高難易度ゲームの世界に転生してしまったので、生き残るために最初に出会ったNPCに全力で縋ります!

黒蜜きな粉

文字の大きさ
62 / 78
協力 ダンジョンボス

第1話

しおりを挟む
 広場全体が、まるで大地ごと唸りをあげるかのように轟音と共に揺れていた。
 石畳が細かく震え、割れ目から砂塵が吹き上がる。空には血のように赤い稲光が走り、絡み合っては大地へと落ちてくる。そのたびに耳をつんざく雷鳴が轟く。

 サクラは膝をついたまま、必死に呼吸を整えていた。胸の奥に焼けるような痛みがある。
 だが、その痛みを和らげるように、隣にいるクロビスの手のひらから光が流れ込んでくる。温かく、澄んだ魔力。冷え切っていた体が少しずつ目を覚まし、折れかけていた心にまで火をともすようだった。

「……っく! ここまでアリエノール様がご乱心していらっしゃるとは、珍しいな」
「そりゃあ、大事な腹心の部下がやられちゃ、黙ってられないだろうさ!」

 少し離れた場所で、兵士の二人が空を見上げながら苦笑いを浮かべていた。稲妻の閃光に照らされるその顔は汗に濡れ、ひきつっている。それでも軽口を忘れないのは、恐怖に飲み込まれぬための必死の強がりのようだった。

「だからって限度があるだろ! この後始末、誰がやると思ってんだよ!」
「戦いの最中にそんなこと考えるなんて、お前はずいぶん余裕だなあ」

 冗談めかして言いながらも、二人の剣は止まらない。落雷の衝撃で吹き飛ぶ瓦礫や石畳を切り払い、サクラとクロビスの頭上に届かせまいと立ちはだかる。剣と石のぶつかる音が火花を散らし、広場の喧騒に混じって響き渡った。彼らがいなければ、サクラたちはすでに押し潰されていたに違いない。

 やがてクロビスは回復魔法の詠唱を終え、大きく息を吐いた。
 仮面を外した彼の顔は青白く、汗が頬を伝っている。

「……本当に、こんなに取り乱すなんて、アリエノール様らしくない」

 呟いた声は、冷静を装いながらもわずかに震えていた。普段の彼からは考えられない動揺だった。

「治療ありがとう。おかげでだいぶ楽になったわ」

 サクラは痛みをこらえつつ上体を起こし、クロビスに微笑んだ。

「……我らが主らしく、堂々となさっていてほしいものですね」

 クロビスは答えると、慌てて仮面をつけ直した。視線を逸らす仕草は、照れ隠しにも見える。

「良くなっていただかないと困ります。これで私の魔力はほとんど尽きました。次はためらわず、あの男を仕留めてください」

「……ええ。あなたの魔力が私の中に流れ込んで、胸がとてもあたたかいの。だから覚悟が決まったわ」

 その言葉にクロビスは一瞬、目を瞬かせた。
 だがすぐに口元を引き結び、冷たく返す。

「それは喜ばしいことですが……。その言い方はやめてください。邪念が生まれます」

「はあ、相変わらず真面目ね。まだまだ元気そうじゃない」

 サクラがからかうようにため息をつくと、クロビスはわざと肩をすくめた。

「いいえ。馬鹿力のあなたと違って、私は繊細なのですよ。言葉にはお気をつけを」

 仮面越しで表情は読めないが、その声音は皮肉っぽい。サクラは頬をふくらませ、拗ねたふりをしてみせた。
 ほんの一瞬、戦場の緊張がほどける。その隙を裂くように、天から声が降りてきた。

「……なんだ。治療の時間くらいは稼いでやろうと来てやったというのに。礼もなく戯れとは、いい身分だな、クロビス?」

 澄んでいながらも耳の奥を震わせる声。兵士たちは思わず剣を下げ、空を仰ぐ。

 稲妻が空を引き裂いた。次の瞬間、巨大な影が光に浮かび上がる。漆黒の翼が広がり、雷雲を切り裂く。

 ──それは、人ではなかった。

「……私が頼んだわけではございません。アリエノール様ご自身のご判断でしょう」

 クロビスは動じぬ声で返した。仮面の奥に潜む眼差しは、たしかに張り詰めていた。

「憎まれ口を叩く余裕があるなら、もう問題はなかろう」

 降り立った瞬間、広場全体を揺さぶる突風が走る。砂塵が渦を巻き、吹き飛ばされた瓦礫が雨のように降り注ぐ。翼が一度羽ばたいただけで、広場の空間そのものが支配されたかのようだった。

 やがて、砂塵の中からその姿が現れる。
 美貌と呼ぶには苛烈すぎる輪郭。紅玉のごとき瞳は光を飲み込み、見る者の魂を捕らえる。

 一歩、彼女が踏み出す。
 そのたびに瓦礫が震え、青白い火花が散った。

 兵士たちは誰ひとり声を発せない。ただ膝を折り、頭を垂れる。恐怖と畏敬が入り混じり、立っていられる者などいなかった。

 サクラは喉をひきつらせながら、その名を吐き出す。

「……アリエノール様」

 それはただの呼びかけではない。眼前の存在が、この城の主であり、竜の血を引く支配者であると、魂そのものに刻みつけられた感覚だった。
 
「……この私の領地で、ずいぶんと好き勝手をしてくれたな」

 その声音は低く、冷たい。
 だが、サクラの耳には確かに聞こえた。
 竜の咆哮が、言葉の奥底に潜んでいた。

 そして広場は、ただひとりの支配者の到来によって沈黙した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

へぇ。美的感覚が違うんですか。なら私は結婚しなくてすみそうですね。え?求婚ですか?ご遠慮します

如月花恋
ファンタジー
この世界では女性はつり目などのキツい印象の方がいいらしい 全くもって分からない 転生した私にはその美的感覚が分からないよ

ダラダラ異世界転生

ゆぃ♫
ファンタジー
平和な主婦異世界に行く。1からの人生人を頼ってのんびり暮らす。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...