姉の婚約者と結婚しました。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
27 / 51

27

しおりを挟む
「お姉さまが姿を消した理由は私には全くわかりません。でもそれは、私がお姉さまのお気持ちを察することができなかっただけで、お姉さまの行動が私たち一族への裏切りだとか、そうは思わないようにしているのです」

 姉がいなくなって、最初はただ驚いた。
 その次に感じたのは、裏切り者、信じていたのにという気持ちだった。しかし、そう考えてしまうと気分が沈むだけなので、その気持ちをどうにかして切り替えたかった。

「お姉さまの知らない一面を垣間見ることができた良い機会だと思うことにしています。こんな形で知るのではなく、きちんとお話ができたら良かったと反省はしていますけれど……」

 姉は一人で悩んでいたのだろうか。そう思うと胸が苦しくなる。できることならば、きちんと会って話がしたい。

「私がお姉さまのお気持ちを察してあげることができていたら、きっと旦那さまもここまで傷つかなかったですわよね」

 申し訳ございません、とソフィアは丁寧に頭を下げる。
 
「いや、謝ることはない。そんなことは君が謝ることじゃないのだ!」

 イーサンは重ねられていたソフィアの手を握った。小刻みに震えるくらいに強く握られる。

「本当にすまなかった!」

 イーサンは勢いよく頭を下げる。

「いつまでもいじけていた私がいけなかったのだ! 君の気持ちに何一つ配慮することができなかった」

 まさかイーサンから謝罪の言葉が聞けるとは思っていなかった。ソフィアはそれまで饒舌に話していたことが嘘のように、次の言葉が出てこない。

「申し訳ないことをしていた! ここまで君を追い詰めていただなんて、いまさら謝っても意味がないよな」

 ソフィアが黙りこんでしまったので、イーサンは不安になったのかさらに深く頭を下げる。
 互いに頭を下げ合うという奇妙な時間がしばらく続いた。


「…………意味がないことはないですが、ちょーっと遅いですわね」

 ソフィアはそう言いながらゆっくりと頭をあげて、穏やかに微笑んだ。

「では、お互いに謝罪をしたということで、今までの無礼はなかったことにしてくださいましね」

 ソフィアの言葉を聞いたイーサンが、複雑そうな顔をしながら頭をあげる。

「私が言うのはどうかとも思うのだが、君はもう少し弱みを見せてもいいと思う」

「……っな⁉」

 イーサンにそんなことを言われるとは思わず、ソフィアはまた言葉に詰まる。

「どんなことでも無理やり前向きにとらえ直そうとし過ぎている気がする。そんなに強がらずに、君こそ少し力を抜いたらどうだ?」

「――っあなたにだけは言われたくありません‼︎」

 イーサンにもっともなことを指摘されるのは悔しくて、ソフィアはつい叫んでしまった。


 結局、この日はこんな調子で終わってしまった。
 イーサンの言い訳に、ソフィアが自分の意見を言い聞かせるというやり取りが永遠に続いたのだ。時折、イーサンに的確な指摘を受けるので、それには動揺しっぱなしだった。
 恋がしたい、とエイナルの前で強がって言っていたことを、イーサンに伝える余裕はなかった。
しおりを挟む
感想 183

あなたにおすすめの小説

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

「無理をするな」と言うだけで何もしなかったあなたへ。今の私は、大公家の公子に大切にされています

葵 すみれ
恋愛
「無理をするな」と言いながら、仕事も責任も全部私に押しつけてきた婚約者。 倒れた私にかけたのは、労りではなく「失望した」の一言でした。 実家からも見限られ、すべてを失った私を拾い上げてくれたのは、黙って手を差し伸べてくれた、黒髪の騎士── 実は、大公家の第三公子でした。 もう言葉だけの優しさはいりません。 私は今、本当に無理をしなくていい場所で、大切にされています。 ※他サイトにも掲載しています

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。 「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」 王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、 干渉しない・依存しない・無理をしない ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。 一方、王となったアルベルトもまた、 彼女に頼らないことを選び、 「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。 復縁もしない。 恋にすがらない。 それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。 これは、 交わらないことを選んだ二人が、 それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。 派手なざまぁも、甘い溺愛もない。 けれど、静かに積み重なる判断と選択が、 やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー

諦めていた自由を手に入れた令嬢

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。 これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。 実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。 自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。

処理中です...