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第6話
医師の声は、驚くほど穏やかだった。
「ご懐妊です」
その一言で、部屋の空気が変わる。
フリーデは静かに息を吐いた。
ついに結果が出たのだと、安堵する。
隣で、ヴィルヘルムの気配が大きく揺れた。
「……本当か?」
震える声だった。
すぐに医師が頷く。
「間違いありません」
その瞬間、ヴィルヘルムの表情が崩れたのをフリーデは見た。
張りつめていたものがほどけ、喜びが溢れ出す。
「……私の子だ……」
ヴィルヘルムはフリーデの手を強く握った。
「やっと……やっとだ……」
涙ぐみながら繰り返す姿を、フリーデは黙って見つめていた。
ようやく日々の悩みから解放されたのだろう。
だが、安堵は長く続かなかった。
ヴィルヘルムはフリーデの目をじっと見つめ、静かに尋ねた。
「……私の子だよな?」
フリーデは一瞬だけ瞬きをし、微笑む。
「はい」
柔らかく、優しく、おだやかに。
「辺境伯様の、お子です」
フリーデの言葉を聞いて、ヴィルヘルムの強張った肩の力が抜けていくのがわかった。
だが同時に、その目にまだ消えきらない影が残っていることも理解していた。
数日後。
義父が朝の食卓で突然倒れた。
カップが床に落ちる音が部屋中に響く。
震える手、言葉を失い崩れ落ちる身体。
屋敷が一瞬で騒然となる。
医師が呼ばれ、原因は分からないと告げられた。
「以前の戦傷の影響も考えられます。急激な体調悪化としか……」
義父はかろうじて意識を保っており、視線で意思疎通は取れる。
だが、身体は少しも動かせなくなった。
眼球だけが必死に動く姿を、フリーデは静かに見つめていた。
その数日後。
今度は義母が倒れた。
廊下でふらつき、壁に手をつき、そのまま崩れる。
義母はそのまま息を引き取った。
「きっと大旦那様のことでお疲れがたまっていたのね」
「でもねえ、戦ばかりの家系ですもの……」
「呪いじゃないかしら……」
義母の葬儀が行われた。
その間も、フリーデは変わらず義父の看病を続けた。
優しく声をかけ、薬を飲ませ、衣服を替える。
誰の目にも完璧な振る舞いだった。
献身的で、心優しい辺境伯夫人を疑う者はいなかった。
ただひとり、ヴィルヘルムだけはフリーデの行動が丁寧すぎることに怯え始めていた。
泣かない。
動揺しない。
取り乱さない。
ただ微笑み、優しく世話をする。
ヴィルヘルムの自分を見つめる視線が、日に日に重くなるのをフリーデは感じ取っていた。
疑い。
恐怖。
確かめたい衝動。
すべてが彼の中で膨らんでいるのだろう。
──私はとっくに戻れないところまで来ているわ。
フリーデはそれを当然のこととして受け入れていた。
だからこそ、今日も微笑む。
人の心を持たない一族にふさわしい妻として。
「ご懐妊です」
その一言で、部屋の空気が変わる。
フリーデは静かに息を吐いた。
ついに結果が出たのだと、安堵する。
隣で、ヴィルヘルムの気配が大きく揺れた。
「……本当か?」
震える声だった。
すぐに医師が頷く。
「間違いありません」
その瞬間、ヴィルヘルムの表情が崩れたのをフリーデは見た。
張りつめていたものがほどけ、喜びが溢れ出す。
「……私の子だ……」
ヴィルヘルムはフリーデの手を強く握った。
「やっと……やっとだ……」
涙ぐみながら繰り返す姿を、フリーデは黙って見つめていた。
ようやく日々の悩みから解放されたのだろう。
だが、安堵は長く続かなかった。
ヴィルヘルムはフリーデの目をじっと見つめ、静かに尋ねた。
「……私の子だよな?」
フリーデは一瞬だけ瞬きをし、微笑む。
「はい」
柔らかく、優しく、おだやかに。
「辺境伯様の、お子です」
フリーデの言葉を聞いて、ヴィルヘルムの強張った肩の力が抜けていくのがわかった。
だが同時に、その目にまだ消えきらない影が残っていることも理解していた。
数日後。
義父が朝の食卓で突然倒れた。
カップが床に落ちる音が部屋中に響く。
震える手、言葉を失い崩れ落ちる身体。
屋敷が一瞬で騒然となる。
医師が呼ばれ、原因は分からないと告げられた。
「以前の戦傷の影響も考えられます。急激な体調悪化としか……」
義父はかろうじて意識を保っており、視線で意思疎通は取れる。
だが、身体は少しも動かせなくなった。
眼球だけが必死に動く姿を、フリーデは静かに見つめていた。
その数日後。
今度は義母が倒れた。
廊下でふらつき、壁に手をつき、そのまま崩れる。
義母はそのまま息を引き取った。
「きっと大旦那様のことでお疲れがたまっていたのね」
「でもねえ、戦ばかりの家系ですもの……」
「呪いじゃないかしら……」
義母の葬儀が行われた。
その間も、フリーデは変わらず義父の看病を続けた。
優しく声をかけ、薬を飲ませ、衣服を替える。
誰の目にも完璧な振る舞いだった。
献身的で、心優しい辺境伯夫人を疑う者はいなかった。
ただひとり、ヴィルヘルムだけはフリーデの行動が丁寧すぎることに怯え始めていた。
泣かない。
動揺しない。
取り乱さない。
ただ微笑み、優しく世話をする。
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疑い。
恐怖。
確かめたい衝動。
すべてが彼の中で膨らんでいるのだろう。
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だからこそ、今日も微笑む。
人の心を持たない一族にふさわしい妻として。
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