おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

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75.おっさんと岩の町

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 俺達は2週間ほどで島から脱出することができた。
 偶然にも通りかかった船長の知り合いの船に、近くの有人島まで乗せていってもらうことができたのだ。
 船に乗せてもらう対価はダンジョンの存在を明かさないこと。
 ダンジョンは一番最初に冒険者ギルドに報告した人に報奨金が出る。
 その報告する権利を譲った形になる。
 俺たち安い船券買った組は少し損をした気分になったが、まあダンジョンのお宝で懐が暖かいので我慢できる。
 あの後何度かダンジョンに行ってみたのだが、どうやらボスが持っていた神器や宝箱に入っていた神器、エリクサーなどは初回クリア特典のようなものだったらしく二度と同じものは出なかった。
 ボスもあの武人然とした牛鬼ではなく、普通の黒い肌をした4つ腕のミノタウロスの変異種だった。
 それでも冒険者ギルドに報告すればおそらくAランクかSランクのダンジョンとして登録されるだろうが、苦労の割りに稼ぎは微妙なダンジョンだな。
 あのダンジョンを初見突破できるくらいの力量がある冒険者やダンジョンシーカーだったら、もっと効率的に稼ぐ方法はいくらでもあるはずだ。
 武者修行目的の人くらいしか集まらないダンジョンになりそうだ。
 
「おっさん、またな」

「ああ、また。俺はエルカザド連合国リザウェル自治区を本拠地としている。多分そこに行けば俺に連絡がつくはずだ」

「わかった。本当にありがとう。また会ったら抱いてやるよ」

「ははは、敵わないな……」

 男前な人だ。
 ミルファさんは軽く手をあげて去っていく。
 思わぬトラブルでルートは変わってしまったが、俺の目的地は別の大陸だ。
 ミルファさんの目的地とはここで道が分かれてしまうことになる。
 俺は別れが結構辛くてしょんぼり気分なのだが、ミルファさんは意外とあっさり行ってしまったな。
 意外とそういうとこ女の人ってドライなんだよね。
 特にミルファさんはさばさばした人だから。
 俺は苦笑いを浮かべたままミルファさんの背中に手を振り続けるしかない。
 今夜はちょっと深酒しちゃいそうだ。





 冒険者ギルドっていうのはどこの町でも変わらないものだ。
 酒場があって、暇人が飲んだくれていて、おっさんに絡む。

「おいおい、しょぼくれたおっさんが丸腰でなんの用なんだよ。ここにゃ薬草採取の仕事はねーぞ」

 確かにそのようだ。
 岩の町リングドラムは鉱山を主な収入源としている町だ。
 金属の精製のためには大量の燃料が必要になるのだろう。
 この町の周辺には森が無かった。
 周辺の木を切りつくしてしまったために、すでに薪を他所の町から輸入している状態なのだという。
 薬草は日の当たる場所には生えにくい。
 森が無ければ薬草採取の仕事も無いだろう。
 その代わりに鉱山関係の仕事が多く張り出されていた。
 どれかおっさん好みのいい依頼は無いものか。

「おい聞いてんのかおっさん!てめぇみてーなひょろい中年にできる仕事はこの町にはねーんだよ!!」

 確かに俺は、一見するとひょろく見えていることだろう。
 だが、おっさん意外と細マッチョだから。
 神巻きタバコの増幅率というのは任意で下げることが可能なんだ。
 身体能力を下げて身体に負荷をかけてトレーニングしているおかげで、おっさんは意外にも筋肉質なマッチョボディなのだ。
 腹筋も薄っすらと割れているんだぞ。
 まあ口だけの奴には言わせておけばいい。
 キムリアナのギルドでもいい年こいて恥ずかしくねーのかとか、しけた依頼受けやがってみたいなことを言ってきた奴はいたが口ばかりのお行儀のいい坊ちゃんばかりだったからな。
 結局手を出してきたのは最初に絡んできた可哀想な第三者だけだった。
 喧嘩両成敗というギルドの規則のおかげかもしれない。
 それもギルドの中だけではあるけれど。
 ギルドから1歩でも出てしまえば知らんフリだ。
 規則では喧嘩両成敗になっているものの、ギルドの外まで制裁を与えに行くというのは現実的ではない。
 特に町の外なんてこの世界では無法地帯と言っていい。
 勇者以外にも神器を持っている可能性があるということが分かった今、どこにいても油断はできないな。
 俺はまだぐちゃぐちゃと俺に対して文句を言ってくるチンピラ冒険者を無視して依頼を物色した。
 面白そうな依頼がある。
 鉄の精錬作業の手伝いだってさ。
 みんなで歌とか歌いながら足踏み式ふいごとかを踏むのだろうか。
 汗を流して不思議な一体感とかが生まれちゃったりしてね。
 よし、この依頼にしよう。
 
「これ受けます」

「かしこまりました」

 ここの受付は女の人だった。
 まあおばさんだったけど。
 美人受付嬢とかどこかに存在しているのだろうか。





「兄ちゃん中級の地魔法とか使えるか?」

「え?ええ、まあ」

「使えるのか!!よし、んじゃこの鉄鉱石からどんどん魔法で鉄を抽出していってくれ。力仕事は別の冒険者に頼むからよ。いやぁ、魔法が使える人材ってのはなかなかいなくてな。兄ちゃんが来てくれて助かったぜ」

 なんかイメージと違う。
 俺の想像していた男たちがうだるような暑さに汗を流しながらも楽しそうに働くたたら場っていう感じは全く無く、まるで現代の町工場のような雰囲気だ。
 地魔法を使える人たちが各々作業台の上で作業していて、そこに力仕事担当の日雇い労働者たちが鉄鉱石をひたすら運び込んでいる。
 歌も歌っていないし、皆無言だ。
 しょうがなく俺も無言で作業を開始する。
 指示されたとおりに木箱に山積みになった鉄鉱石から鉄を抽出していく。
 この程度は中級の地魔法が使えれば簡単にできることだ。
 箱から鉄鉱石を取って抽出、抽出済みのクズ石を空箱に入れる。
 鉄がある程度の大きさになったら成形してインゴットにする。
 その繰り返しだった。
 恐ろしく単純な作業だ。
 周りを見ると地魔法が使える抽出係は自由に休憩してもいいようだ。
 おそらく魔力を回復させるためだろうが、俺はこのくらいの作業ではいつまで経っても魔力が切れない。
 適当なタイミングで休憩を入れさせてもらおう。
 よく見れば休憩している抽出係の人たちはお菓子を食べたり酒を飲んでいる人までいるじゃないか。
 俺も明日からお菓子を持ってこよう。
 適度な休憩を入れて作業すれば、単純な作業もなかなか楽しい気がしてきた。
 こんなに楽な作業をしているだけなのに、俺達抽出係には依頼料のほかに特別手当まで付くそうだ。
 これはなかなかおいしい仕事だな。
 

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