6 / 51
6
しおりを挟む
翌日、ソフィアはルイースを伴って街中を歩いていた。
「ねえ、帰りましょうよー。絶対にエラさんに怒られますってえ」
「私が無理を言ったと報告すればあなたは大丈夫よ。だって、旦那さまがどんな女に手をだしたのか気になるじゃない」
ソフィアは辺境伯家の領地内にある最も大きな劇場に向かっていた。
エラが使用人たちに口止めをしてしまったので、イーサンと関係があった女優が誰かは教えてもらえなかった。
しかし、イーサンは立場のある人間だ。彼が手を出すなら小劇場の女優や旅芸人などではなく、きっと領内でも大手の劇団に属する女優なのではないか。ソフィアはそう当たりをつけて、領内でも一番格式の高い劇場にやって来た。
「絶対にこの女優さんね」
劇場前に貼られているポスターを見て、ソフィアはすぐに気が付いた。
「うわあ、姉上さまにそっくり!」
「…………てゆか、お姉さまじゃないわよね?」
ルイースがポスターを見て驚きながら声をあげた。描かれた女優の姿は姉と瓜二つだったのだ。
「さすがに姉上さまではないでしょうが、これはそう思ってしまいますねえ」
「本当にそうよね。……しっかし、旦那さまの好みって結構わかりやすかったのね」
ソフィアはポスターを見て感心しながらチケット売り場に向かった。
なんと本日のチケットは完売していた。立ち見席しかないと言われたが、来てしまった以上は何も見ずに帰るのは嫌だと思った。
「ええ、立ち見は疲れますよー。今日は諦めて帰りましょうよー」
「いいえ! たとえ足が棒になってしまっても、この女優さんの姿を実際に見るまでは帰れないわ」
ソフィアはさっさとチケットを買い、文句を言うルイースを強引に劇場内へ押し込んだ。
華やかな舞台に目を奪われた。時間はあっという間に過ぎ、立ち見の疲れを感じる暇などなかった。
「素敵! とっても素敵だったわ」
「奥さまにそう言って頂けて感激でございます」
幕の降りた後、ソフィアが夢中で拍手をしていると誰かに声をかけられた。
声のする方角へ視線をむけると、身なりの良い中年の男性が立っていた。
「私は当劇場の支配人でございます。もっと早くご連絡をいただければ、奥さまに立ち見などさせず、辺境伯家の専用席にご案内いたしましたのに」
支配人がそう言いながらカーテンの閉まった二階のテラス席に視線を向ける。
ソフィアは、辺境伯家領内の劇場なのだから専用席くらいあるなと今頃になって気が付いた。
「いいのいいの、急に来た私が悪いのだから気にしないでちょうだい。それよりも、どうして私が辺境伯家の人間だとお気づきに?」
「さきほど辺境伯家の使いの方がいらっしゃいましたよ。もしかしたら奥さまが観劇にいらしているかもしれないと……」
エラさんですね、とルイースがぼそりと呟いた。
これは帰ったら盛大に怒られるとソフィアは天を仰いだ。
「せっかくいらしたのですから、お茶でもいかがですか? 実はもうお席をご用意しております」
「……まあ、よろしいのかしら。ではお言葉に甘えて」
ソフィアが案内をしてくれる支配人のあとに続くと、ルイースに服の裾を掴まれた。
「ちょっとソフィアさま! エラさんにここへ来ていることがばれているのですから、早く帰った方がいいですよ」
「どうせばれているのだから、いっそのことゆっくりしていきましょうよ」
女優さんに会えるかもしれないし、とソフィアが言うと、今度はルイースが天を仰いでしまった。
「ねえ、帰りましょうよー。絶対にエラさんに怒られますってえ」
「私が無理を言ったと報告すればあなたは大丈夫よ。だって、旦那さまがどんな女に手をだしたのか気になるじゃない」
ソフィアは辺境伯家の領地内にある最も大きな劇場に向かっていた。
エラが使用人たちに口止めをしてしまったので、イーサンと関係があった女優が誰かは教えてもらえなかった。
しかし、イーサンは立場のある人間だ。彼が手を出すなら小劇場の女優や旅芸人などではなく、きっと領内でも大手の劇団に属する女優なのではないか。ソフィアはそう当たりをつけて、領内でも一番格式の高い劇場にやって来た。
「絶対にこの女優さんね」
劇場前に貼られているポスターを見て、ソフィアはすぐに気が付いた。
「うわあ、姉上さまにそっくり!」
「…………てゆか、お姉さまじゃないわよね?」
ルイースがポスターを見て驚きながら声をあげた。描かれた女優の姿は姉と瓜二つだったのだ。
「さすがに姉上さまではないでしょうが、これはそう思ってしまいますねえ」
「本当にそうよね。……しっかし、旦那さまの好みって結構わかりやすかったのね」
ソフィアはポスターを見て感心しながらチケット売り場に向かった。
なんと本日のチケットは完売していた。立ち見席しかないと言われたが、来てしまった以上は何も見ずに帰るのは嫌だと思った。
「ええ、立ち見は疲れますよー。今日は諦めて帰りましょうよー」
「いいえ! たとえ足が棒になってしまっても、この女優さんの姿を実際に見るまでは帰れないわ」
ソフィアはさっさとチケットを買い、文句を言うルイースを強引に劇場内へ押し込んだ。
華やかな舞台に目を奪われた。時間はあっという間に過ぎ、立ち見の疲れを感じる暇などなかった。
「素敵! とっても素敵だったわ」
「奥さまにそう言って頂けて感激でございます」
幕の降りた後、ソフィアが夢中で拍手をしていると誰かに声をかけられた。
声のする方角へ視線をむけると、身なりの良い中年の男性が立っていた。
「私は当劇場の支配人でございます。もっと早くご連絡をいただければ、奥さまに立ち見などさせず、辺境伯家の専用席にご案内いたしましたのに」
支配人がそう言いながらカーテンの閉まった二階のテラス席に視線を向ける。
ソフィアは、辺境伯家領内の劇場なのだから専用席くらいあるなと今頃になって気が付いた。
「いいのいいの、急に来た私が悪いのだから気にしないでちょうだい。それよりも、どうして私が辺境伯家の人間だとお気づきに?」
「さきほど辺境伯家の使いの方がいらっしゃいましたよ。もしかしたら奥さまが観劇にいらしているかもしれないと……」
エラさんですね、とルイースがぼそりと呟いた。
これは帰ったら盛大に怒られるとソフィアは天を仰いだ。
「せっかくいらしたのですから、お茶でもいかがですか? 実はもうお席をご用意しております」
「……まあ、よろしいのかしら。ではお言葉に甘えて」
ソフィアが案内をしてくれる支配人のあとに続くと、ルイースに服の裾を掴まれた。
「ちょっとソフィアさま! エラさんにここへ来ていることがばれているのですから、早く帰った方がいいですよ」
「どうせばれているのだから、いっそのことゆっくりしていきましょうよ」
女優さんに会えるかもしれないし、とソフィアが言うと、今度はルイースが天を仰いでしまった。
14
あなたにおすすめの小説
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
「無理をするな」と言うだけで何もしなかったあなたへ。今の私は、大公家の公子に大切にされています
葵 すみれ
恋愛
「無理をするな」と言いながら、仕事も責任も全部私に押しつけてきた婚約者。
倒れた私にかけたのは、労りではなく「失望した」の一言でした。
実家からも見限られ、すべてを失った私を拾い上げてくれたのは、黙って手を差し伸べてくれた、黒髪の騎士──
実は、大公家の第三公子でした。
もう言葉だけの優しさはいりません。
私は今、本当に無理をしなくていい場所で、大切にされています。
※他サイトにも掲載しています
『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』
ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。
だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。
「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」
王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、
干渉しない・依存しない・無理をしない
ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。
一方、王となったアルベルトもまた、
彼女に頼らないことを選び、
「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。
復縁もしない。
恋にすがらない。
それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。
これは、
交わらないことを選んだ二人が、
それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。
派手なざまぁも、甘い溺愛もない。
けれど、静かに積み重なる判断と選択が、
やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。
婚約破棄から始まる、
大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる