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1章 転生後の日常―崩壊まで
5話 避難先
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故郷を離れてから何日経っただろうか、デリング先生の住むゼイヴァ村までは通常、王都を経由すれば早一日で着くが、反逆者の身となった俺たちは王都を経由しない経路を辿らなければならない。
そのため、村までは遅くとも5、6日はかかってしまう。
僅かな食料と資金を頼りに、デリング先生宅に向かう。
「バティストさん、ゼイヴァ村まであとどれくらいで着きますか?」
「んー…このまま悪天候にならなければ夜には着くと思います」
それを聞いたアルベルトは、「もうすぐ着くんだな」と言って、ほっとしたような表情を浮かべていた。
「あのう、大変失礼を承知でお尋ねしますが…デリング先生が必ずとも味方してくれるとは限りませんよね、その…もしデリング先生もグルだったら……」
バティストの不安そうな様子に俺は少し明るめに応える。
「大丈夫ですよ、デリング先生に限って私たちを売るようなことはしないと思います」
「ですが―」
「絶対大丈夫です、私はデリング先生を信頼してますから」
そう言うとバティストは多少心配そうだったが、何とか不安を鎮めることはできた。
でも確かにバティストの言うようにデリング先生が裏切らない保障はない、もし万が一裏切っていたらその時は……。
「安心しなってバティスト、カイザーがそう言ってりゃあ間違いないって、俺自身もカイザーと先生を信用してるし、もちろんお前のことも信用してるからな」
「アルベルト様……」
皆の信頼が深まってから数時間が経ち、夜になったの見計らって俺は馬車の窓を少し開け、外を見るとゼイヴァ村が視界に入った。
「アルベルト、村が見えて来たぞ、何とか無事に着きそうだな」
「やっとかあ、長い旅だったな、バティストもお疲れさん」
その後、俺たちは無事にゼイヴァ村にたどり着くことができた。
デリング先生の家に着いた俺たちは、ドアを三回ノックして様子を見ると、中からドタバタと走るような音をし始めたと思ったら、ドアが大きく開き、そこに走って息切れしているデリング先生が姿を現した。
「お前たち!無事だったか!よかった…本当に…無事で良かった…」
そう言ってデリング先生は俺たちに抱き着き、俺たちの頭を撫で回す。
「んで、お前はどちらさんじゃ?」
デリング先生はバティストの方に視線を向け尋ねる。
バティストは慌てながらもデリング先生に向けて簡単な自己紹介を始める。
「えっと、初めまして…でしょうか?アルベルト様一行の御者のバティスト・エルベです」
バティストが名乗ると、デリング先生は思い出すように「そうだった、そいうえばいたね」と言ってハハハッと笑った。
「おっと笑ってる場合じゃなかったな、まずは中に入れ」
俺たちは荷物を背負ってデリング先生宅にお邪魔し、それぞれ椅子に腰掛けた。
「君たちはどうやって来たのかね、まさか王都を経由してはいないだろう?」
デリング先生は俺にそう聞き、4人分の紅茶を持ってテーブルに置く。
「そうですね、私たちは王都を経由せず、少し遠回りしてゼイヴァ村へ向かいました、時間はかかりましたが、なんとか先生のご自宅に無事たどり着けました」
俺は目の前にあるカップを取って紅茶を飲む。
先生の入れた紅茶は温かく、心が落ち着いていく。
「今はここゼイヴァ村全体にはまだ通達が行ってないようだ、だが近くの一部村はもう君たちの手配状が出回っている、この村にも伝わるのは時間の問題だ、君たちは一刻も早く国外へ出た方がいい
「国外って!?俺たちはどこの国に行けばいいんだ!?」
アルベルトはデリング先生に詰め寄って尋ねる。
デリング先生は「とりあえず落ち着くんだ」と言ってアルベルトを宥め、先生は一旦深呼吸をして言った。
「はるか南の方に位置する国…タンベルク連合国がいいだろう、そこにはわしの昔から付き合いのある友人がおる、しかし、パルシア王国と同じ勇国系列のクヴェレ王国を通過しなければならぬ、それさえ突破できれば、君たちの身は大丈夫だろう」
デリング先生の提案にバティストが突如「それは無理だ!」と言った。
急に声を荒げて言うバティストに俺とアルベルトは驚き、バティストの方に視線を移した。
「おそらくクヴェレ王国にもアルベルト様方の手配が行ってるはずです!国境近くの検問でばれるのが目に見えます!」
バティストの言葉に皆は静まりかえった。
確かにそれは一理ある、この世界にあるパルシア王国とクヴェレ王国含む5ヵ国は勇国と呼ばれ、5ヵ国それぞれは独立国ではあるが、軍隊や体制、連絡網など、連携がかなりとられている同盟網だ。
なかでもパルシアは勇国系列の中で最も影響力がある、すでにもうクヴェレにも俺たちの情報がいってるのだろう。
「じゃあ、どうやってタンベルクまで行くんだ?俺たちにはもうそれしか生き残る方法はないんだろ?」
皆が考え込む中、俺はある一つの方法を思いついた。
いや、これはかなり賭けに近い、この方法じゃ衝突は免れない、重傷を負う可能性だってある。
「一つ…これは一か八かだが、方法がある」
俺がそう言うと、皆の視線が俺の方に集中した。
「どう突破するんだ?カイザー」とアルベルトに聞かれ、俺は思いついたことを説明した。
「いや待て、それはリスクが大きすぎる、早期に決着できず援軍が来ちまったら俺たち終わりだぞ」
アルベルトは俺の編み出した方法に反対し、バティストも「危険すぎる!特に私なんて絶対足引っ張ります!」と言って反対する。
それでも俺は説得を続け、最終的には「わかった」と了承してくれ、その後俺たちは作戦を立てる。
デリング先生も一緒に作戦を考えてくれて、スムーズに事を進めていく。
しかしあと一つ、国境突破に欠かせない重要な項目につまずいた。
「これの説得、誰がやるんだ?さすがにデリング先生を連れてくわけにはいかないだろ」
「ああ、わしも君たちと行けたらよかったが、この村を者たちを見捨てるわけにはいかないからのう」
この場が静まりかえる中、俺は静かに手を挙げて言った。
「この者たちの説得は…私がやります」
俺の言葉にアルベルトが立って俺に言う。
「カイザーいいのか!?あいつらが俺たち人間の味方なんてすると思うか?下手すればお前殺されるかもしれないんだぞ!」
アルベルトは俺の身を案じて言ってくれたのだろう、でもデリング先生以外に唯一説得が可能なのは俺しかいない。
「デリング先生以外で”魔族”たちの言葉を話せるのは俺しかいない、大丈夫だ、俺の中にはいくつか交渉材料は揃ってる」
そう言うと、アルベルトは理解を示し、「わかったよ」と応えた。
「でもカイザー、無理はするなよ、俺はもうこれ以上身内が死ぬのはごめんだからよ」
「もちろん、そう簡単にくたばるわけにはいかないからな」
俺はふと死んでしまう前のカルラと死んでしまったカルラ両方の顔を思い出す。
カルラの無邪気な笑顔に俺はどれだけ救われたか、俺がこの世界に転生した後でも前世の過ちに何度も苦しんだ、今も、それでも唯一その苦しみを忘れられる時がアルベルトとカルラとで過ごした日常だった。
特にカルラが会うたびいつも俺に見せた笑顔が何よりも癒しだった、なのに、その笑顔も突如奪われた、最後に見たカルラの顔は見せしめのように槍に刺さったままだった首だけのカルラの死顔、カルラからの告白の返事がもうできないことが心残りだった。
これは俺に与えられた天罰のなのか、前世で多くの命を奪ってきたからか?
「カイザー、大丈夫か?顔色悪いぞ」
アルベルトが心配して俺に話しかける。
「ああ、ちょっとカルラを思い出しただけだ、問題ない」
「あまり無茶はするなよ、お前が倒れたら、カルラに怒られちまうからな」
「…ありがとう、お前が一番辛いだろうに…」
俺とアルベルト、バティストは、デリング先生が新しく入れなおした紅茶を飲み干し、3日後の出発に備えて準備を始めた。
そのため、村までは遅くとも5、6日はかかってしまう。
僅かな食料と資金を頼りに、デリング先生宅に向かう。
「バティストさん、ゼイヴァ村まであとどれくらいで着きますか?」
「んー…このまま悪天候にならなければ夜には着くと思います」
それを聞いたアルベルトは、「もうすぐ着くんだな」と言って、ほっとしたような表情を浮かべていた。
「あのう、大変失礼を承知でお尋ねしますが…デリング先生が必ずとも味方してくれるとは限りませんよね、その…もしデリング先生もグルだったら……」
バティストの不安そうな様子に俺は少し明るめに応える。
「大丈夫ですよ、デリング先生に限って私たちを売るようなことはしないと思います」
「ですが―」
「絶対大丈夫です、私はデリング先生を信頼してますから」
そう言うとバティストは多少心配そうだったが、何とか不安を鎮めることはできた。
でも確かにバティストの言うようにデリング先生が裏切らない保障はない、もし万が一裏切っていたらその時は……。
「安心しなってバティスト、カイザーがそう言ってりゃあ間違いないって、俺自身もカイザーと先生を信用してるし、もちろんお前のことも信用してるからな」
「アルベルト様……」
皆の信頼が深まってから数時間が経ち、夜になったの見計らって俺は馬車の窓を少し開け、外を見るとゼイヴァ村が視界に入った。
「アルベルト、村が見えて来たぞ、何とか無事に着きそうだな」
「やっとかあ、長い旅だったな、バティストもお疲れさん」
その後、俺たちは無事にゼイヴァ村にたどり着くことができた。
デリング先生の家に着いた俺たちは、ドアを三回ノックして様子を見ると、中からドタバタと走るような音をし始めたと思ったら、ドアが大きく開き、そこに走って息切れしているデリング先生が姿を現した。
「お前たち!無事だったか!よかった…本当に…無事で良かった…」
そう言ってデリング先生は俺たちに抱き着き、俺たちの頭を撫で回す。
「んで、お前はどちらさんじゃ?」
デリング先生はバティストの方に視線を向け尋ねる。
バティストは慌てながらもデリング先生に向けて簡単な自己紹介を始める。
「えっと、初めまして…でしょうか?アルベルト様一行の御者のバティスト・エルベです」
バティストが名乗ると、デリング先生は思い出すように「そうだった、そいうえばいたね」と言ってハハハッと笑った。
「おっと笑ってる場合じゃなかったな、まずは中に入れ」
俺たちは荷物を背負ってデリング先生宅にお邪魔し、それぞれ椅子に腰掛けた。
「君たちはどうやって来たのかね、まさか王都を経由してはいないだろう?」
デリング先生は俺にそう聞き、4人分の紅茶を持ってテーブルに置く。
「そうですね、私たちは王都を経由せず、少し遠回りしてゼイヴァ村へ向かいました、時間はかかりましたが、なんとか先生のご自宅に無事たどり着けました」
俺は目の前にあるカップを取って紅茶を飲む。
先生の入れた紅茶は温かく、心が落ち着いていく。
「今はここゼイヴァ村全体にはまだ通達が行ってないようだ、だが近くの一部村はもう君たちの手配状が出回っている、この村にも伝わるのは時間の問題だ、君たちは一刻も早く国外へ出た方がいい
「国外って!?俺たちはどこの国に行けばいいんだ!?」
アルベルトはデリング先生に詰め寄って尋ねる。
デリング先生は「とりあえず落ち着くんだ」と言ってアルベルトを宥め、先生は一旦深呼吸をして言った。
「はるか南の方に位置する国…タンベルク連合国がいいだろう、そこにはわしの昔から付き合いのある友人がおる、しかし、パルシア王国と同じ勇国系列のクヴェレ王国を通過しなければならぬ、それさえ突破できれば、君たちの身は大丈夫だろう」
デリング先生の提案にバティストが突如「それは無理だ!」と言った。
急に声を荒げて言うバティストに俺とアルベルトは驚き、バティストの方に視線を移した。
「おそらくクヴェレ王国にもアルベルト様方の手配が行ってるはずです!国境近くの検問でばれるのが目に見えます!」
バティストの言葉に皆は静まりかえった。
確かにそれは一理ある、この世界にあるパルシア王国とクヴェレ王国含む5ヵ国は勇国と呼ばれ、5ヵ国それぞれは独立国ではあるが、軍隊や体制、連絡網など、連携がかなりとられている同盟網だ。
なかでもパルシアは勇国系列の中で最も影響力がある、すでにもうクヴェレにも俺たちの情報がいってるのだろう。
「じゃあ、どうやってタンベルクまで行くんだ?俺たちにはもうそれしか生き残る方法はないんだろ?」
皆が考え込む中、俺はある一つの方法を思いついた。
いや、これはかなり賭けに近い、この方法じゃ衝突は免れない、重傷を負う可能性だってある。
「一つ…これは一か八かだが、方法がある」
俺がそう言うと、皆の視線が俺の方に集中した。
「どう突破するんだ?カイザー」とアルベルトに聞かれ、俺は思いついたことを説明した。
「いや待て、それはリスクが大きすぎる、早期に決着できず援軍が来ちまったら俺たち終わりだぞ」
アルベルトは俺の編み出した方法に反対し、バティストも「危険すぎる!特に私なんて絶対足引っ張ります!」と言って反対する。
それでも俺は説得を続け、最終的には「わかった」と了承してくれ、その後俺たちは作戦を立てる。
デリング先生も一緒に作戦を考えてくれて、スムーズに事を進めていく。
しかしあと一つ、国境突破に欠かせない重要な項目につまずいた。
「これの説得、誰がやるんだ?さすがにデリング先生を連れてくわけにはいかないだろ」
「ああ、わしも君たちと行けたらよかったが、この村を者たちを見捨てるわけにはいかないからのう」
この場が静まりかえる中、俺は静かに手を挙げて言った。
「この者たちの説得は…私がやります」
俺の言葉にアルベルトが立って俺に言う。
「カイザーいいのか!?あいつらが俺たち人間の味方なんてすると思うか?下手すればお前殺されるかもしれないんだぞ!」
アルベルトは俺の身を案じて言ってくれたのだろう、でもデリング先生以外に唯一説得が可能なのは俺しかいない。
「デリング先生以外で”魔族”たちの言葉を話せるのは俺しかいない、大丈夫だ、俺の中にはいくつか交渉材料は揃ってる」
そう言うと、アルベルトは理解を示し、「わかったよ」と応えた。
「でもカイザー、無理はするなよ、俺はもうこれ以上身内が死ぬのはごめんだからよ」
「もちろん、そう簡単にくたばるわけにはいかないからな」
俺はふと死んでしまう前のカルラと死んでしまったカルラ両方の顔を思い出す。
カルラの無邪気な笑顔に俺はどれだけ救われたか、俺がこの世界に転生した後でも前世の過ちに何度も苦しんだ、今も、それでも唯一その苦しみを忘れられる時がアルベルトとカルラとで過ごした日常だった。
特にカルラが会うたびいつも俺に見せた笑顔が何よりも癒しだった、なのに、その笑顔も突如奪われた、最後に見たカルラの顔は見せしめのように槍に刺さったままだった首だけのカルラの死顔、カルラからの告白の返事がもうできないことが心残りだった。
これは俺に与えられた天罰のなのか、前世で多くの命を奪ってきたからか?
「カイザー、大丈夫か?顔色悪いぞ」
アルベルトが心配して俺に話しかける。
「ああ、ちょっとカルラを思い出しただけだ、問題ない」
「あまり無茶はするなよ、お前が倒れたら、カルラに怒られちまうからな」
「…ありがとう、お前が一番辛いだろうに…」
俺とアルベルト、バティストは、デリング先生が新しく入れなおした紅茶を飲み干し、3日後の出発に備えて準備を始めた。
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