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大型ダンジョン いいえ、普通のお城ですよ
第4話
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名無しのモブ敵でも、複数に囲まれてしまえば、そこからの立て直しはほぼ不可能だ。プレイヤーは大抵そこで死亡してしまい、リスポーン地点からのやり直しとなる。
モブ敵相手でも立ち回りに細心の注意を払い、攻略を進めなくてはならない。それが高難易度を誇る死にゲーというジャンルのゲームだ。
かつて大流行し、いまも根強い人気の俺TUEEEものや、無双ゲームのように、簡単に周辺の敵を根こそぎ倒せるなんてことはできない。
サクラはいま十名の武装した兵士に囲まれている。これはいわゆる「こんな状態からでも入れる保険があるんですか?」というやつである。
サクラがもしゲームのプレイ中に同じ状況になったとしたら「お願い! 許して!」と叫びながら、必死になってコントローラーを操作しまくっている。こうなってしまっては、運任せで切り抜けるしかないのだ。
ほとんどの場合DEADの文字がモニターに表示されることになるが、まれに難を逃れたときなどは「許された、なんとか許された!」と、安堵から歓喜の声をあげてしまう。
サクラは穏やかに微笑み佇んでいた。
警備兵への対応を迷っているうちに、完全にこの場から立ち去るタイミングを逃してしまった形だ。逃げ出す勇気を持てなかった自分を恥じるしかない。
この状況では、下手に話しかけたり行動を起こしたりして刺激を与えるよりも、相手が満足するまで勝手に喋らせておくほうがよい。
サクラはそうと決めて、腹が減ろうが日が暮れようが、いつまでもこのまま待ち続けるつもりになっていた。
ただ、サクラがそのように判断して待ちの姿勢を見せても、隣にいるノルウェットの考えは違ったようだ。彼はいつまで経ってもサクラの入城手続きがはじまらないことに不安を覚えたらしい。兵士たちの会話が途切れるのを待つことなく、情けない声をあげる。
「困ったなぁ。早く手続きしてくれないと、師匠が待ちくたびれてしまいますー」
「しょうがないよ。もうちょっとだけ待ってみよう」
ノルウェットはあわあわと狼狽えながら、兵士たちの会話に割って入ろうとしている。サクラがそんな彼をなだめていたときだった。
「お前たち、そこでなにをしているのだ」
地を這うような低い声が、辺りに響いた。
その瞬間、警備兵たちのお喋りがピタリと止まる。
次いで、ギギギギギィーと、重く鈍い音がサクラの耳に届いた。
サクラたちの目の前には、天に向かってそびえ立つ立派な城門がある。その脇にある通用門がゆっくりと開いた音だった。
「いまは戦時下なんだぞ。呑気に騒いでいる暇があるのか」
圧を伴う言葉が兵士たちに投げかけられる。
通用門から姿を見せたのは、大柄な男だった。
集まっていた警備兵たちも小柄ではなかったが、その彼らよりもはるかに背が高い。そんな立派な体格の男が、ガシャガシャと装備しているアーマーの音を立てながら、こちらに近づいてくる。
「も、申し訳ございません!」
「たいへん失礼いたしました!」
「つい気が緩んでしまいまして……」
警備兵たちが、次々に謝罪と言い訳の言葉を口にする。
そんな彼らを、大柄な男は威圧感だけで黙らせた。
男の登場に、サクラの隣に立っているノルウェットも顔を青ざめさせて黙りこんでしまう。先ほどまであった喧騒は、いっきに消え失せてしまった。
きっと警備兵たちは生きた心地がしていないのだろうなと、サクラは感じていた。大の男が揃いも揃って身を縮こまらせているのだ。
ノルウェットも同様だ。カタカタと小刻みにからだを震わせて怯えている。
現れた大柄な男が、次にどんな行動を取るのか。
この場にいる誰もが緊張しながら見守っている。
それほどまでに、男の放つ気配には重厚さが感じられた。
そんな状況のなかで、サクラはただ一人で歓喜をしていた。
男の姿を目にした途端、声をだして飛び跳ねなかったことを褒めてもらいたいくらいだ。
──ほ、本物のロー兄さんだあ! あわわわわわ、息してるよね? ほんとに生きてるー!
サクラは心の中で黄色い声をだして叫びまくっていた。
見慣れた親衛騎士装備を身にまとった大柄な男。
ゲーム発売初日には、その名がSNSへトレンド入りをした城門を守るダンジョンの中ボス。
親衛騎士隊長ロークルが、サクラのすぐそばに立っている。
モブ敵相手でも立ち回りに細心の注意を払い、攻略を進めなくてはならない。それが高難易度を誇る死にゲーというジャンルのゲームだ。
かつて大流行し、いまも根強い人気の俺TUEEEものや、無双ゲームのように、簡単に周辺の敵を根こそぎ倒せるなんてことはできない。
サクラはいま十名の武装した兵士に囲まれている。これはいわゆる「こんな状態からでも入れる保険があるんですか?」というやつである。
サクラがもしゲームのプレイ中に同じ状況になったとしたら「お願い! 許して!」と叫びながら、必死になってコントローラーを操作しまくっている。こうなってしまっては、運任せで切り抜けるしかないのだ。
ほとんどの場合DEADの文字がモニターに表示されることになるが、まれに難を逃れたときなどは「許された、なんとか許された!」と、安堵から歓喜の声をあげてしまう。
サクラは穏やかに微笑み佇んでいた。
警備兵への対応を迷っているうちに、完全にこの場から立ち去るタイミングを逃してしまった形だ。逃げ出す勇気を持てなかった自分を恥じるしかない。
この状況では、下手に話しかけたり行動を起こしたりして刺激を与えるよりも、相手が満足するまで勝手に喋らせておくほうがよい。
サクラはそうと決めて、腹が減ろうが日が暮れようが、いつまでもこのまま待ち続けるつもりになっていた。
ただ、サクラがそのように判断して待ちの姿勢を見せても、隣にいるノルウェットの考えは違ったようだ。彼はいつまで経ってもサクラの入城手続きがはじまらないことに不安を覚えたらしい。兵士たちの会話が途切れるのを待つことなく、情けない声をあげる。
「困ったなぁ。早く手続きしてくれないと、師匠が待ちくたびれてしまいますー」
「しょうがないよ。もうちょっとだけ待ってみよう」
ノルウェットはあわあわと狼狽えながら、兵士たちの会話に割って入ろうとしている。サクラがそんな彼をなだめていたときだった。
「お前たち、そこでなにをしているのだ」
地を這うような低い声が、辺りに響いた。
その瞬間、警備兵たちのお喋りがピタリと止まる。
次いで、ギギギギギィーと、重く鈍い音がサクラの耳に届いた。
サクラたちの目の前には、天に向かってそびえ立つ立派な城門がある。その脇にある通用門がゆっくりと開いた音だった。
「いまは戦時下なんだぞ。呑気に騒いでいる暇があるのか」
圧を伴う言葉が兵士たちに投げかけられる。
通用門から姿を見せたのは、大柄な男だった。
集まっていた警備兵たちも小柄ではなかったが、その彼らよりもはるかに背が高い。そんな立派な体格の男が、ガシャガシャと装備しているアーマーの音を立てながら、こちらに近づいてくる。
「も、申し訳ございません!」
「たいへん失礼いたしました!」
「つい気が緩んでしまいまして……」
警備兵たちが、次々に謝罪と言い訳の言葉を口にする。
そんな彼らを、大柄な男は威圧感だけで黙らせた。
男の登場に、サクラの隣に立っているノルウェットも顔を青ざめさせて黙りこんでしまう。先ほどまであった喧騒は、いっきに消え失せてしまった。
きっと警備兵たちは生きた心地がしていないのだろうなと、サクラは感じていた。大の男が揃いも揃って身を縮こまらせているのだ。
ノルウェットも同様だ。カタカタと小刻みにからだを震わせて怯えている。
現れた大柄な男が、次にどんな行動を取るのか。
この場にいる誰もが緊張しながら見守っている。
それほどまでに、男の放つ気配には重厚さが感じられた。
そんな状況のなかで、サクラはただ一人で歓喜をしていた。
男の姿を目にした途端、声をだして飛び跳ねなかったことを褒めてもらいたいくらいだ。
──ほ、本物のロー兄さんだあ! あわわわわわ、息してるよね? ほんとに生きてるー!
サクラは心の中で黄色い声をだして叫びまくっていた。
見慣れた親衛騎士装備を身にまとった大柄な男。
ゲーム発売初日には、その名がSNSへトレンド入りをした城門を守るダンジョンの中ボス。
親衛騎士隊長ロークルが、サクラのすぐそばに立っている。
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