政略結婚の果て、私は魔女になった。

黒蜜きな粉

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第2話

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『代わりはいくらでもいるわ』

 義母のその声が耳から離れない。

 結婚すれば家族になれると信じていた。
 努力すれば心が通うと思っていた。

 けれど、この家で大切なのは愛ではなかった。
 血だった。
 必要なのは辺境伯家の血筋を継ぐ子供を産むという結果だった。
 フリーデの存在価値は、子を産めるかどうかで決まる。
 それに気づいた瞬間、すっと心が冷たくなっていくのを感じた。

 フリーデは高名な魔術師の家に生まれた。

 王都では名を知らぬ者はいない一族。
 父は宮廷魔術師を統括する立場にあり、祖父は魔術学院で学院長を務めている。
 治癒、結界、調合魔術、多くの分野を極めた家系だった。

 幼い頃からフリーデもその知識を教え込まれていた。

「魔術は人を救うためにある。決して人を傷つけるために使ってはいけない」

 魔術は誰もが扱えるものではない。
 だからこそ、未知の力に怯える者もいる。
 父と祖父は魔術師とはどうあるべきかをフリーデに教えてくれた。
 フリーデはこれまでその教えに従い、必要なときにだけ魔術を行使してきた。

「いいかいフリーデ。魔術は正しく使いなさい」

 父はいつもそう言って様々な知識を与えてくれた。
 いつか家を出て嫁ぐフリーデが困難に陥っても一人で解決できるように、惜しみなく教育を施してくれた。

 感情を高ぶらせる調合。
 理性を鈍らせる粉末。身体の欲求を増幅させる魔術触媒。

「けしてヴィルヘルム様のお身体に傷はつけない。これは私を救うため。私がこの家の妻として正しくあるために必要なことなの」

 窓から月明かりが差し込む夜、フリーデは小さな卓に材料を並べた。

 乾燥させた薬草。
 魔力を帯びた蜜。
 感情を刺激する結晶粉。

 どれも珍しいものではない。
 治癒薬にも使われるありふれた素材だ。

 ただ、配合する割合がほんの少し違うだけ。
 そこへフリーデの魔力が注がれるだけ。

 フリーデの魔力が加わった瞬間、液体が透明に変わる。
 無臭、無色。
 飲み物に混ぜれば分からない。

 フリーデは瓶を見つめる。
 胸の奥が締めつけられる。

「こんなものを……ヴィルヘルム様に……」

 罪悪感は確かにあった。
 けれど、それ以上に強い感情があった。

 ──捨てられたくない。ここに居場所が欲しい。

 ただ、それだけだった。

「……義務を果たすだけ。私がヴィルヘルム様の子を身籠るためには必要なことだもの」

 そう強く思うたび、罪の意識が薄まっていった。

 フリーデは瓶を胸に抱いた。
 鼓動が早い。
 もう温かい家庭を持ちたいという純粋な少女ではいられない。
 
「……私は絶対に、ここで生きる。生き抜いてみせる」
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