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40.地獄の終わり

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 ここは地獄だ。
 人間に捕まりここに連れてこられたが、死ぬよりも辛いことなどたくさんあるのだと人間達は私に教えてくれる。
 寒さに震えて眠り、起きれば粗末な動物の餌のような食事を与えられる。
 1日の食事は朝に与えられるそれだけなので、私たちは豚のようにそれを貪る。
 ひとかけらたりとも無駄にはできない。
 惨めで涙が出てくる。
 しかしそんなものはこの生活の中では序の口だ。
 食事が終われば労働と言う名の拷問が待っている。
 朝から晩まで重労働させられ、少しでも休めば鞭で打たれたり殴られたりする。
 私は一応女の端くれだが、毎日鞭で打たれた身体はとても男に見せられるようなものではない。
 このような生活ではそのようなこともあまり考える余裕は無いが。
 私たちの労働を監視する連中は女が苦しむ声を聞いて喜ぶような連中ばかりだ。
 このように醜く傷だらけの私の身体にもどうやら発情しているらしい。
 人間というのは本当に度し難い変態ばかりだ。
 ここはまさにこの世の地獄。
 死んでいった同胞が羨ましい。
 死は救いなのかもしれない。
 私も何度死のうと思ったことか。
 しかし人間達の作ったこの忌々しい首輪が、それを許してはくれない。
 この首輪は魔法の込められたアイテムで、これを付けられるともはや人間達の命令には逆らえなくなってしまうのだ。
 自分で外すこともできず、勝手に外そうとしたり人間の命令に逆らえば身体が硬直してしばらく動かなくなる。
 私たちはなす統べもなくここで死ぬまで地獄を見続けるしかないのだろう。
 今日も労働が終わる。
 労働が終われば休めるかといえば、そうではない。
 私たち女は、人間達を喜ばせる下卑た労働がまだ残っているのだ。
 普通にまぐわうだけならばまだいいのだが、昼間の労働を監視しているような変態に当たれば最悪だ。
 あいつらは女が苦しんでいる姿が好きだからな。
 最中に鞭で打たれたり首を絞められたりする。
 そのまま殺してくれればいいものを。
 絶妙な力加減で、瀕死にはなっても命だけは繋がったりするから最悪だ。
 死にかければ2日の休日が与えられるのが唯一の幸いか。
 私たち獣人の身体は頑丈にできている。
 それだけの休日でも死にかけた状態から身体はある程度回復してしまうのだ。
 自分の身体の頑丈さが恨めしい。
 
「23番!来い!!」

 ああ、今日も汚い男に抱かれるのか。
 しかもこいつの顔には覚えがある。
 とびっきり鬼畜でど変態な奴だ。
 前にこいつに当たったときは爪を剥がされたり敏感な部分に針を刺されたりした記憶がしっかりと残っている。
 私がわずかに顔を顰めたのを見咎めたのか、左頬を思い切り叩かれる。
 人間の力で叩かれるくらいでは痛くもなんともないが、ただ屈辱感はある。
 このような非力な人間に、嬲られていることに。
 神様というものがいるのならば、きっとそれは人の不幸を楽しむような性格の悪い女に違いない。
 私たちが苦しんでいる姿を見て、きっと大笑いしているのだ。
 私の顔から表情が消えたことで鬼畜男は満足したのか、ニヤニヤとしたいやらしい顔で口を開く。
 
「さて、今日は貴様にどんな罰を与えてやろ……」

 男の言葉が途中で止まる。
 なんだ?
 男の首がすっと胴体から離れる。
 
「え……」

 にやにやと嫌らしい顔のまま男の首は地に落ちた。
 血は一滴も出ない。
 男の首を見れば傷口が焼かれている。
 なんて、鮮やかな切り口なのだろうか。
 私は場違いにもそんなことを思ってしまった。

「ごめん。あなたには不快な想いをさせてしまったかもしれない」

 そう言って私の肩に温かい毛布をそっとかけてくれたのは、一人の人間の男だった。
 歳は30歳くらいだろうか。
 見た目だけならば20代くらいにも見える気もするが、その表情が歳を経たもの特有の深みのある独特のものだった。
 そうして、私の地獄は唐突に終わりを告げたのだった。





 獣人の奴隷を使役している中でも、特に悪質な貴族や豪族を最初に襲撃した。
 獣人たちの扱いは顔を顰めたくなるほどに酷いものだ。
 虫型ゴーレムで最初に知ったときはこの国を滅ぼしてやりたくなったほどだ。
 まあ俺が何かしなくてももう少ししたら勝手に滅んでしまうかもしれないが。
 俺は奴隷を拷問したり、嬲りながら犯している者たちを片っ端から切り捨てていく。
 まだ俺の中にも殺しは良くないという価値観は存在している。
 しかし、平和主義の俺ですら思うのだ。
 こいつらはここで殺しておいたほうがいいと。
 腐ったみかんは周りの正常なみかんを腐らせる。
 狂気は伝染するのだ。
 ここで断ってしまっておいたほうがいい。
 俺は今これから兎獣人の女の子を犯そうとしている男の首を、後ろから刎ねる。
 首を切れば血がたくさん出てしまうだろうから、切り口をすぐに魔法で焼く。
 人を殺す技術ばかりが上達して嫌になるな。
 これから自分を犯そうとしていた男が突然死んだことに驚いたのだろうか。
 兎獣人の女の子はその兎耳をピクリと動かし、きょとんとした顔を浮かべる。
 その瞳は今の今までなにやら下種なことをしゃべっていた男の首に向いている。
 叫ばれるだろうか。
 女の子にはちょっと刺激が強い。

「ごめん。あなたには不快な想いをさせてしまったかもしれない」

 俺は慌てて女の子を落ち着かせようとする。
 さすがに泣き叫ばれるとちょっと困る。

「なんて、綺麗な切り口……」

 俺の予想に反して、兎獣人の女の子の口から出てきたのはそんな言葉だった。
 さすがは獣人だ。
 こんな草食動物っぽい雰囲気の女の子でさえ、価値観は殺伐としている。

「シゲノブ殿、そちらは片付いたか?」

 アンネローゼさんは血まみれの顔を拭いもせずに俺に声をかけてくる。
 俺がこんなに血を出さないように気をつけているというのに。
 まあ獣人の価値観はアンネローゼさんのほうが詳しい。
 獣人というのはみんな血まみれ上等なのかもしれない。
 だけど俺はやっぱり血を出さない努力は続けようと思う。
 俺が吐いちゃうからね。


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