異世界の神様

神町 恵

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第3章 魔法世界

秘密の箱

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そこは、空も地面もなく、光すら定義されない空間。黒と深紅のもやが淡く漂う不定形の場に、ザクの荒々しい吐息が響いていた。

「……チッ、どこ行きやがったニキの野郎」

唇を吊り上げ、頭を乱暴に掻きながら、ザクは宙に向かって毒づく。喧嘩腰の目つきで周囲を睨みつけながら、重々しい足取りで歩いていた。

そのとき、すぐ近くの空間の裂け目から、一人の男の姿が現れる。

顔色の白い黒体人、左の頬には青い稲妻のような印に細めの目でこちらを見下ろしていた。

デルタ・キ・ナータリ――何を考えているかわからないその薄ら笑みを浮かべながら、薄気味悪さのオーラを放って近づいてくる。

「これはこれは。ザクですか」

「……なんだ、お前もいたのかぁ」

ザクは気だるげに言いながらも、どこか苛立ちのままデルタに近寄る。

デルタは両手を背後に組みながら、笑顔を崩さぬまま言葉を返す。

「今日は“あの方”がいらっしゃるようですよ」

「あの方?……ああ、いけ好かねえアイツのことかぁ」

ザクは吐き捨てるように言いながらも、少し目を細めた。

「そういやよぉ、ニキ見なかったか? アイツがいなかったからよぉ……」

「……あれ? ご存じではなかったのですか?」

デルタがまるで子どもをからかうような口調で言った。

「彼なら今頃、“干渉の神・ケイ”の神庁にいますよ」

「ハアッ!?」

ザクの目が大きく見開かれ、怒りの熱が一気に燃え上がる。

「聞いてねえぞぉ……あいつぅ……!」

ぶつぶつと不満をこぼしながら、ザクは拳を強く握りしめ、頭を掻きむしった。

そのときだった。

「──静粛に」

どこか重みのある低音が響き、空間全体が凍りつく。

デルタとザクは、その声のした方を同時に振り向いた。

現れたのは、一人の青年。
黒スーツに身を包み、黒髪短髪、姿勢は直立不動。その眼差しには一切の感情が浮かんでいない。

彼の名は――煙山(ヒヤマ)。

「……なんだ、てめえは?」

ザクは苛立ちを隠さず、がん飛ばしながら睨みつける。

デルタは少し驚いたように言う。

「これは煙山ではありませんか。お久しぶりです。まさかあなたもこの世界に?」

煙山は無表情のまま頷いた。

「師からの要請でしたので」

「なるほど」

デルタは片手を顎に当て、納得したように呟く。

そして煙山はふと空の奥を見やり、言った。

「……どうやら、あの方がいらしたようです」

その瞬間、空間の奥からコツ、コツと、ブーツの靴音が響いてきた。

徐々に近づくたびに、空間そのものが震え、負の気配が濃くなる。
そして、誰もがその存在を察した。

煙山、デルタ、ザクの三名は同時に、その場に片膝をつき、頭を垂れた。

その人物――パンドラが姿を現した。

銀髪に赤のメッシュが入り混じる短髪。黒のロングコートに、漆黒のブーツ。
目には無邪気な光が宿り、しかしその奥底には言葉では語れぬ深い闇が渦巻いている。

「久しいね、煙山、デルタ、ザク」

その声は優しく、どこか親しみさえ感じさせるものだった。

デルタは穏やかに笑みを浮かべながら言った。

「お久しぶりでございます。パンドラ殿」

ザクは頭を上げ、目を細めるようにして言った。

「パンドラさんよぉ……ニキは今、神庁にいるんだが。あんたは知ってたのかぁ?」

煙山が即座に制するように低く言った。

「パンドラ様に失礼だぞ」

しかしザクは、怒りを抑えきれない。

「んなもん知らねえよ。この俺を蘇らせた恩があるのは事実だがなぁ……」

「ザク、口を慎め」

煙山が鋭く言い放つも、ザクは血管を浮き立たせながら言葉を続けた。

「……俺をのけ者にするのは、違うんじゃぁないかぁ?」

そのとき、煙山が静かに立ち上がり、パンドラに向き直る。

「パンドラ様。この者は、私が直々に処分を──」

「いいよ」

パンドラはその言葉を遮り、笑顔を浮かべたまま手をかざした。

「ザク、すまなかったね。急遽手に入れたい物があったから、ニキには無理を言って頼んだんだ」

その声は、まるで子をなだめる親のように穏やかだった。

デルタが片目を細めながら言う。

「例のものですね?」

「ああ。現体制下の神界に関する情報媒体が、神庁の地下にあるからね。ニキにはその入手を頼んだんだ」

ザクは唸るように呟いた。

「……なんだぁ。だが俺はぁ……納得してねぇからなぁ……」

デルタは軽く肩を竦める。

「やれやれ……」

そしてふと思い出したように、デルタはパンドラへと向き直る。

「そういえば、デルゼゴール殿は?」

パンドラは相変わらず穏やかな口調で言った。

「デルゼには別件を任せてるんだ。91星を中心に、83245次元全体に“負のエネルギー”を蔓延させるためにね」

その一言に、煙山とデルタは同時に頷く。

ザクはしばらく無言で唸っていたが、やがてゆっくりと立ち上がり、パンドラの方をじっと見つめた。

その視線の奥には、忠誠とは別の、荒々しい“生”が確かに灯っていた。

そして、暗黒の異空間に、また一つ陰謀の歯車が静かに回り始めた――。
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