未来はハッピーウェディング?

さとう涼

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番外編(5) キスとベッドと少しの憂鬱

016

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 いつの間にか好きになっていた。

 いつから好きだったんだろう。初めて「好き」という言葉をもらった日? それとも冷凍の宅配便でお土産を送ってもらった日?
 それともまだ誰も出社していない早朝のオフィスで、笑顔で「行ってくるね」とわたしだけに言ってもらった日かな?
 いやもしかすると、社食でわたしが残した椎茸を「ちょうだい」と言って全部食べてしまった日かもしれない。

 だけど正直言うとよくわからない。一希がわたしをドキドキさせてくれたシーンはいくつもある。だから今あげたうちのどれかかもしれないし、他の日かもしれない。

 でも好きだと自覚できるまで少し時間がかかってしまった。
 なんでなんだろう。少し前までは自分でも不思議でならなかった。

 けれど今ならなんとなくわかるような気がする。一希があまりにも素敵だから臆病になっていたんだ。

 一希を意識するようになってから知った過去の女性遍歴は本当なのかそうじゃないのかはわからないけれど、一希に好意を持っている女性が何人もいるのは事実。そんな一希と平凡なわたしとはつり合わないんじゃないかと思って、あの頃はどうしてもあと一歩を踏み出せなかった──。





 一希とつき合って2か月ほどが過ぎ、7月になった。
 ずっと追いかけられる立場だったのにすっかり逆転してしまって、今ではわたしのほうが夢中かもしれない。

 今日も遅くまで残業かな。次はいつ会えるんだろう。家でも会社でも、気を抜くと一希のことばかり考えてしまう。胸がときめいたり、締めつけられたり。メンタルが不安定なところは、自分でも困ったものだと思っている。

「んっ……」

 一希の唇がやわらかく触れてくる。吸いつくように重ねられ、少し遊んだあと離された。

 仕事が早く終わる日は、たまにだけれど一希がうちに泊まりにきてくれる。
 今日は、当時話題になったハリウッド映画を地上波で放送するというので、夕ごはんを食べたあと、ふたり並んでソファに座り、テレビを見ていた。

 やがて映画がはじまる。そして10分ほど経った。だけど内容がぜんぜん頭に入ってこなくて、すでにストーリーについていけない。

 わたしの視界にあるのは一希の顔。初めてキスされたときは恥ずかしくて、うつむきっぱなしだったけれど、少しずつ慣れてきて、なんとか目を合わせられるようになった。

「ごめん、映画どころじゃなくなった」

「ううん。いいの」

 明日は土曜日で会社は休み。だけど一希は休めなくて、それでもこうして会いにきてくれるから……。尽くしたい。一希が望むならいつだって喜んで従う。

「映画より一希のほうが大事だから」

「今から録画する?」

「別にいいよ」

 このタイミングでそんなことどうでもいいのに。

「だめだよ。見たかったんだろう?」

「それほど見たいってわけじゃないから」

「でもこの映画、かなりヒットしたやつだよな」

「そうだけど」

「主演の俳優も来日して──」

「いいから、もう黙って」

 わたしはリモコンを手に取り、テレビを消した。一希から仕掛けたキスなのに、先に我慢の限界がきたのはわたしのほうだった。
 そしてキスが再開する。
 一希のキスはわたしを中毒にさせるからすごく厄介だ。止まらない。やめてほしくなくて、離れていかないように一希のワイシャツの胸元あたりを皺になるくらい握り締めた。
 その間、何度か角度が変わった。変わっても、またすぐに深くなる。目を閉じて一希のキスに酔いしれていく。

 だけど、ふいに唇が離れた。

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