34 / 205
34.捕虜交換の交渉
しおりを挟む
「なんと!赤髪の魔族が敵指揮官の妹!?」
「ええ、おそらくそれが静香さんが捕虜にとられた理由でしょう」
「では、彼女と捕虜交換でシズカ殿が返してもらえる可能性が高いということですな」
マリステラ卿は胸をなでおろす。
静香さんは王国騎士団の最高戦力と言っても過言ではない。
兵糧運搬も半分を神の冷蔵庫が担っていた。
王国騎士団陣営にとって、彼女がいなくなった痛手は相当に大きかったのだろう。
「では、赤髪の女性と静香さんの捕虜交換を目標として交渉するということでよろしいですね?」
「ええ、よろしくお願いします」
交渉は俺が担当する。
敵軍と理性的に話ができそうな人が王国騎士団に存在しないためだ。
マリステラ卿ですら敵軍を前にすると熱くなってしまうようだから、俺が行く以外にないだろう。
本当は俺が向こうの本陣に潜入して静香さんを奪還してくるのが最善なのだろうけど、向こうで特に危害を加えられていない様子なので交渉する方向でいきたいと思う。
俺の神器の力は隠せるならば隠したほうがいいし、王国側が勝ちすぎるのも良くない。
エルカザド連合国が戦争を仕掛けてきた理由を聞いて、心情的にはあちらに味方したい気分だ。
他2人の捕虜も向こうに返してやりたいような気持ちになるが、勝手に返すわけにもいかない。
実際こちらにとって静香さんの存在は捕虜1人の価値よりも高い。
しかし向こうにとってもアマーリエ・ベルタの価値は高いだろう。
マリステラ卿に女将校とアマーリエの関係を話さなければよかったかな。
そうすれば捕虜3人と静香さんを交換する条件でも首を縦に振ったかもしれない。
今更言っても仕方ない。
他2人の捕虜は後でどうにかしよう。
「では私は捕虜を連れて、敵本陣に向かいます」
「え、連合国軍に戻れるの!?やったぁ!!」
「あくまでも捕虜交換の交渉がうまくまとまればだよ」
「わかってるって」
本当だろうか。
この子はなんというか、軍人にはあまり向いてないような気がするんだよな。
単純にまだ子供なだけかもしれないが。
「じゃあ行くよ。おとなしくして、俺の後ろをついてきて。言っとくけど俺はこう見えて結構強いからね。君が暴れたら縄で縛らなきゃいけなくなるから」
「はーい!」
はぁ、やりづらい。
俺はアマーリエをゴーレム馬に乗せる。
タンデムシートを取り付けてあるから乗りやすいはずだ。
「うわぁ、なにこれ。馬?だけど生き物の気配じゃないよ?うぇ、なんかお尻がネバネバ」
「ちょっと、暴れないで。このネバネバがお尻を固定してくれるんだから」
ネバネバの利便性が分からないとは、やはりまだまだ子供だな。
俺はアマーリエの前に乗り、ゴーレムの腹を軽く蹴る。
「わっ、動いた。なにこれすごい!!」
耳元で騒がれると耳がキンキンする。
身体も密着してさすがのおっさんもドキドキしちゃうよ。
年頃の娘さんがおっさんに身体を密着させるなんて、満員電車だったら軽く警戒するところだ。
しかしここはゴーレム馬の上だ。
若い子の温もりを楽しませていただこうか。
「すごい、速いね。実家のお父様の馬よりも速いよ!」
砦を出てから敵軍に矢を射かけられてもたまらないのでかなり飛ばしている。
大体時速80キロくらいは出ているだろうか。
サラブレットのトップスピードよりも速いだろう。
元の世界の一般的な馬では、このスピードで走り続けることはまず不可能だろう。
ゴーレム馬は魔石さえ補充してやれば、その身が砕け散るまでそのままのスピードで走り続けることが可能だ。
ちょっと血統がいいだけのそのへんの馬と比べてもらっては困るな。
「あ、本陣が見えてきた。お姉ちゃ~ん、おーい」
うるさくてかなわない。
おっさんは若者のその無駄なハイテンションがいまいち理解できないよ。
これから捕虜交換の交渉だよ?
「ちょっと静かにね。これ以上騒いだら縄で縛るからね」
「……………………」
アマーリエは必死に口を手で押さえる。
素直でよろしい。
アマーリエを後ろに乗せたゴーレム馬が本陣に近づくにつれ、敵軍は騒然となる。
捕虜交換をするにしても、こちらが単身でアマーリエを連れて本陣に来るとは思っていなかったのだろう。
静香さんのためにも面倒なやり取りはなるべく省きたかったためにこんな手段をとったが、果たして向こうがどう出てくるか。
木で作られた柵の外側に浅い掘りがあるだけの本陣だ。
ゴーレム馬でも助走があれば飛び越えられないことはないが。
「連合国東部方面軍第六連隊指揮官のアンネローゼ・ベルタだ!我が隊本陣に何用で参られたのか!用件を述べられよ!」
本陣の中からアマーリエによく似た赤髪に金の巻角の女性が出てきた。
どうやら話もできずに攻撃されるというようなことはないらしい。
「あ、お姉ちゃーん!」
アマーリエは空気も読まずに姉に向かって大きく手を振る。
しかし当のアンネローゼさんはギロリと鋭い眼差しで妹をにらむ。
アマーリエはまた余計なことをしゃべってしまったことに気づいたのか、自分から口を両手で押さえて黙り込んだ。
俺は軽くため息をつき、ここに来た用向きを告げる。
「私は王国軍の使者で、シゲノブ・キザキと申します。この度は捕虜交換の交渉
に参りました」
「ほう?」
アンネローゼさんは獰猛な顔でニヤリと笑った。
美人っていうのはどんなヤバい顔でもそれなりに絵になるのだから、卑怯だと思った。
「ええ、おそらくそれが静香さんが捕虜にとられた理由でしょう」
「では、彼女と捕虜交換でシズカ殿が返してもらえる可能性が高いということですな」
マリステラ卿は胸をなでおろす。
静香さんは王国騎士団の最高戦力と言っても過言ではない。
兵糧運搬も半分を神の冷蔵庫が担っていた。
王国騎士団陣営にとって、彼女がいなくなった痛手は相当に大きかったのだろう。
「では、赤髪の女性と静香さんの捕虜交換を目標として交渉するということでよろしいですね?」
「ええ、よろしくお願いします」
交渉は俺が担当する。
敵軍と理性的に話ができそうな人が王国騎士団に存在しないためだ。
マリステラ卿ですら敵軍を前にすると熱くなってしまうようだから、俺が行く以外にないだろう。
本当は俺が向こうの本陣に潜入して静香さんを奪還してくるのが最善なのだろうけど、向こうで特に危害を加えられていない様子なので交渉する方向でいきたいと思う。
俺の神器の力は隠せるならば隠したほうがいいし、王国側が勝ちすぎるのも良くない。
エルカザド連合国が戦争を仕掛けてきた理由を聞いて、心情的にはあちらに味方したい気分だ。
他2人の捕虜も向こうに返してやりたいような気持ちになるが、勝手に返すわけにもいかない。
実際こちらにとって静香さんの存在は捕虜1人の価値よりも高い。
しかし向こうにとってもアマーリエ・ベルタの価値は高いだろう。
マリステラ卿に女将校とアマーリエの関係を話さなければよかったかな。
そうすれば捕虜3人と静香さんを交換する条件でも首を縦に振ったかもしれない。
今更言っても仕方ない。
他2人の捕虜は後でどうにかしよう。
「では私は捕虜を連れて、敵本陣に向かいます」
「え、連合国軍に戻れるの!?やったぁ!!」
「あくまでも捕虜交換の交渉がうまくまとまればだよ」
「わかってるって」
本当だろうか。
この子はなんというか、軍人にはあまり向いてないような気がするんだよな。
