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おまけ Memory(最終話)
★★★
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いつもと違う格式ばった感じで、その声はちょっとだけ緊張しているみたいだった。
わたしを見つめる瞳は宝石のようにキラキラと輝いている。
──俺と結婚してください。
アパートの玄関先で言われたシンプルな言葉のプロポーズのシーンは、今もわたしの中に刻まれている──…。
淡いピンク色のバラの花束を手にしたスーツ姿の一希を前に、わたしは号泣してしまい、「はい」と言うので精いっぱいだった。しゃくり上げるわたしに一希が困ったように眉尻を下げ、苦笑しながら言った。
「そんなに泣いたら、お腹の赤ちゃんがびっくりしちゃうだろう」
花束を胸に抱いたわたしのお腹を一希の手がやさしく包み込んだ。それは大きくて安心できる手だった。あたたかさがじんわりと染み渡る。
わたしはそれ以上泣かないよう、ゆっくり呼吸をした。するとふいに甘い香りに気づく。
花をもらうのは初めてだった。バラの花束に自分の鼻をくっつけるようにして香りを吸い込んで、しばしその香りに酔いしれる。
「いい匂い。お花もありがとう」
「なんかそれ、つぐみっぽいなって思って」
バラの花一輪一輪がまるでケーキの上にデコレーションされたストロベリー味のクリームみたい。花束はウェディングブーケのようにアレンジメントされていた。
何をどう見れば、これがわたしっぽいんだろうと考えていると、ふいに頬にチュッとキスされる。
「バラなのに控えめで。なのに可愛らしいよね」
「やだ、何言ってるの? わたしには似ても似つかない──」
「俺がそう思ってるんだから、そうなんだよ」
今度は反対側の頬にキスされた。楽しげに、逃げるわたしを追いかけて、最後は唇を重ねられた。
「ごめんな。プロポーズはもっとオシャレな場所でするつもりだったんだけど、どうしても今日したくなっちゃって」
甘い香りの甘いキスのあと、照れくさそうに一希が言った。
出先での仕事が終わったあと、通りかかった花屋の前でこのバラをたまたま目にし、衝動的に買ったらしい。えっ、思いつき? なんてことを一瞬思ったけれど、仕事が終わってすぐにわたしを思い出してくれたんだと思ったらうれしくなって、またうるうるとしてくる。
「ありがとう。すごく感動したよ。最高のプロポーズだった」
「今までちゃんとした言葉を言ってなくてごめん。だいぶ前からつぐみとの結婚は考えていたんだけど……」
そして聞かされた真実。ずっとわたしの仕事のことを考えてくれていたことを知り、想いの深さに胸が熱くなる。
わたしは勝手に思い込んでいた。一希は結婚にはあまり興味がないんだって。でもそうじゃなかった。むしろその逆。わたしなんかよりも、より具体的に未来を描いていたんだ。
「今度、つぐみの仕事のこともちゃんと話し合おうな」
「うん、わかった」
このあと一希は帰っていった。帰ったといっても会社に戻ったという意味。現場での仕事が終わっても、まだ会社でのデスクワークが残っているとのことだった。
本当に衝動的だったんだなあ。念入りに計画されたサプライズも素敵だけれど、これはこれで一希らしくて好き。
思うがまま。仕事のとき、自分の本能に従って何が正しいのかを見極めながら突き進む一希は最高に格好いい。
わたしはお腹の子に話しかけた。
「ねえ、今の聞いてた? あなたのパパって、こんなひとなの」
もう一度、香りを吸い込むと、さっきのプロポーズのシーンがよみがえった。胸がきゅんとときめいて、ドキドキしてくる。
今日のこと、わたしは一生忘れない。その声も、その瞳も、そしてこの感動も。大切に胸にしまっておこう。それは決して色あせないわたしだけのアルバム。
《完》
最後までお読みいただきありがとうございました!
わたしを見つめる瞳は宝石のようにキラキラと輝いている。
──俺と結婚してください。
アパートの玄関先で言われたシンプルな言葉のプロポーズのシーンは、今もわたしの中に刻まれている──…。
淡いピンク色のバラの花束を手にしたスーツ姿の一希を前に、わたしは号泣してしまい、「はい」と言うので精いっぱいだった。しゃくり上げるわたしに一希が困ったように眉尻を下げ、苦笑しながら言った。
「そんなに泣いたら、お腹の赤ちゃんがびっくりしちゃうだろう」
花束を胸に抱いたわたしのお腹を一希の手がやさしく包み込んだ。それは大きくて安心できる手だった。あたたかさがじんわりと染み渡る。
わたしはそれ以上泣かないよう、ゆっくり呼吸をした。するとふいに甘い香りに気づく。
花をもらうのは初めてだった。バラの花束に自分の鼻をくっつけるようにして香りを吸い込んで、しばしその香りに酔いしれる。
「いい匂い。お花もありがとう」
「なんかそれ、つぐみっぽいなって思って」
バラの花一輪一輪がまるでケーキの上にデコレーションされたストロベリー味のクリームみたい。花束はウェディングブーケのようにアレンジメントされていた。
何をどう見れば、これがわたしっぽいんだろうと考えていると、ふいに頬にチュッとキスされる。
「バラなのに控えめで。なのに可愛らしいよね」
「やだ、何言ってるの? わたしには似ても似つかない──」
「俺がそう思ってるんだから、そうなんだよ」
今度は反対側の頬にキスされた。楽しげに、逃げるわたしを追いかけて、最後は唇を重ねられた。
「ごめんな。プロポーズはもっとオシャレな場所でするつもりだったんだけど、どうしても今日したくなっちゃって」
甘い香りの甘いキスのあと、照れくさそうに一希が言った。
出先での仕事が終わったあと、通りかかった花屋の前でこのバラをたまたま目にし、衝動的に買ったらしい。えっ、思いつき? なんてことを一瞬思ったけれど、仕事が終わってすぐにわたしを思い出してくれたんだと思ったらうれしくなって、またうるうるとしてくる。
「ありがとう。すごく感動したよ。最高のプロポーズだった」
「今までちゃんとした言葉を言ってなくてごめん。だいぶ前からつぐみとの結婚は考えていたんだけど……」
そして聞かされた真実。ずっとわたしの仕事のことを考えてくれていたことを知り、想いの深さに胸が熱くなる。
わたしは勝手に思い込んでいた。一希は結婚にはあまり興味がないんだって。でもそうじゃなかった。むしろその逆。わたしなんかよりも、より具体的に未来を描いていたんだ。
「今度、つぐみの仕事のこともちゃんと話し合おうな」
「うん、わかった」
このあと一希は帰っていった。帰ったといっても会社に戻ったという意味。現場での仕事が終わっても、まだ会社でのデスクワークが残っているとのことだった。
本当に衝動的だったんだなあ。念入りに計画されたサプライズも素敵だけれど、これはこれで一希らしくて好き。
思うがまま。仕事のとき、自分の本能に従って何が正しいのかを見極めながら突き進む一希は最高に格好いい。
わたしはお腹の子に話しかけた。
「ねえ、今の聞いてた? あなたのパパって、こんなひとなの」
もう一度、香りを吸い込むと、さっきのプロポーズのシーンがよみがえった。胸がきゅんとときめいて、ドキドキしてくる。
今日のこと、わたしは一生忘れない。その声も、その瞳も、そしてこの感動も。大切に胸にしまっておこう。それは決して色あせないわたしだけのアルバム。
《完》
最後までお読みいただきありがとうございました!
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