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元貴族の冒険者
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「あら、どこかで見覚えがあると思ったら、この間の満月草の子じゃない」
気まずい空気の流れる店内に、おっとりとした女性の声が響いた。
いかにも魔術師といった風体の女性の胸元には、銀色の冒険者プレートがつけられている。
魔術師の女は、同じテーブルに座る連れに同意を求めた。
「ほら、虚偽の疑惑かけられて依頼を自主的にキャンセルした子よ。覚えてない?」
魔術師の女と同じテーブルには二人の男が座っている。
一人は小柄で弓を背負っている男。
もう一人は大柄な男で、彼の脇には大きな盾がテーブルにたてかけられている。
二人の男も魔術師の女と同じ色のプレートをつけている。それを見て、酔っぱらっていた冒険者の表情が強張った。
冒険者は全部で三ランクある。
下から銅、銀ときて、最も高ランクなのが金だ。
各ランクにはレベルが一から百まである。
冒険者組合にきた依頼をこなすとポイントが得られ、レベルが上がっていく仕組みだ。
レベルが百まで上がると、次のランクへあがるための試験が受けられる。
しかし、そうそう試験など受けられるものではない。
冒険者になった者の八割が銅ランクで現役を引退するのが現実だった。
ここにいる三人の男女のように、銀の冒険者というのは残り二割に入る実力者となる。
「可愛い女の子が嫌がっているのだからやめてあげなさいな」
魔術師の女は笑顔を浮かべてはいるものの、目の奥がまったく笑っていない。
彼女は淡々と言い放ち、酔っ払い冒険者たちをじっと見つめる。
「公共の場でいかがわしい行為をしていたと組合に報告されたくなければ大人しくしなさい。冒険者同士なのだから、仲良くしましょうね?」
同じ銀のプレートをつけた男二人も、酔っ払い冒険者たちを黙って睨みつけている。
酔っ払い冒険者たちは、互いの顔を見合せてから魔術師の女の言うことに頷いた。
「……っち、冒険者の癖にこんなところで色気づいた格好して働いているようじゃたかがしれているな」
タニヤにだけ聞こえる小さな声で、床に尻餅をついていた酔っ払い男が言った。
タニヤはすぐに言い返そうと口を開いた。すると、酔っ払い男はタニヤが言葉を発する前に、立ち上がりながら耳打ちをしてきた。
「大人しく言うことを聞いてくれりゃお前の出自についてばらしたりしねえからさ。今度会ったときは俺に逆らうなよ?」
酔っぱらい男のその発言に、タニヤは背筋が凍った。
出自とはどういうことだと聞きたかったが、身体が動かなくなってしまった。
そうしているうちに、店の責任者に腕を引かれてタニヤはその場から店の裏に連れて行かれてしまった。
タニヤはそのまま店の裏口から店外に押し出される。
「……クビ、ですか?」
「店内で騒ぎを起こすような従業員はいらない」
責任者は一方的にタニヤにクビを宣告した。
「それと、さっき銀の冒険者が言っていたな。虚偽の疑惑をかけられたって、そういう素行の悪いやつはちょっとな」
責任者はそう言いながら、部屋に置いてあったタニヤの荷物を投げつけてきた。
「この騒ぎについては冒険者組合に報告させてもらうからな。さっさと出て行ってくれ」
それだけ言って、責任者はさっさと店の中に姿を消した。
足元に投げ捨てられたバッグを見つめ、タニヤは店の路地裏で途方に暮れた。
気まずい空気の流れる店内に、おっとりとした女性の声が響いた。
いかにも魔術師といった風体の女性の胸元には、銀色の冒険者プレートがつけられている。
魔術師の女は、同じテーブルに座る連れに同意を求めた。
「ほら、虚偽の疑惑かけられて依頼を自主的にキャンセルした子よ。覚えてない?」
魔術師の女と同じテーブルには二人の男が座っている。
一人は小柄で弓を背負っている男。
もう一人は大柄な男で、彼の脇には大きな盾がテーブルにたてかけられている。
二人の男も魔術師の女と同じ色のプレートをつけている。それを見て、酔っぱらっていた冒険者の表情が強張った。
冒険者は全部で三ランクある。
下から銅、銀ときて、最も高ランクなのが金だ。
各ランクにはレベルが一から百まである。
冒険者組合にきた依頼をこなすとポイントが得られ、レベルが上がっていく仕組みだ。
レベルが百まで上がると、次のランクへあがるための試験が受けられる。
しかし、そうそう試験など受けられるものではない。
冒険者になった者の八割が銅ランクで現役を引退するのが現実だった。
ここにいる三人の男女のように、銀の冒険者というのは残り二割に入る実力者となる。
「可愛い女の子が嫌がっているのだからやめてあげなさいな」
魔術師の女は笑顔を浮かべてはいるものの、目の奥がまったく笑っていない。
彼女は淡々と言い放ち、酔っ払い冒険者たちをじっと見つめる。
「公共の場でいかがわしい行為をしていたと組合に報告されたくなければ大人しくしなさい。冒険者同士なのだから、仲良くしましょうね?」
同じ銀のプレートをつけた男二人も、酔っ払い冒険者たちを黙って睨みつけている。
酔っ払い冒険者たちは、互いの顔を見合せてから魔術師の女の言うことに頷いた。
「……っち、冒険者の癖にこんなところで色気づいた格好して働いているようじゃたかがしれているな」
タニヤにだけ聞こえる小さな声で、床に尻餅をついていた酔っ払い男が言った。
タニヤはすぐに言い返そうと口を開いた。すると、酔っ払い男はタニヤが言葉を発する前に、立ち上がりながら耳打ちをしてきた。
「大人しく言うことを聞いてくれりゃお前の出自についてばらしたりしねえからさ。今度会ったときは俺に逆らうなよ?」
酔っぱらい男のその発言に、タニヤは背筋が凍った。
出自とはどういうことだと聞きたかったが、身体が動かなくなってしまった。
そうしているうちに、店の責任者に腕を引かれてタニヤはその場から店の裏に連れて行かれてしまった。
タニヤはそのまま店の裏口から店外に押し出される。
「……クビ、ですか?」
「店内で騒ぎを起こすような従業員はいらない」
責任者は一方的にタニヤにクビを宣告した。
「それと、さっき銀の冒険者が言っていたな。虚偽の疑惑をかけられたって、そういう素行の悪いやつはちょっとな」
責任者はそう言いながら、部屋に置いてあったタニヤの荷物を投げつけてきた。
「この騒ぎについては冒険者組合に報告させてもらうからな。さっさと出て行ってくれ」
それだけ言って、責任者はさっさと店の中に姿を消した。
足元に投げ捨てられたバッグを見つめ、タニヤは店の路地裏で途方に暮れた。
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