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番外編(4) たしかな想い
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1か月前。飯島に無理やり誘われて飲みにいった夜──。
その前の現場での打ち合わせが思いのほか早く終わり、飯島に指定された馴染みの居酒屋に先に着いた本間は、飯島を待たずにビールを頼んだ。
飲まずにはいられなかった。好意を抱いている女性が別の男とデートする約束をしていて、その相手というのが自分が最も認め、かつ親友と呼べる男なものだから身動きが取れない。
知らない男ならよかった。それなら遠慮なく奪ってやるのに。
ビールをあおると空っぽの胃にアルコールがカッと染み込んで、体が一気に熱くなった。仕事中に抑えていた感情が再び暴れ出し、考えすぎて疲れきっていた脳細胞までが活性化されていくのがわかる。
やがて頭の中で拡散していたものがひとつになっていく。自分の想いがどれだけのものなのか。これからどうしたいのか。どうしなければならないのか。見て見ぬフリをしていた様々なものが理性を突き破ってこようとしていた。
2杯目を飲み終える頃、「おまたせ」と飯島が現れた。本間は息を飲む。
柄にもなく緊張していた。しかし今まで考えてもみなかった事態に頭を抱えながらも、このことばかりは譲れないのも事実。本間は意を決したように口を開くと、洗いざらい胸の内を飯島にぶちまけたのだった。この数か月間の心境の変化、そしてつぐみへのたしかな想いを。
飯島は黙ってそれを聞いていた。怒りも焦りも見せず、ただ静かに耳を傾けていた。そして本間が気持ちをすべて出しきると、真顔のまま言った。
「つぐみちゃんは手強いぞ。まあ、がんばれよ」
本間は拍子抜けして聞き返した。
「いいのか?」
「いいも悪いも、玉砕した俺に許可をもらう必要なんてないだろう」
「はっ? 飯島、おまえフラれたのか?」
「何を今さら。全部見ていたんだろう?」
「見てたけど。なんでそうなるんだよ?」
しかし、よくよく話を聞けばなんのことはない。本間があの日に見たものは、飯島がつぐみに華麗にフラれる光景だったのだ。あの瞬間、飯島はレースからさっさと降りていた。
「俺って、いとこのお兄ちゃんみたいな存在なんだってさ」
「お兄ちゃん?」
「違うよ、いとこだよ」
「それって親しみやすいってことなんじゃないか?」
「違うよ。それ止まりって意味だよ。しかもお兄ちゃんじゃなくていとこなんだぜ」
「でもお兄ちゃんとは結婚できないけど、いとこならできるぞ」
いったい何の話をしてるんだと思いながらも本間は律義に返す。
「だから、そっちじゃないよ」
「どっちだよ?」
「血のつながりの話じゃなくて。つまり、お兄ちゃんよりいとこは遠い存在なわけよ。年に1回会えればいいほう。ヘタすりゃ3年、5年も顔を合わせないだろう」
「あー、俺、10年以上会ってないいとこがいるわ」
「そう、それ。近いようで果てしなく遠い距離。そんな存在だって言われたんだよ。おまけに、『飯島さんは尊敬できる先輩なのでこれからもそんな関係でいたいです』って、そこまで言われちゃ諦めるしかないだろう?」
「……そ、そうか。……ん? そうなのか?」
果たして飯島の解釈が正解なのかよくわからない。
「じゃなきゃ、あんなセリフ言わないよ」
「いや、でも、あれだ。嫌われているわけじゃないんだし」
「けど、拒絶された。しかも満面の笑みで」
「悪気はないんだと思うよ」
だんだんと飯島の語り口が愚痴っぽくなってくるので、本間はなんとか絞り出してフォローを入れ続けたが……。
「あってたまるかっ!」
飯島は悔しそうに吐き捨てるだけだった。
──これが1か月前の出来事だった。
その前の現場での打ち合わせが思いのほか早く終わり、飯島に指定された馴染みの居酒屋に先に着いた本間は、飯島を待たずにビールを頼んだ。
飲まずにはいられなかった。好意を抱いている女性が別の男とデートする約束をしていて、その相手というのが自分が最も認め、かつ親友と呼べる男なものだから身動きが取れない。
知らない男ならよかった。それなら遠慮なく奪ってやるのに。
ビールをあおると空っぽの胃にアルコールがカッと染み込んで、体が一気に熱くなった。仕事中に抑えていた感情が再び暴れ出し、考えすぎて疲れきっていた脳細胞までが活性化されていくのがわかる。
やがて頭の中で拡散していたものがひとつになっていく。自分の想いがどれだけのものなのか。これからどうしたいのか。どうしなければならないのか。見て見ぬフリをしていた様々なものが理性を突き破ってこようとしていた。
2杯目を飲み終える頃、「おまたせ」と飯島が現れた。本間は息を飲む。
柄にもなく緊張していた。しかし今まで考えてもみなかった事態に頭を抱えながらも、このことばかりは譲れないのも事実。本間は意を決したように口を開くと、洗いざらい胸の内を飯島にぶちまけたのだった。この数か月間の心境の変化、そしてつぐみへのたしかな想いを。
飯島は黙ってそれを聞いていた。怒りも焦りも見せず、ただ静かに耳を傾けていた。そして本間が気持ちをすべて出しきると、真顔のまま言った。
「つぐみちゃんは手強いぞ。まあ、がんばれよ」
本間は拍子抜けして聞き返した。
「いいのか?」
「いいも悪いも、玉砕した俺に許可をもらう必要なんてないだろう」
「はっ? 飯島、おまえフラれたのか?」
「何を今さら。全部見ていたんだろう?」
「見てたけど。なんでそうなるんだよ?」
しかし、よくよく話を聞けばなんのことはない。本間があの日に見たものは、飯島がつぐみに華麗にフラれる光景だったのだ。あの瞬間、飯島はレースからさっさと降りていた。
「俺って、いとこのお兄ちゃんみたいな存在なんだってさ」
「お兄ちゃん?」
「違うよ、いとこだよ」
「それって親しみやすいってことなんじゃないか?」
「違うよ。それ止まりって意味だよ。しかもお兄ちゃんじゃなくていとこなんだぜ」
「でもお兄ちゃんとは結婚できないけど、いとこならできるぞ」
いったい何の話をしてるんだと思いながらも本間は律義に返す。
「だから、そっちじゃないよ」
「どっちだよ?」
「血のつながりの話じゃなくて。つまり、お兄ちゃんよりいとこは遠い存在なわけよ。年に1回会えればいいほう。ヘタすりゃ3年、5年も顔を合わせないだろう」
「あー、俺、10年以上会ってないいとこがいるわ」
「そう、それ。近いようで果てしなく遠い距離。そんな存在だって言われたんだよ。おまけに、『飯島さんは尊敬できる先輩なのでこれからもそんな関係でいたいです』って、そこまで言われちゃ諦めるしかないだろう?」
「……そ、そうか。……ん? そうなのか?」
果たして飯島の解釈が正解なのかよくわからない。
「じゃなきゃ、あんなセリフ言わないよ」
「いや、でも、あれだ。嫌われているわけじゃないんだし」
「けど、拒絶された。しかも満面の笑みで」
「悪気はないんだと思うよ」
だんだんと飯島の語り口が愚痴っぽくなってくるので、本間はなんとか絞り出してフォローを入れ続けたが……。
「あってたまるかっ!」
飯島は悔しそうに吐き捨てるだけだった。
──これが1か月前の出来事だった。
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