未来はハッピーウェディング?

さとう涼

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番外編(6) 不安の中で

021

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 喫煙所に入ると、飯島がひとりで煙草をくわえていた。しかし俺に気づくと残り少なかったそれをもみ消す。

「仲直りできたのか?」

「なんで知って──。いやっ、別にケンカなんてしてないし……」

「隠すなって。バレバレなんだよ。でもその様子じゃ、まだ誤解は解けてないみたいだな」

「誤解?」

「宮原さん、怒ってたんだろう?」

「そうだけど。誤解ってなんのことだよ?」

 俺だけ何も知らないのか? 

「まさか、その話をしてないのか?」

「だから、その話ってなんだよ? つぐみの様子がおかしかった原因はそれなのか?」

 つぐみは何も言わなかった。ますます気になる。いったいなんの話だったんだ?

「俺たちが来る少し前に社食で秘書課の美咲ちゃんとイチャついていただろう。あのとき宮原さんも俺らと一緒にいて、ばっちり見てたんだよね」

「それでか」

 飯島の言うとおり、美咲と一緒に昼飯を食べていた。美咲は少し早めに戻り、その後は俺ひとりで過ごしていた。

「で、つぐみはどうしたんだよ?」

 一緒に社食まで来ていたのに、俺はつぐみの姿を見ていないぞ。

「社食をやめて、コンビニに行くって出ていった」

 俺と顔を合わせるもの嫌だったということか。美咲を隣に座らせたのは軽率だったかもしれない。
 でもせっかくさっき会ったんだから、あの場でどういうことか聞いてくれたらよかったんだ。

「彼女とはただ一緒に昼飯食ってただけだよ。しかも向こうが俺の隣に座ってきたんだって」

「今さら言い訳してもおせーよ。てか、俺に言っても意味ないし」

「言い訳じゃねえよ。事実だよ」

「美咲ちゃんに、『またごはんに行こうよう』って甘えられて、まんざらでもない受け答えしてたら、宮原さんでなくても勘違いするわっ」

「マジかよ……。その会話を聞いてたのか……」

 美咲は広告代理店の男とつき合っていた。でも少し前にそいつとは別れたらしい。今日一緒に昼飯を食べて、美咲が俺との関係を復活させたいと思っているのはなんとなく伝わってきた。
 しかし俺にはそんなつもりはもちろんなくて、彼女の誘いには乗らなかった。はっきりと断ったわけじゃないが、それで彼女は理解してくれた。
 けれどつぐみにはそれが伝わっていないんだろう。つまり今も勘違いしているということだ。

「だからあんなに怒ってたのか。でもあれはさすがに怒りすぎだよ。たかが飯の誘いぐらいで」

 飯島が言うほど大胆な会話ではなかった。他の人間に聞かれたところで、どうってことない内容だと思う。

「飯の誘い? 少なくとも俺にはそう見えなかったけど」

「それは俺たちの昔の関係を飯島が知ってるからで……」

「そうだよ。実際、そういう会話だったんだろう?」

「……そうだけど」

 過去にそういう関係になったこともある。なので以前の俺たちの間柄だったら飯だけじゃないことが暗黙の了解なのは否定しない。

「じゃあ宮原さんも同じように思ったはず」

「つぐみも?」

「宮原さんも知ってたんじゃないかな。本間と美咲ちゃんの関係」

「なんでだよ!? 噂になってたっけ?」

 俺と彼女の関係は飯島しか知らないはずだ。

「当時はなかったよ。噂が広まったのは最近だよ。美咲ちゃんが彼氏と別れたあと」

 ということは、まさか……。

「でも自分からそんなことを言う子じゃなかったはず」

「本間のせいだよ」

「えっ、俺!?」

「本間が急にひとりの女の子を選ぶから。美咲ちゃんにとっては“自分は体だけの関係だったのになんで?”って思うんじゃないか?」

「でも彼女は……」

「それを承知だったって言いたいんだろう。だけど残念だったな。そこは本間の見込み違いだったってことだよ」

 それにしても女って怖いよなあ、と飯島が呑気に言う。

「他人事だと思って……」

「他人事だからな」

 彼女とはつぐみと出会う前にとっくに関係は切れている。だいたいつぐみと出会ってからは誰とも遊んでいない。俺は清廉潔白なんだ。
 飯島だってそのことを知っているくせに。

「飯島は俺の味方じゃないのか?」

 思わず詰め寄ると、飯島はうっとうしそうに眉根を寄せた。

「なんで俺が……」

「つぐみのこと、まだ好きなのかよ?」

「そんなことよく言えるな。自分のしでかした失態なのに俺に当たんなよ」

「俺は別に……」

 飯島の言うとおりだ。過去の自分がもたらすものの影響は思ったよりも大きかった。
 俺の女の子との噂はデタラメなものも含めていくつもつぐみの耳に入ってしまった。つぐみはあまりそのことで俺を責めなかったが、逆の立場だったらどうだろう。俺だったらそのときどうしていただろう。

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