高難易度ゲームの世界に転生してしまったので、生き残るために最初に出会ったNPCに全力で縋ります!

黒蜜きな粉

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大型ダンジョン いいえ、普通のお城ですよ

第6話

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「……むう、そうか」

 兵士たちから責め立てられて、ロークルはしばらく考え込んだあとに絞り出すような声を出した。

「べつに脅かすつもりはなかったのだがな」

 ロークルはゆっくりと兜を取り外しながら、申し訳なさそうな視線をサクラへ向けてきた。
 兜の下に隠されていたのは、眉間に皺を刻んだ壮年の男性だ。イタリアが舞台のマフィア映画にでも出てきそうな、ワイルドで渋い顔のお兄さんである。
 
 ロークルの素顔は、ゲーム内でも見ることができる。それどころか、設定資料集を入手すれば、アーマーの下に隠されている外見の詳細まで知ることができるのだ。いまここで素顔を晒されたところで、なにひとつ驚くことはない。
 とはいえ、二次元でしか見たことのない顔立ちを、実際に目の前で眺める機会がおとずれることになろうとは思ってもいないことだった。
 サクラのミーハーな心が、ふたたび騒ぎ出す。今すぐにでも地面にからだを投げ出して拝みたくなってしまう。

「……はあ、生で見るロー兄さんの素顔の破壊力ハンパない。マジでカッコ良すぎなんですけど。どうしたらいいの? とりあえず課金させてほしいんですけど……」

 サクラの本音がため息まじりに口からこぼれ出る。
 小声なうえに、早口で捲し立てているため、サクラの言葉はきっとこの場にいる誰にも届いてはいないはずだ。
 しかし、推しへの愛をつぶやくサクラの表情は、きっとものすごい顔つきになっていたのだろう。

「……私の態度はそんなに恐ろしかっただろうか?」

 ロークルが心底不思議そうな顔をしながら、兵士たちへ向かって問いかける。すると、その場にいた兵士の一人がぷっと吹き出した。つられるように、兵士たちは次々に笑いだす。

「そもそも隊長が、会ったことはあるか、なんて尋ねるのがいけないのですよ」
「そんなお決まりの口説き文句を言われたら、誰だって警戒しちゃいますもん」
「本当にそれな!」

 げらげらと笑って言う兵士たちに、殊勝な態度を見せていたロークルの表情に怒りが滲む。
 しかし、怒っている顔さえカッコいいと、サクラのテンションは爆上がりしていく。

「……お前たちにはあとで徹底的に指導をするとしよう。お嬢さん、怖がらせて申し訳なかった」

「──っいぃいい、いえいえ!」

 ロークルはサクラに向かって謝罪の言葉とともに頭を下げてきた。
 サクラは慌てて両手をふり、ロークルに顔を上げるように促す。

「ロークル様に謝罪していただくようなことはまったくございません。どうか、私などに頭をさげるのはおやめになってくださいませ」

「おや、私の名前をご存知とは。やはりどこかでお会いいたしましたかな?」

「…………い、いいえぇ。お会いするのは初めてでござい、ますわ……」

「そうですか? 先ほどからどうにもあなたの様子が気になりましてな」

 さすがに名前を知っていたというだけで、サクラが異世界からきた稀人だとはバレないだろう。
 しかしながら、サクラにはそう確証を得ることはできなかった。
 ゲーム内では出会った途端に殺し合いがはじまる相手だ。絶対に油断をしてはならない人物であることを、サクラは興奮のあまりすっかり失念していた。

「そりゃ隊長のことを知らない領民がいるわけないですよ」

 サクラが冷や汗をかいて黙り込んでしまうと、兵士たちにもういちど助けられることになった。
 もし元の世界に帰れることがあったとしたら、もう彼らとは戦わないと心に誓う。 

「お会いしたことはなくても、見れば一発でわかりますもん」
「親衛騎士の鎧に領主家へ代々伝わる宝刀を持った方なんて、隊長以外にいませんからね」

 兵士たちの言葉で、ロークルは納得してくれたようだ。
 それもそうかとつぶやき、ロークルはサクラとノルウェットの足もとに置かれた二つの木箱をひょいと持ち上げた。

「城内に入りたいのだろう? この者らの不手際の詫びに案内しよう」

「そんなあ! ロークル様に運んでいただくなんて申し訳ないですー」

「そんなことは構わない。クロビスのもとまで持っていけばよいのか?」

 ロークルが木箱を抱え込むと、ノルウェットが慌てて声をかける。
 しかし、ロークルはそんなノルウェットを無視して、さっさと通用門へ向かってしまった。

「…………もしかして、逃げるチャンスきたかなコレ?」

 サクラは城門に背を向けて、家に帰ろうとした。
 だが、一歩二歩と足を進めたところでノルウェットに腕を掴まれてしまい、逃げ出せなくなってしまった。

「さあ、師匠がお待ちですよ。早くいきましょー!」

「……で、でもさ? ロークル様が運んでくださるなら、私はもう必要ないじゃない」
 
「せっかくここまでいらしたんですから、師匠に顔を見せてあげてくださいー」

 そのままノルウェットにずるずると引きずられるようにして、サクラはようやく城の敷地内に足を踏み入れたのだった。
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