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おっさんずイフ
31.影泳ぎの腕輪
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水妖の三又矛は水を操る神器だ。
半魚人が使っていたように、水滴を弾丸のように高速で飛ばしたり刃のように鋭く尖らせて切り裂いたりすることができる。
ただし操れる水は神器から出た水だけのようで、敵の体内の水を操って身体の中から攻撃したりはできない。
その代わり神器からは無限に水が出るし、水の温度も性質も思うがままだ。
完全におかんのやかんの上位互換だった。
懐かしい匂いはしないけれどね。
「これならガルーダの動きを止めることができそうね」
「避けられなければだけどね」
グウェンの持つ竜神の牙剣(光)の魔力攻撃のような高速の攻撃すら避けるガルーダには、通常の方法での拘束は通用しないだろう。
動きを封じるような攻撃を、竜神の牙剣が放つ光線よりも速い速度で叩き込むことは難しい。
ガルーダが自分から罠にかかってくれるような一工夫が必要だ。
「前に光学迷彩はガルーダに見破られるって言ったけど、影の中ってどうなのかしらね」
「影の中なら、気配を悟られずに近づくことができるってこと?」
「そう。ちょっと今影泳ぎの腕輪を使ってみてくれる?」
「いいけど……」
俺は腕輪を具現化し、能力を発動する。
途端に影という影が揺らめきだす。
まるで水面のようなそこに足を踏み入れる。
水のようにしぶきは上がらないけれど、重力に従ってずるりと身体が影に沈み込んでしまった。
影の世界はまるで水の中のようだけれど、海底のように暗くはない。
息もできる。
しかしやはり水の中のように身体を動かすたびに抵抗がある。
不思議な世界だ。
上を見れば今入ってきた影がまるで氷が張った湖に空いた穴のように口を開けている。
そのほかにも大小様々な出口があり、そこから光が差し込んでいるために影の世界は割と明るい。
「グウェン!聞こえるかい!!」
影の中から叫んでみても、返事はない。
音は遮断されているということか。
俺は浮上し、入ってきた影から首だけ出してみる。
「「うわっ」」
影から顔を出すと、グウェンが顔を近づけて影を凝視していた。
お互いに驚いて大声を出してしまった。
こんなハプニングは美女とやりたかったな。
「もう、びっくりしたわ。でも気配は全くなかったわね。あくまでもあたしの感覚だけどね。ガルーダの感覚を誤魔化せるかはやってみないとわからないわね」
「でもやってみる価値はあるんじゃないかな。さっきから影の中からグウェンに大声で話しかけていたんだけど、全く反応がなかった」
「何も聞こえなかったわ。音が遮断されるってことね。おそらく匂いも。魔力も感じなかったわ。これならいけるかもしれないわね」
となれば、あとは具体的な作戦を考えていくだけか。
とりあえず影泳ぎの腕輪の能力に関する細かいところの検証を済ませてから、一度ガルーダに近づいてみるとするか。
ダンジョンで神器を手に入れるという幸運を経てガルーダに対する勝算も見えてきた俺たちだったが、残念ながら時間は待ってはくれない。
修業開始15日目。
神樹の若木に新たな実が成った日、ついに後発組の冒険者たちを乗せた船がこの島に到着したのだった。
「早かったわね。ここのところ晴れていい風が吹く日が続いたから船足が速かったのね」
「どうするんだい?すぐにでもガルーダ討伐に向かう?」
「まだ準備が足りないわ。予定通り慎重に検証を続けましょう。冒険者たちがガルーダにちょっかいを出すかもしれないけど、仕方がないわ。冒険者は基本的に自己責任。死ぬときも自己責任よ」
冒険者という夢いっぱいのネーミングの職業だけれど、現実は結構シビアだな。
まあ冒険に危険はつきものだしね。
「それで、木に成った魔法はなんだったのよ」
「また初級魔法だった。最近ガチャ運がきてないね」
「ガチャ?ちょっと何言ってるのかわからないわ」
首からぶら下がる翻訳アイテムでもガチャという単語は翻訳できなかったか。
こちらにそういったものが存在していないのだろう。
ガチャはいい商売になりそうだ。
人の生き血を啜るような商売だけどね。
俺は人の血のように真っ赤なアメリカンチェリーを口に放り込んだ。
『ぴろりろりん♪シゲノブは初級魔法【振動】を使えるようになった』
振動か。
なんかちょっとエッチだな。
「なんだったのよ。気になるわね」
「いや、そんなに気にするほどの魔法じゃなかったよ」
なかなか素直には言い難い魔法だ。
この世界には振動する大人のおもちゃとかが無いかもしれないから、俺の独りよがりの恥ずかしさかもしれないけれど。
「まあ手札の詮索は冒険者のマナー違反だからこれ以上は聞かないわ」
空気の読めるオネエで助かる。
女の子のいるお店がたくさんあるような町についたらこの魔法を使いまくって夜の帝王に駆け上ってやる。
おっさんがまだ見ぬ夜の蝶たちに想いを馳せていると、ドタバタと子供たちが走ってくる音が聞こえる。
いつも元気ね。
「グウェン先生ぇ!!」
「なによ」
「なんかおカマに会わせろって奴が来て。すっげえうるさいんだよ」
