異世界の神様

神町 恵

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第1章 ディストピア

法と祈り

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空気が裂ける。

黒き斬撃、グレイヴの双刃が地を蹴って宙を走り、法神ダラスの胸元めがけて振るわれた。
黒光りするその軌跡は、まるでこの世の理不尽を切り裂く意志の具現のようだった。

しかし、ダラスは嘲笑う。

「私の身体に傷が付くわけがない。私の法にはこう定められている——
『法神ダラスに危害を加えることはできない』、と。」

だが次の瞬間——

ズバァァッ!!

ダラスの胸元に黒刃が深く食い込み、赤黒い血が飛び散った。

ダラスの目が驚愕に見開かれる。
「……なぜ、この私が……斬られている……?」

思わず数歩後退し、胸元を押さえる。血が滴り落ち、地に黒い染みを作る。

「法に……逆らったのか……? いや、そんなはずはない……たかが中位神ごときが、
上位神である私の権能を……破るなど……ありえない!」

そのとき、ケイが膝をつき、口から鮮血を噴いた。

「ぐっ……ッ!!」

ケイの身体に、見えない“法の反動”が襲いかかる。
血管は浮き出し、吐血と共に内臓が焼けつくような痛みに襲われる。

ダラスが静かに言い放つ。

「私に逆らった反動だ。普通なら吐血程度では済まなかったがな。
私の法には万が一の逸脱に備え、"刑罰"が定められている。
法を破れば『死刑』。それも——爆散、だ。」

重い言葉だった。
絶対の法によって命を縛り、思考すら捻じ曲げる神の権能『法(ノモス)』——それがダラスの力だ。

だがケイは、口元を拭いながら笑う。

「だから、なんだ……?」
「お前、自分中心に回ってるって思ってるだろ?
そんなだから……神界でも、人界でも、嫌われるんだよ」

ダラスの表情が僅かに歪む。

「なに……?」

ケイは立ち上がり、グレイヴを構えると共に怒気を帯びた声で叫んだ。

「神はな……人々に愛し、愛され、救う者だ。
なのにお前は、人の命を、人生を、犠牲にして見下してる……
そんなやつに……負けるわけにはいかねぇ!!」

「まったく……愚かな神だ。だから気に入らないんだ……元人間の神なんかを」
ダラスが呆れたように呟く。

その瞬間、ケイは再び突撃。
刃を横に払うように振り、次の一手として収納魔法を展開。

黒い霧が宙に渦巻き、次の瞬間、手の中に一丁のショットガンが出現した。

「くらえッ!!」

至近距離から、ダラスの腹部めがけて渾身の一撃をぶっ放つ。
炸裂音とともに魔法弾がダラスの胴体を撃ち抜き、血しぶきが舞った。

しかしその直後、ケイの身体も引き裂かれるように痛み、肩口から血が吹き出した。

「ッ……くそが……!」

攻撃のたびに、自分の身体もまた罰せられる。
それが“法の神”の作り出した不条理な鎖だった。

互いに神。
だが神といえども、傷を負えば回復には時間を要する。
再生する肉体が追いつかないほどに、彼らは限界を超えていた。



収容所跡。

人権損失者たちが呆然と、その戦いを見守っていた。

その中心で、一人の少女が両手を胸元に強く握っていた。

「お願い……勝って……」
その声は微かだったが、祈りは確かに空に届くほどの強さを持っていた。

一之瀬渚。
その小さな祈りが、風に乗ってケイの背を押していた。

ケイの目が炎のように燃える。

「絶対に……お前を倒す!」

そして再び刃を握り直し、グレイヴとショットガンを左右に構える。

「これは、聖戦だ。俺が選んだ“神”としての生き方だ。
お前が定めた"法"なんざ、全部ぶっ壊してやるッ!!」

それは、法に支配された世界に対する反逆。
そして、ただ一人の少女の祈りに応えるための、神の咆哮だった。

──戦いは、終焉に向かって、なお激しさを増してゆく。
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