単純にまだ子供なだけかもしれないが。
「じゃあ行くよ。おとなしくして、俺の後ろをついてきて。言っとくけど俺はこう見えて結構強いからね。君が暴れたら縄で縛らなきゃいけなくなるから」
「はーい!」
はぁ、やりづらい。
俺はアマーリエをゴーレム馬に乗せる。
タンデムシートを取り付けてあるから乗りやすいはずだ。
「うわぁ、なにこれ。馬?だけど生き物の気配じゃないよ?うぇ、なんかお尻がネバネバ」
「ちょっと、暴れないで。このネバネバがお尻を固定してくれるんだから」
ネバネバの利便性が分からないとは、やはりまだまだ子供だな。
俺はアマーリエの前に乗り、ゴーレムの腹を軽く蹴る。
「わっ、動いた。なにこれすごい!!」
耳元で騒がれると耳がキンキンする。
身体も密着してさすがのおっさんもドキドキしちゃうよ。
年頃の娘さんがおっさんに身体を密着させるなんて、満員電車だったら軽く警戒するところだ。
しかしここはゴーレム馬の上だ。
若い子の温もりを楽しませていただこうか。
「すごい、速いね。実家のお父様の馬よりも速いよ!」
砦を出てから敵軍に矢を射かけられてもたまらないのでかなり飛ばしている。
大体時速80キロくらいは出ているだろうか。
サラブレットのトップスピードよりも速いだろう。
元の世界の一般的な馬では、このスピードで走り続けることはまず不可能だろう。
ゴーレム馬は魔石さえ補充してやれば、その身が砕け散るまでそのままのスピードで走り続けることが可能だ。
ちょっと血統がいいだけのそのへんの馬と比べてもらっては困るな。
「あ、本陣が見えてきた。お姉ちゃ~ん、おーい」
うるさくてかなわない。
おっさんは若者のその無駄なハイテンションがいまいち理解できないよ。
これから捕虜交換の交渉だよ?
「ちょっと静かにね。これ以上騒いだら縄で縛るからね」
「……………………」
アマーリエは必死に口を手で押さえる。
素直でよろしい。
アマーリエを後ろに乗せたゴーレム馬が本陣に近づくにつれ、敵軍は騒然となる。
捕虜交換をするにしても、こちらが単身でアマーリエを連れて本陣に来るとは思っていなかったのだろう。
静香さんのためにも面倒なやり取りはなるべく省きたかったためにこんな手段をとったが、果たして向こうがどう出てくるか。
木で作られた柵の外側に浅い掘りがあるだけの本陣だ。
ゴーレム馬でも助走があれば飛び越えられないことはないが。
「連合国東部方面軍第六連隊指揮官のアンネローゼ・ベルタだ!我が隊本陣に何用で参られたのか!用件を述べられよ!」
本陣の中からアマーリエによく似た赤髪に金の巻角の女性が出てきた。
どうやら話もできずに攻撃されるというようなことはないらしい。
「あ、お姉ちゃーん!」
アマーリエは空気も読まずに姉に向かって大きく手を振る。
しかし当のアンネローゼさんはギロリと鋭い眼差しで妹をにらむ。
アマーリエはまた余計なことをしゃべってしまったことに気づいたのか、自分から口を両手で押さえて黙り込んだ。
俺は軽くため息をつき、ここに来た用向きを告げる。
「私は王国軍の使者で、シゲノブ・キザキと申します。この度は捕虜交換の交渉
に参りました」
「ほう?」
アンネローゼさんは獰猛な顔でニヤリと笑った。
美人っていうのはどんなヤバい顔でもそれなりに絵になるのだから、卑怯だと思った。
115
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる