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7.幸せの裏側
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冴島さんは恒松社長に案内されて会場に入っていった。
なかの様子をうかがうと、冴島さんは恒松社長とは別行動をしており、会場を歩きながら自社の請け負った仕事を細かくチェックしているようだった。
この日のために用意された大きなスクリーンには新作ジュエリーが映し出されていた。また音響などの様々な機材もたくさん置かれ、あちこちで業者の方がセッティングしている。
そんななか冴島さんは一角にある長テーブルにあるパソコンの前に立つと軽く操作し、それから画面を見ながらなにかを考えはじめた。そばに冴島テクニカルシステムズの社員の方が立っていて、その様子を緊張した面持ちで見守っていた。
やがて難しい顔をした冴島さんが社員の方に声をかけ、パソコンの画面を指さしながらなにか話している。だんだんと鋭い目つきになり、さっきよりも渋い顔をした。
冴島さんはさらに別の社員の方にも指示を出す。
「そこのカメラを一メートルぐらい左に移動させて、高さをもっと上にできる? そこだと会場に人が入ったとき影になるかも。あと通信装置の位置も調整する必要があるな。通信速度がベストになる位置をさがして」
会場にはいくつかカメラが設置されている。その確認をしているようだった。社員の方が冴島さんの指示を受けてテキパキと作業をしていた。
社長室以外で仕事をしている姿を初めて見た。やっぱり格好いいなあ。専門的なことなので、わたしには内容がさっぱりわからないけれど、それからも冴島さんの指示は続く。専門用語が飛び交い、会場が一気に緊迫したものとなった。
「冴島社長っていい男だよなあ」
「えっ、あっ、恒松社長!」
「今、見とれてたでしょう?」
いつの間にか恒松社長がわたしの隣に立っていた。恒松社長は、わたしの心をすっかりお見通しらしく、ニヤニヤしている。
「いいえ、別にそういうわけでは……」
意味がないとわかってはいるけれど、一応否定してみる。
「隠さなくてもいいよ。彼のファンは大勢いる。うちのスタッフにも何人かいるよ。今だってほら……」
恒松社長の見ている方向に顔を向けると、数人の女性スタッフが冴島さんに熱い視線を送りながら、こそこそとなにか話している。
でもこういうのは最初からわかっていたこと。今さらやきもちを焼いたり、不安がったりしてもしょうがない。
「女に不自由しなさそうな人間がひとりの女に本気になったら、どんなふうに変わるんだろうな」
「冴島社長は変わらないと思います。穏やかな人ですから」
「そうかな? たとえ相手が俺でも容赦なく歯向かってくるに決まってる」
「あの、おっしゃっている意味がわからないんですが」
いったいなんの話なのだろう。冴島さんが恒松社長に歯向かうって……。そんなことあるわけないのに。
「いつも朗らかに笑っている人間ほど、怖いものはないって意味。内に秘めたるものは意外に強情で、ときに激しいものじゃないかな」
「えっ?」
やっぱり意味がわからず首を傾げるが、恒松社長はそれ以上のことは教えてくれなかった。
それから少しして、冴島さんは次の仕事先へ向かうため店をあとにした。レセプション終了後のパーティーには出席すると言っていたので、相変わらず忙しそうだ。
ちなみにパーティーはここではなく、ホテルで行うそうだ。そのホテルで一番広い会場らしく、レセプションに出席しない方々も数多く招待されているとのことだった。
なかの様子をうかがうと、冴島さんは恒松社長とは別行動をしており、会場を歩きながら自社の請け負った仕事を細かくチェックしているようだった。
この日のために用意された大きなスクリーンには新作ジュエリーが映し出されていた。また音響などの様々な機材もたくさん置かれ、あちこちで業者の方がセッティングしている。
そんななか冴島さんは一角にある長テーブルにあるパソコンの前に立つと軽く操作し、それから画面を見ながらなにかを考えはじめた。そばに冴島テクニカルシステムズの社員の方が立っていて、その様子を緊張した面持ちで見守っていた。
やがて難しい顔をした冴島さんが社員の方に声をかけ、パソコンの画面を指さしながらなにか話している。だんだんと鋭い目つきになり、さっきよりも渋い顔をした。
冴島さんはさらに別の社員の方にも指示を出す。
「そこのカメラを一メートルぐらい左に移動させて、高さをもっと上にできる? そこだと会場に人が入ったとき影になるかも。あと通信装置の位置も調整する必要があるな。通信速度がベストになる位置をさがして」
会場にはいくつかカメラが設置されている。その確認をしているようだった。社員の方が冴島さんの指示を受けてテキパキと作業をしていた。
社長室以外で仕事をしている姿を初めて見た。やっぱり格好いいなあ。専門的なことなので、わたしには内容がさっぱりわからないけれど、それからも冴島さんの指示は続く。専門用語が飛び交い、会場が一気に緊迫したものとなった。
「冴島社長っていい男だよなあ」
「えっ、あっ、恒松社長!」
「今、見とれてたでしょう?」
いつの間にか恒松社長がわたしの隣に立っていた。恒松社長は、わたしの心をすっかりお見通しらしく、ニヤニヤしている。
「いいえ、別にそういうわけでは……」
意味がないとわかってはいるけれど、一応否定してみる。
「隠さなくてもいいよ。彼のファンは大勢いる。うちのスタッフにも何人かいるよ。今だってほら……」
恒松社長の見ている方向に顔を向けると、数人の女性スタッフが冴島さんに熱い視線を送りながら、こそこそとなにか話している。
でもこういうのは最初からわかっていたこと。今さらやきもちを焼いたり、不安がったりしてもしょうがない。
「女に不自由しなさそうな人間がひとりの女に本気になったら、どんなふうに変わるんだろうな」
「冴島社長は変わらないと思います。穏やかな人ですから」
「そうかな? たとえ相手が俺でも容赦なく歯向かってくるに決まってる」
「あの、おっしゃっている意味がわからないんですが」
いったいなんの話なのだろう。冴島さんが恒松社長に歯向かうって……。そんなことあるわけないのに。
「いつも朗らかに笑っている人間ほど、怖いものはないって意味。内に秘めたるものは意外に強情で、ときに激しいものじゃないかな」
「えっ?」
やっぱり意味がわからず首を傾げるが、恒松社長はそれ以上のことは教えてくれなかった。
それから少しして、冴島さんは次の仕事先へ向かうため店をあとにした。レセプション終了後のパーティーには出席すると言っていたので、相変わらず忙しそうだ。
ちなみにパーティーはここではなく、ホテルで行うそうだ。そのホテルで一番広い会場らしく、レセプションに出席しない方々も数多く招待されているとのことだった。
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