1 / 1
サモンドラゴン
しおりを挟む
ゲルニカは剣のように鋭い棘に覆われたドラゴンである。
地龍の母と火龍の父から生まれたドラゴン界のサラブレットであり、人間達からは鋼龍ゲルニカと呼ばれ畏怖されている。
とはいえ人間達とはそれほど多く出会ったことはないのだが。
それでも遠くからゲルニカをその目に映した人間達はゲルニカの威容に震えが止まらなくなり、それ以後決して近づこうとはしなかった。
ゲルニカはそんな人間達を毎日のように眺めていた。
人間達が住む街からは遥か遠いこの地だが、龍の目には人間達がはっきりと視えている。
龍にとって一瞬にも感じる時間を、人間達が日々一生懸命生きている様はとても興味深かった。
それほどに全力で生きることができる人間達が少し羨ましくも感じた。
ゲルニカが人間達をそこまで気にするのは、昔母から言われた言葉が原因だ。
『遥か昔、私は一人の人間と盟約を交わしました。その身に流れる血により、1度だけ召喚に応じると。いつかあなたを召喚する人間がいたときは、1度だけでいいから応じてあげてほしい』
それ以後ゲルニカは人間達を遠くから眺めるようになった。
最初は森の木を眺めているのと変わらない気持ちで人間達を見ていたゲルニカだったが、人間達の使っている言葉を覚え、文化を知り、人間達ひとりひとりの人生を知るごとに、ゲルニカは人間という生き物に愛着が湧いていた。
人間が好きになってしまった。
もしも自分を召喚してくれるものがいたのなら、1度といわず何度でも召喚に応じるつもりだった。
人間の一生など、ゲルニカにとっての一瞬のようなものだ。
1人2人の人間の一生ぐらい、共に過ごしてもいいと思っていた。
ゲルニカはすでに成龍であり、巣立ちを終えている。
孤高の生き物である龍は、群れることを嫌う。
この地にいてもどうせずっと一人ぼっちということだ。
しかしゲルニカの精神は、どういうわけか龍という生き物の本能を馬鹿にするように孤独に耐性がなかった。
心がバラバラになりそうな孤独に耐え続けるごとに、人間への渇望が高まる。
楽しそうに笑いあう人間達を羨ましそうに眺めながら、ゲルニカは待った。
誰か自分を必要としてくれないだろうか。
人間はあんなにたくさんいるのだから、一人くらい自分を召喚してくれないだろうか。
友達になってくれないだろうか。
寂しい。
ゲルニカは待ち続けた。
そして1000年ほどが経ち、ゲルニカの体表がびっしりと苔に覆われた頃、その魔法陣がゲルニカの前に現れた。
待ち焦がれた召喚術の魔法陣だ。
『盟約により召喚に応じよう。我が名はゲルニカ』
ゲルニカは人間の世界に飛び立つのだった。
「グルルルォォォォォォォォ!!!」
ひゃっほーい、待ちに待った召喚だぁ!!
僕を召喚したのはどんな子かな?
女の子だといいな。
できれば可愛い子だといいな。
光が収まるとそこには腰が抜けて尻餅をつく女の子。
おおぉ、女の子だ。
金髪碧眼の可愛い子だ。
耳が尖ってる。
エルフってやつだな。
人間にはたくさん種類がいるってママが言ってたもん。
あ、おしっこ漏らしてる。
ちょっとテンション上げすぎたかな。
ごめんよ。
僕は変化の術で小さなドラゴンに変身する。
まだ僕は子供だから人型には変身できないんだけど、小さいドラゴンとかトカゲには変身できるからね。
「僕はゲルニカ。これからよろしく」
「へ?」
ふわふわ飛んで女の子と目線を合わせる。
羽をパタパタしなくてもドラゴンは空を飛べるんだよ。
女の子は涙目でこちらを見ている。
きゃわうぃ。
エルフだから人間よりも長く一緒にいることができるんだね。
嬉しいな。
「フロスト君、そのミニドラゴンが君の召喚獣かね。さっきの巨大なドラゴンの幻影からいって光属性のミニドラゴンといったところか」
「へ?は、はい」
「よし、使い魔としてはなかなか優秀な生物を召喚できたな。B判定をあげよう」
「ありがとうございます」
誰だね君は。
僕の召喚者である女の子と親しげに話す中年男性。
よほど前世の行いが悪かったのか、毛根に致命的なダメージを負っている。
強く生きろ。
「ふーむ、ミニドラゴンを見るのは初めてだが、こんなにごつごつしているのだな」
男は僕の身体をベタベタ触ってくる。
こういうの人間達はセクハラって言うんだよね、ゲルニカ知ってる。
というか僕の召喚者がそろそろ下半身の気持ち悪さに耐えかねてもじもじしている。
そういうデリケートなところに気遣いができない男は嫌われるってママが言ってたよ。
僕は魔法で雨を降らせる。
土と火以外の属性はあまり得意じゃないけれど、雨を降らせることくらいはできる。
これでおもらしはなかったことになるだろう。
「な、なんだ、なぜ室内に雨が!」
新たな謎を作ってしまった。
人生なかなかうまくいかないものだ。
「みんな演習場から出るんだ!」
わーわーと一気にうるさくなる。
周りでたくさんの人間が見学していたようだ。
みんな一目散に出入り口目指して走っていく。
「あなたがやったの?」
召喚者が僕に問いかけてくる。
僕はドヤ顔で答えてやる。
「まあね」
そこでウィンク。
バチン。
女の子は首を傾げる。
人に気持ちを伝えるというのは難しいものだ。
「私はロザリー。これからよろしくね、ゲルニカ」
ロザリーは初めて笑顔を見せてくれた。
君の瞳にドラゴンブレス。
ちょっと自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。
おわり
地龍の母と火龍の父から生まれたドラゴン界のサラブレットであり、人間達からは鋼龍ゲルニカと呼ばれ畏怖されている。
