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第1章 ディストピア
新たな神務
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十年――
人間と同じ時間感覚で数えて、すでに十年という歳月が過ぎていた。
神となったケイは、神界の掟に基づき、様々な次元世界へと赴き、災厄を鎮め、秩序を守り、絶望の淵にあった文明を救済してきた。
かつては下位神にすぎなかったが、いまやその働きは多くの神々の目に留まり、正式に中位神へと昇格を果たしていた。
それは、単なる階級ではない。
責任の重さ、扱える力の大きさ、干渉の範囲、そして決断の孤独――
すべてが、彼に新たな段階を強いるものだった。
ケイが神となるきっかけを作ってくれた、かつての中位神――いまは上位神となった回生の神・スワとの再会は、奇しくもまたある次元の戦争を終えた直後だった。
場面は、神界の外縁にある浮遊城「界閣ノ庭」。
雲上に築かれた白亜の離宮。その庭園で、ケイとスワは向かい合って座っていた。
スワは昔と変わらず、丁寧で落ち着いた口調で、湯気の立つ紅茶を片手に微笑んだ。
「……救済は順調みたいですね、ケイ」
「はい。……なんとか」
ケイの表情は穏やかだったが、その奥には深い疲労と、何かを抱え込んだ者の影が浮かんでいた。
「ですが……私が今までに赴いた世界で、私の手を貸してくれた、現世の仲間たち……彼らはもう、この世界にはいません」
目を伏せるケイの瞳には、一瞬だけ過ぎ去った日々の光景が蘇る。
激しい戦火に包まれた大地。
命を懸けて戦った同志たちの笑顔。
その一人ひとりが、彼に神の資格以上の「人としての重み」を与えてくれた。
「今は、35826次元58星……“サファ連邦”を拠点にしています。あの世界から各次元へと……救済を続けています」
「――黒体人の世界でしたね」
黒体人とは、全身は黒色であり、頭部は人間より丸っこく少し大きい。顔の肌は黒か白で、特に顔の肌が黒い者は”ファントム“と呼ばれ、異能力を使うことができる種族だ。
スワは頷き、紅茶を一口すする。
その味を確かめるように、しばし目を閉じてから言葉を継ぐ。
「35826次元は、異界でも屈指の戦乱地域だと聞いていましたが……よくぞ、そこを平定なされました。
……さぞ、大変だったでしょう?」
ケイはかすかに笑った。
「いえ、私一人の力では到底……。
サファ連邦の人々が、それぞれの想いと力を持ち寄ってくれたからこそ、短期間で武力統一が果たせたんです」
しかし――その言葉の裏には、語られぬ「犠牲」があった。
空を焼いた赤い炎。
黒体人の英雄が笑って倒れたその瞬間。
直属家臣の最期の言葉――「神様、私は、この国を守れたでしょうか?」
胸の奥が、ずきりと痛む。
それでも、ケイは神として、歩みを止めるわけにはいかなかった。
「そういえば――」
話を切り替えるように、ケイはスワを見据える。
「……今回、お呼びいただいた“話”というのは、なんでしょう?」
紅茶を置いたスワは、少しだけ表情を引き締めた。
「……君に任せたい事案があります」
その言葉に、ケイの瞳が静かに揺れる。
これまでいくつもの世界の命運に関わってきたケイだったが、スワがこのような険しい顔で頼みごとを持ちかけるのは、これが初めてだった。
人間と同じ時間感覚で数えて、すでに十年という歳月が過ぎていた。
神となったケイは、神界の掟に基づき、様々な次元世界へと赴き、災厄を鎮め、秩序を守り、絶望の淵にあった文明を救済してきた。
かつては下位神にすぎなかったが、いまやその働きは多くの神々の目に留まり、正式に中位神へと昇格を果たしていた。
それは、単なる階級ではない。
責任の重さ、扱える力の大きさ、干渉の範囲、そして決断の孤独――
すべてが、彼に新たな段階を強いるものだった。
ケイが神となるきっかけを作ってくれた、かつての中位神――いまは上位神となった回生の神・スワとの再会は、奇しくもまたある次元の戦争を終えた直後だった。
場面は、神界の外縁にある浮遊城「界閣ノ庭」。
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スワは昔と変わらず、丁寧で落ち着いた口調で、湯気の立つ紅茶を片手に微笑んだ。
「……救済は順調みたいですね、ケイ」
「はい。……なんとか」
ケイの表情は穏やかだったが、その奥には深い疲労と、何かを抱え込んだ者の影が浮かんでいた。
「ですが……私が今までに赴いた世界で、私の手を貸してくれた、現世の仲間たち……彼らはもう、この世界にはいません」
目を伏せるケイの瞳には、一瞬だけ過ぎ去った日々の光景が蘇る。
激しい戦火に包まれた大地。
命を懸けて戦った同志たちの笑顔。
その一人ひとりが、彼に神の資格以上の「人としての重み」を与えてくれた。
「今は、35826次元58星……“サファ連邦”を拠点にしています。あの世界から各次元へと……救済を続けています」
「――黒体人の世界でしたね」
黒体人とは、全身は黒色であり、頭部は人間より丸っこく少し大きい。顔の肌は黒か白で、特に顔の肌が黒い者は”ファントム“と呼ばれ、異能力を使うことができる種族だ。
スワは頷き、紅茶を一口すする。
その味を確かめるように、しばし目を閉じてから言葉を継ぐ。
「35826次元は、異界でも屈指の戦乱地域だと聞いていましたが……よくぞ、そこを平定なされました。
……さぞ、大変だったでしょう?」
ケイはかすかに笑った。
「いえ、私一人の力では到底……。
サファ連邦の人々が、それぞれの想いと力を持ち寄ってくれたからこそ、短期間で武力統一が果たせたんです」
しかし――その言葉の裏には、語られぬ「犠牲」があった。
空を焼いた赤い炎。
黒体人の英雄が笑って倒れたその瞬間。
直属家臣の最期の言葉――「神様、私は、この国を守れたでしょうか?」
胸の奥が、ずきりと痛む。
それでも、ケイは神として、歩みを止めるわけにはいかなかった。
「そういえば――」
話を切り替えるように、ケイはスワを見据える。
「……今回、お呼びいただいた“話”というのは、なんでしょう?」
紅茶を置いたスワは、少しだけ表情を引き締めた。
「……君に任せたい事案があります」
その言葉に、ケイの瞳が静かに揺れる。
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