「失礼な奴ね。ぐーぱんしてやろうかしら」
死んじゃうからやめたほうがいいと思う。
半魚人が使っていたように、水滴を弾丸のように高速で飛ばしたり刃のように鋭く尖らせて切り裂いたりすることができる。
ただし操れる水は神器から出た水だけのようで、敵の体内の水を操って身体の中から攻撃したりはできない。
その代わり神器からは無限に水が出るし、水の温度も性質も思うがままだ。
完全におかんのやかんの上位互換だった。
懐かしい匂いはしないけれどね。
「これならガルーダの動きを止めることができそうね」
「避けられなければだけどね」
グウェンの持つ竜神の牙剣(光)の魔力攻撃のような高速の攻撃すら避けるガルーダには、通常の方法での拘束は通用しないだろう。
動きを封じるような攻撃を、竜神の牙剣が放つ光線よりも速い速度で叩き込むことは難しい。
ガルーダが自分から罠にかかってくれるような一工夫が必要だ。
「前に光学迷彩はガルーダに見破られるって言ったけど、影の中ってどうなのかしらね」
「影の中なら、気配を悟られずに近づくことができるってこと?」
「そう。ちょっと今影泳ぎの腕輪を使ってみてくれる?」
「いいけど……」
俺は腕輪を具現化し、能力を発動する。
途端に影という影が揺らめきだす。
まるで水面のようなそこに足を踏み入れる。
水のようにしぶきは上がらないけれど、重力に従ってずるりと身体が影に沈み込んでしまった。
影の世界はまるで水の中のようだけれど、海底のように暗くはない。
息もできる。
しかしやはり水の中のように身体を動かすたびに抵抗がある。
不思議な世界だ。
上を見れば今入ってきた影がまるで氷が張った湖に空いた穴のように口を開けている。
そのほかにも大小様々な出口があり、そこから光が差し込んでいるために影の世界は割と明るい。
「グウェン!聞こえるかい!!」
影の中から叫んでみても、返事はない。
音は遮断されているということか。
俺は浮上し、入ってきた影から首だけ出してみる。
「「うわっ」」
影から顔を出すと、グウェンが顔を近づけて影を凝視していた。
お互いに驚いて大声を出してしまった。
こんなハプニングは美女とやりたかったな。
「もう、びっくりしたわ。でも気配は全くなかったわね。あくまでもあたしの感覚だけどね。ガルーダの感覚を誤魔化せるかはやってみないとわからないわね」
「でもやってみる価値はあるんじゃないかな。さっきから影の中からグウェンに大声で話しかけていたんだけど、全く反応がなかった」
「何も聞こえなかったわ。音が遮断されるってことね。おそらく匂いも。魔力も感じなかったわ。これならいけるかもしれないわね」
となれば、あとは具体的な作戦を考えていくだけか。
とりあえず影泳ぎの腕輪の能力に関する細かいところの検証を済ませてから、一度ガルーダに近づいてみるとするか。
ダンジョンで神器を手に入れるという幸運を経てガルーダに対する勝算も見えてきた俺たちだったが、残念ながら時間は待ってはくれない。
修業開始15日目。
神樹の若木に新たな実が成った日、ついに後発組の冒険者たちを乗せた船がこの島に到着したのだった。
「早かったわね。ここのところ晴れていい風が吹く日が続いたから船足が速かったのね」
「どうするんだい?すぐにでもガルーダ討伐に向かう?」
「まだ準備が足りないわ。予定通り慎重に検証を続けましょう。冒険者たちがガルーダにちょっかいを出すかもしれないけど、仕方がないわ。冒険者は基本的に自己責任。死ぬときも自己責任よ」
冒険者という夢いっぱいのネーミングの職業だけれど、現実は結構シビアだな。
まあ冒険に危険はつきものだしね。
「それで、木に成った魔法はなんだったのよ」
「また初級魔法だった。最近ガチャ運がきてないね」
「ガチャ?ちょっと何言ってるのかわからないわ」
首からぶら下がる翻訳アイテムでもガチャという単語は翻訳できなかったか。
こちらにそういったものが存在していないのだろう。
ガチャはいい商売になりそうだ。
人の生き血を啜るような商売だけどね。
俺は人の血のように真っ赤なアメリカンチェリーを口に放り込んだ。
『ぴろりろりん♪シゲノブは初級魔法【振動】を使えるようになった』
振動か。
なんかちょっとエッチだな。
「なんだったのよ。気になるわね」
「いや、そんなに気にするほどの魔法じゃなかったよ」
なかなか素直には言い難い魔法だ。
この世界には振動する大人のおもちゃとかが無いかもしれないから、俺の独りよがりの恥ずかしさかもしれないけれど。
「まあ手札の詮索は冒険者のマナー違反だからこれ以上は聞かないわ」
空気の読めるオネエで助かる。
女の子のいるお店がたくさんあるような町についたらこの魔法を使いまくって夜の帝王に駆け上ってやる。
おっさんがまだ見ぬ夜の蝶たちに想いを馳せていると、ドタバタと子供たちが走ってくる音が聞こえる。
いつも元気ね。
「グウェン先生ぇ!!」
「なによ」
「なんかおカマに会わせろって奴が来て。すっげえうるさいんだよ」
「失礼な奴ね。ぐーぱんしてやろうかしら」
死んじゃうからやめたほうがいいと思う。
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