とはいえ人間達とはそれほど多く出会ったことはないのだが。
それでも遠くからゲルニカをその目に映した人間達はゲルニカの威容に震えが止まらなくなり、それ以後決して近づこうとはしなかった。
ゲルニカはそんな人間達を毎日のように眺めていた。
人間達が住む街からは遥か遠いこの地だが、龍の目には人間達がはっきりと視えている。
龍にとって一瞬にも感じる時間を、人間達が日々一生懸命生きている様はとても興味深かった。
それほどに全力で生きることができる人間達が少し羨ましくも感じた。
ゲルニカが人間達をそこまで気にするのは、昔母から言われた言葉が原因だ。
『遥か昔、私は一人の人間と盟約を交わしました。その身に流れる血により、1度だけ召喚に応じると。いつかあなたを召喚する人間がいたときは、1度だけでいいから応じてあげてほしい』
それ以後ゲルニカは人間達を遠くから眺めるようになった。
最初は森の木を眺めているのと変わらない気持ちで人間達を見ていたゲルニカだったが、人間達の使っている言葉を覚え、文化を知り、人間達ひとりひとりの人生を知るごとに、ゲルニカは人間という生き物に愛着が湧いていた。
人間が好きになってしまった。
もしも自分を召喚してくれるものがいたのなら、1度といわず何度でも召喚に応じるつもりだった。
人間の一生など、ゲルニカにとっての一瞬のようなものだ。
1人2人の人間の一生ぐらい、共に過ごしてもいいと思っていた。
ゲルニカはすでに成龍であり、巣立ちを終えている。
孤高の生き物である龍は、群れることを嫌う。
この地にいてもどうせずっと一人ぼっちということだ。
しかしゲルニカの精神は、どういうわけか龍という生き物の本能を馬鹿にするように孤独に耐性がなかった。
心がバラバラになりそうな孤独に耐え続けるごとに、人間への渇望が高まる。
楽しそうに笑いあう人間達を羨ましそうに眺めながら、ゲルニカは待った。
誰か自分を必要としてくれないだろうか。
人間はあんなにたくさんいるのだから、一人くらい自分を召喚してくれないだろうか。
友達になってくれないだろうか。
寂しい。
ゲルニカは待ち続けた。
そして1000年ほどが経ち、ゲルニカの体表がびっしりと苔に覆われた頃、その魔法陣がゲルニカの前に現れた。
待ち焦がれた召喚術の魔法陣だ。
『盟約により召喚に応じよう。我が名はゲルニカ』
ゲルニカは人間の世界に飛び立つのだった。
「グルルルォォォォォォォォ!!!」
ひゃっほーい、待ちに待った召喚だぁ!!
僕を召喚したのはどんな子かな?
女の子だといいな。
できれば可愛い子だといいな。
光が収まるとそこには腰が抜けて尻餅をつく女の子。
おおぉ、女の子だ。
金髪碧眼の可愛い子だ。
耳が尖ってる。
エルフってやつだな。
人間にはたくさん種類がいるってママが言ってたもん。
あ、おしっこ漏らしてる。
ちょっとテンション上げすぎたかな。
ごめんよ。
僕は変化の術で小さなドラゴンに変身する。
まだ僕は子供だから人型には変身できないんだけど、小さいドラゴンとかトカゲには変身できるからね。
「僕はゲルニカ。これからよろしく」
「へ?」
ふわふわ飛んで女の子と目線を合わせる。
羽をパタパタしなくてもドラゴンは空を飛べるんだよ。
女の子は涙目でこちらを見ている。
きゃわうぃ。
エルフだから人間よりも長く一緒にいることができるんだね。
嬉しいな。
「フロスト君、そのミニドラゴンが君の召喚獣かね。さっきの巨大なドラゴンの幻影からいって光属性のミニドラゴンといったところか」
「へ?は、はい」
「よし、使い魔としてはなかなか優秀な生物を召喚できたな。B判定をあげよう」
「ありがとうございます」
誰だね君は。
僕の召喚者である女の子と親しげに話す中年男性。
よほど前世の行いが悪かったのか、毛根に致命的なダメージを負っている。
強く生きろ。
「ふーむ、ミニドラゴンを見るのは初めてだが、こんなにごつごつしているのだな」
男は僕の身体をベタベタ触ってくる。
こういうの人間達はセクハラって言うんだよね、ゲルニカ知ってる。
というか僕の召喚者がそろそろ下半身の気持ち悪さに耐えかねてもじもじしている。
そういうデリケートなところに気遣いができない男は嫌われるってママが言ってたよ。
僕は魔法で雨を降らせる。
土と火以外の属性はあまり得意じゃないけれど、雨を降らせることくらいはできる。
これでおもらしはなかったことになるだろう。
「な、なんだ、なぜ室内に雨が!」
新たな謎を作ってしまった。
人生なかなかうまくいかないものだ。
「みんな演習場から出るんだ!」
わーわーと一気にうるさくなる。
周りでたくさんの人間が見学していたようだ。
みんな一目散に出入り口目指して走っていく。
「あなたがやったの?」
召喚者が僕に問いかけてくる。
僕はドヤ顔で答えてやる。
「まあね」
そこでウィンク。
バチン。
女の子は首を傾げる。
人に気持ちを伝えるというのは難しいものだ。
「私はロザリー。これからよろしくね、ゲルニカ」
ロザリーは初めて笑顔を見せてくれた。
君の瞳にドラゴンブレス。
ちょっと自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。
おわり
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
この作品は感想を受け付けておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる