156 / 205
144.精霊魔法
しおりを挟む
路地裏で婦女暴行事件を目撃し、助けに入った俺。
しかしなぜか謎の第三者が現れて3人の腕が交差するよくわからない三つ巴が形成されてしまった。
「は、放せ!」
「いや私も腕を掴まれているから無理ですよ」
「お前たち、こんないたいけな乙女に寄って集って暴行するなんて最低だぞ」
どうやら最後に出てきた謎の第三者は俺がこの男と一緒に女性に暴行していると思って俺の腕を掴んだようだ。
被害者の女性は俺の後ろにいるし、俺は男の腕を掴んでいるし、それほど誤解を招くような状況ではないと思うのだけれどもね。
「あの、そっちの人は助けてくれた人ですよ?」
状況を見かねた被害者女性が助け舟を出してくれる。
「なに?それは失礼した。男なんてみんな盛りのついた獣みたいなものだと思っていたから勘違いしてしまった。許してくれ」
謎の第三者は己の行動を恥じたように素早く手を放す。
ずいぶんと柔らかい手だったな。
謎の第三者は外套に身を包み、仮面で顔を隠しているので性別は分からないが、声の感じや手の質感から女性のような気がする。
しかし男に対してずいぶんと偏見を持った人だ。
完全には否定できない自分がいるので反論はできないが。
「お嬢さん、大丈夫だったか?怪我などはしていないか?私は回復魔法の心得がある。怪我をしているならば言ってくれ。すぐに治して差し上げよう。ああ膝を擦りむいてしまっているじゃないか。まったく、男というのは本当に粗雑でどうしようもない生き物だ」
謎の女性は襲われていた女性の身体をぺたぺたと触って怪我がないか確認している。
親切な人だとは思うが、いささか触りすぎな気もするな。
先ほどから言葉の節々に表れている男嫌いの感じといい、どことなく匂う。
百合の花の匂いだ。
被害者女性が膝を擦りむいているのを見て、いやらしい手つきで脚全体を撫でまわしている。
言い訳がましくこれは魔法に必要なことなんだと被害者女性に言い聞かせているが、魔力が全く動いていないことを考えるに治療とは全く関係がないただのセクハラのようだ。
盛りのついた獣はどっちなんだ。
「すまない、痛かったね。大丈夫だ、もう治る」
女性の魔力が活性化する。
そのまま魔法陣を描くのかと思ったが、活性化した魔力は突如として消えてしまう。
まるで何者かに食べられたように。
そして女性の手のひらから蛍火のような光の粒が零れ落ち、被害者女性の膝の傷を癒していく。
明らかに俺の知っている魔法の行使ではない。
かといって獣人たちの使うような特殊能力や原始的な魔法でもない。
彼女が魔法と言ったのならば魔法の一種なのだろうが、全く見たことのない魔法だ。
俺は数日前にベラールさんとした話を思い出していた。
『ブルーベルはエルフの里にも近いですし、町中でも見かけるかもしれませんね』
『耳が長くて、精霊魔法という独自の魔法を持ち、ものすごく美形ぞろいの種族です』
精霊魔法、おそらく今の魔法はそれだ。
魔力が何かに食べられたように見えたのはおそらく精霊という存在に魔力を渡したからだろう。
その対価に精霊が魔法現象を起こす、それが精霊魔法という魔法なのかもしれない。
ということは、この仮面をつけた謎のガチ百合女性の正体はエルフということになる。
なんという幸運だろうか。
ベラールさんが一生に一度くらいは見てみたいと言っていたエルフに出会うことができるとは。
相当な男嫌いなようだけれど、なんとか顔だけでも見せてくれないだろうか。
「放せっ、放せこの野郎!!」
とりあえずこの男を協商連合の兵士に突き出すのが先か。
しかしエルフと見られる仮面女性は被害女性にべったりでお持ち帰りする気まんまんのようだし、俺が割り込む余地はあるかな。
「あ、あの、まだちゃんとお礼を言っていませんでした。危ないところを助けていただいてありがとうございました。私の家は大通りで宿屋を営んでいるのですが、もしよろしければお2人ともうちの宿に泊まっていただけませんか?もちろん代金はいただきません」
被害者女性は仮面女性に纏わりつかれて少し困惑しながらも俺に向き直り、少し頬を赤く染めて宿に泊まらないかと言ってきた。
被害者女性はお2人と言っているものの、その瞳は真っすぐ俺を見つめていた。
これは、もしや。
被害者女性が俺に少なからず好意を抱いているのは長年の経験でなんとなくわかった。
しかしそんな純情な目で見つめられると少し罪悪感が湧いてくる。
おじさんはそういう純粋な色恋とかはちょっと苦手なんだ。
この年になると女性と交際するのも純粋な色恋だけというわけにもいかなくなる。
俺のように結婚とか子供とかを全く望んでいないやつならばなおさらだ。
危ないところを助けてくれた人と年齢差の恋をして結婚して子供は3人とか思っている乙女チックな価値観と、助けたお礼に一晩付き合ってくれないかなとか思っている汚れきったおじさんの価値観が相容れることは無い。
それが何かの間違いに相容れてしまうことで起きるのは、週刊誌でよく見る男女の悲劇だ。
相手が本気で来ているのに、遊びで応えられるほど俺は落ちていない。
遊び人には遊び人の矜持というものがあるのだ。
しかしとりあえずエルフと同じ宿になれる可能性が出てきたのはありがたい。
百合だからたぶん男には興味が無いだろうが、顔だけ見てみたい。
俺は後で必ず宿に行くと約束して男を連行した。
しかしなぜか謎の第三者が現れて3人の腕が交差するよくわからない三つ巴が形成されてしまった。
「は、放せ!」
「いや私も腕を掴まれているから無理ですよ」
「お前たち、こんないたいけな乙女に寄って集って暴行するなんて最低だぞ」
どうやら最後に出てきた謎の第三者は俺がこの男と一緒に女性に暴行していると思って俺の腕を掴んだようだ。
被害者の女性は俺の後ろにいるし、俺は男の腕を掴んでいるし、それほど誤解を招くような状況ではないと思うのだけれどもね。
「あの、そっちの人は助けてくれた人ですよ?」
状況を見かねた被害者女性が助け舟を出してくれる。
「なに?それは失礼した。男なんてみんな盛りのついた獣みたいなものだと思っていたから勘違いしてしまった。許してくれ」
謎の第三者は己の行動を恥じたように素早く手を放す。
ずいぶんと柔らかい手だったな。
謎の第三者は外套に身を包み、仮面で顔を隠しているので性別は分からないが、声の感じや手の質感から女性のような気がする。
しかし男に対してずいぶんと偏見を持った人だ。
完全には否定できない自分がいるので反論はできないが。
「お嬢さん、大丈夫だったか?怪我などはしていないか?私は回復魔法の心得がある。怪我をしているならば言ってくれ。すぐに治して差し上げよう。ああ膝を擦りむいてしまっているじゃないか。まったく、男というのは本当に粗雑でどうしようもない生き物だ」
謎の女性は襲われていた女性の身体をぺたぺたと触って怪我がないか確認している。
親切な人だとは思うが、いささか触りすぎな気もするな。
先ほどから言葉の節々に表れている男嫌いの感じといい、どことなく匂う。
百合の花の匂いだ。
被害者女性が膝を擦りむいているのを見て、いやらしい手つきで脚全体を撫でまわしている。
言い訳がましくこれは魔法に必要なことなんだと被害者女性に言い聞かせているが、魔力が全く動いていないことを考えるに治療とは全く関係がないただのセクハラのようだ。
盛りのついた獣はどっちなんだ。
「すまない、痛かったね。大丈夫だ、もう治る」
女性の魔力が活性化する。
そのまま魔法陣を描くのかと思ったが、活性化した魔力は突如として消えてしまう。
まるで何者かに食べられたように。
そして女性の手のひらから蛍火のような光の粒が零れ落ち、被害者女性の膝の傷を癒していく。
明らかに俺の知っている魔法の行使ではない。
かといって獣人たちの使うような特殊能力や原始的な魔法でもない。
彼女が魔法と言ったのならば魔法の一種なのだろうが、全く見たことのない魔法だ。
俺は数日前にベラールさんとした話を思い出していた。
『ブルーベルはエルフの里にも近いですし、町中でも見かけるかもしれませんね』
『耳が長くて、精霊魔法という独自の魔法を持ち、ものすごく美形ぞろいの種族です』
精霊魔法、おそらく今の魔法はそれだ。
魔力が何かに食べられたように見えたのはおそらく精霊という存在に魔力を渡したからだろう。
その対価に精霊が魔法現象を起こす、それが精霊魔法という魔法なのかもしれない。
ということは、この仮面をつけた謎のガチ百合女性の正体はエルフということになる。
なんという幸運だろうか。
ベラールさんが一生に一度くらいは見てみたいと言っていたエルフに出会うことができるとは。
相当な男嫌いなようだけれど、なんとか顔だけでも見せてくれないだろうか。
「放せっ、放せこの野郎!!」
とりあえずこの男を協商連合の兵士に突き出すのが先か。
しかしエルフと見られる仮面女性は被害女性にべったりでお持ち帰りする気まんまんのようだし、俺が割り込む余地はあるかな。
「あ、あの、まだちゃんとお礼を言っていませんでした。危ないところを助けていただいてありがとうございました。私の家は大通りで宿屋を営んでいるのですが、もしよろしければお2人ともうちの宿に泊まっていただけませんか?もちろん代金はいただきません」
被害者女性は仮面女性に纏わりつかれて少し困惑しながらも俺に向き直り、少し頬を赤く染めて宿に泊まらないかと言ってきた。
被害者女性はお2人と言っているものの、その瞳は真っすぐ俺を見つめていた。
これは、もしや。
被害者女性が俺に少なからず好意を抱いているのは長年の経験でなんとなくわかった。
しかしそんな純情な目で見つめられると少し罪悪感が湧いてくる。
おじさんはそういう純粋な色恋とかはちょっと苦手なんだ。
この年になると女性と交際するのも純粋な色恋だけというわけにもいかなくなる。
俺のように結婚とか子供とかを全く望んでいないやつならばなおさらだ。
危ないところを助けてくれた人と年齢差の恋をして結婚して子供は3人とか思っている乙女チックな価値観と、助けたお礼に一晩付き合ってくれないかなとか思っている汚れきったおじさんの価値観が相容れることは無い。
それが何かの間違いに相容れてしまうことで起きるのは、週刊誌でよく見る男女の悲劇だ。
相手が本気で来ているのに、遊びで応えられるほど俺は落ちていない。
遊び人には遊び人の矜持というものがあるのだ。
しかしとりあえずエルフと同じ宿になれる可能性が出てきたのはありがたい。
百合だからたぶん男には興味が無いだろうが、顔だけ見てみたい。
俺は後で必ず宿に行くと約束して男を連行した。
76
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる