカップを見てなんとなくそんなことを思った。
社会人といっても、わたしはいつも会社の中で守られながら仕事をしている。でも本当の社会というものは、きっとわたしが思っている以上に厳しい世界に違いない。
一希がいる世界はそんなところ。
今でこそ、その活躍ぶりから社内でもてはやされている部署だけれど、会社の苦境を一希たちは先頭に立って乗り越えてきたんだ。
でもそんな苦労をしてきたようには見えない。一希はいつも笑顔で悩みなんてないような顔をして、仕事の愚痴なんてちっともこぼさなかった。
素質か……。他のひとよりも秀でた何かを持っている一希がうらやましい。
わたしにはたぶんそんなものはない。女だし、おそらく出世にも無縁な立場にある。
たとえば5年後もわたしはアシスタントのままなのかな。このままでいいのだろうか。せっかく広報課に配属されたのに。わたしは与えられているチャンスをみすみす逃そうとしているんじゃないだろうか。
広報課に戻ると、加納さんが「どうだった?」とたずねてきた。
「勉強になりました。会社の見方が変わるというか、今まで会社の内側しか見ていなかったんだなって。テレビやネットニュースや新聞などをチェックして外側も見ていたつもりだったんですけど。よく考えたら、それってほとんどうちの会社から発信しているものなんですよね」
「それ、わかるよ。わたしも初めて社長の取材に同席したときそんなふうに思った」
「加納さんもですか?」
「世間の目というのを意識するようになったよ。うちの会社の経営や動向をたくさんのひとが注目していてニュースになったり、コメントされたりすることが、誇らしいけど怖くも感じる」
あの記者の意地悪な質問がそうなんだろう。あれが世間の興味であって知りたいこと。つまりそれが外側の部分ということだ。
昨今はインターネットの普及によってSNSなどで瞬く間に不祥事が拡散される。店舗スタッフの接客、異物混入など。何か不備があっても本社へ報告が来る前に世間の知るところとなり、クレーム対応が間に合わないときもある。
我が社はそういったことはまだないが、もし万が一そうなった場合、落ちてしまったイメージを回復させるのは相当困難なことになるだろう。
けれどイメージ回復も広報課の仕事だ。そして企業イメージを守ることも。
入社したての頃は広報課というと花形部署で、そこへの配属が決まったときは少し浮かれていたけれど、実はけっこう過酷な部署なのかもしれない。だけど、だからこそかかわっていきたい。もっとたくさん仕事を覚えて、自分の役目を果たしていけたらいいなと思う。
1
あなたにおすすめの小説
ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
犬上義彦
恋愛
『御更木蒼也(みさらぎそうや)』
三十歳:身長百八十五センチ
御更木グループの御曹司
創薬ベンチャー「ミサラギメディカル」CEO(最高経営責任者)
祖母がスイス人のクオーター
祖父:御更木幸之助:御更木グループの統括者九十歳
『赤倉悠輝(あかくらゆうき)』
三十歳:身長百七十五センチ。
料理動画「即興バズレシピ」の配信者
御更木蒼也の幼なじみで何かと頼りになる良き相棒だが……
『咲山翠(さきやまみどり)』
二十七歳:身長百六十センチ。
蒼也の許嫁
父:咲山優一郎:国立理化学大学薬学部教授
『須垣陸(すがきりく)』
三十四歳:百億円の資金を動かすネット投資家
**************************
幼稚園教諭の咲山翠は
御更木グループの御曹司と
幼い頃に知り合い、
彼の祖父に気に入られて許嫁となる
だが、大人になった彼は
ベンチャー企業の経営で忙しく
すれ違いが続いていた
ある日、蒼也が迎えに来て、
余命宣告された祖父のために
すぐに偽装結婚をしてくれと頼まれる
お世話になったおじいさまのためにと了承して
形式的に夫婦になっただけなのに
なぜか蒼也の愛は深く甘くなる一方で
ところが、蒼也の会社が株取引のトラブルに巻き込まれ、
絶体絶命のピンチに
みたいなお話しです
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛
春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
解けない魔法を このキスで
葉月 まい
恋愛
『さめない夢が叶う場所』
そこで出逢った二人は、
お互いを認識しないまま
同じ場所で再会する。
『自分の作ったドレスで女の子達をプリンセスに』
その想いでドレスを作る『ソルシエール』(魔法使い)
そんな彼女に、彼がかける魔法とは?
═•-⊰❉⊱•登場人物 •⊰❉⊱•-═
白石 美蘭 Miran Shiraishi(27歳)…ドレスブランド『ソルシエール』代表
新海 高良 Takara Shinkai(32歳)…リゾートホテル運営会社『新海ホテル&リゾート』 副社長
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる