異世界の神様

神町 恵

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第4章 デザスター

魔の集約

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欧州某国──。
戦場を覆う空気は、血と灰の匂いに満ちていた。砕けた石畳には、天に召されたはずの神や天使たちの亡骸が折り重なり、その数は視界の端から端まで埋め尽くしている。
彼らの肉体は現世の物質から切り離され、光灰へと還っていく途中だ。しかし、その魂源はまだ神界へ帰還していない。それは、この地で行われた惨劇が魂さえ縛りつける異質な力を伴っていたことを示していた。

その中心に、ただ一人、黒い影が立つ。
全身黒のスーツに身を包み、黒髪短髪の青年──煙山。目の奥に揺らぎはなく、静かな闘気だけが肌を刺す。彼の手にあるのは、変形・伸縮自在の多節槍。その刃先はまだ血のような光を帯び、地面に落ちるたびに微かな火花を散らしていた。

回生の神・スワは、その光景を見据え、ただ一瞬だけ瞳を細めた。
その背後では、神と天使たちが半円を描き、いつでも飛び出せるよう構えている。しかし彼らの呼吸は浅く、目には恐怖の色が浮かんでいた。

「……あなたは確か──」
スワは低く、しかしはっきりと声を発した。頭の奥底で、旧・法の神ダラスの記憶が蘇る。

かつて、ダラスが管理していた次元世界の一つ……16571次元48星で、激しい暴動が勃発した。秩序は崩れ、街は炎に包まれ、滅亡は目前だった。あの混沌の中心にいたのが、この男──煙山。
最終的にダラスが暴動を鎮め、秩序を取り戻したが、煙山だけは霧のように姿を消し、行方は知れなかった。

「煙山、あなたがなぜこの世界にいるのですか? まさか、この惨劇を引き起こしたのは──」
スワの声音には揺らぎがなかったが、その奥底には鋼鉄の意志が張り詰めていた。

煙山はゆっくりと顔を上げ、冷ややかな笑みすら浮かべずに言った。
「私が、そう易々と話すとでも?」
その言葉は淡々としているが、刃よりも鋭く、周囲の空気を切り裂く。

「私の役目は、ここで神たちの相手をする──それだけです」
次の瞬間、黒い影が弾けた。

空気が破裂する音と共に、煙山はスワの眼前へと迫る。
槍が多節に展開し、縦横無尽に伸び縮みしながら襲いかかる。その動きは蛇のようにしなやかで、稲妻のように鋭い。

しかしスワは一歩も退かず、その槍の動力そのものを掴み取った。
回生の権能──回転する力を吸収し、逆流させ、静止させる。その見えぬ力が槍の流れを狂わせ、刃先はスワの頬を掠めただけで逸れた。

「……事前に得た情報通りの能力ですね」
煙山はわずかに目を細める。

「悪いですが、あなたの相手をしている暇はありません」
スワの声音は冷たく、氷のように張り詰めていた。



ケイは足を止めず、魔力の濃度が極限に達する方向へと駆け抜けていた。
そこは空気が重く淀み、魔力が地脈のように脈打つ場所。そして、その中心に立っていたのは、一人の少女だった。

王陵早苗。
薄笑みを浮かべ、その瞳には執念と歓喜を湛えている。

「見つけたぞ、王陵!」
ケイの声には怒気が滲み、握るグレイヴの刃先が彼女を真っ直ぐに射抜いた。

「想定より早く来ましたね」
王陵は肩をすくめ、不敵な笑みを浮かべる。

「王陵! 今すぐ召喚魔法を解け! 解かないなら──神の名において、今ここで斬る!」
その声は殺気を孕み、風が裂けた。

しかし彼女は一歩も退かず、冷ややかに答える。
「いいえ、計画を終わらせるわけにはいきません。神様には、この世界にいる魔神、魔王、魔人、魔獣……全て倒してもらいます」

「お前の目的はなんだ!?」
ケイの問いは鋭く突き刺さる。

「ありとあらゆる世界の魔物を、この世界にすべて集める。そして、あなた方神様と魔法少女に倒してもらうためです」

「……なんだと……」
その計画の異常さに、ケイは息を詰まらせた。

「だが、お前が魔物を出現させたせいで、この世界の人々が今も殺されているんだぞ! 一体何がしたいんだ!?」

王陵の瞳がわずかに揺れるが、その声は迷いなく響いた。
「では、魔物を元の世界に戻せと言うのですか?」

ケイは言葉を失い、胸の奥で何かが軋む。

「魔物たちを元の世界に戻せば、戻された世界で何人もの人が犠牲になる! あなたの言っていることは、そういうことよ!」

「だからといって、この世界の人々を犠牲にするのは間違ってる!」

王陵の声が震えた。
「……私の元いた世界は、魔王に滅ぼされる運命だった」

「まさか……お前、ここの世界の人間じゃないのか!?」

「そうよ。私は別の世界で、魔法少女として人々を救ってきた」

「なぜ……ここの世界に来た?」

その問いに、王陵は一瞬だけ唇を噛み、そして叫ぶ。
「私は……私のいた世界を、人々を、楓を……死の運命から変えるために! この世界を犠牲にしてでも、運命を変えてみせる!」

その言葉は、悲願にも似た狂気を孕み、戦場の空気をさらに重くした。
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