21 / 50
21.不動産屋
しおりを挟む
僕はダンジョンから帰ってきたザックスを連れて買い物に出かける。
いつもの村人のような恰好ではなく、仕立て屋で仕立てた一張羅だ。
少しゴワゴワするジャケットにループタイまでしている。
今日僕が買おうと思っているものはすべて高額商品だ。
このくらい金をかけた服装でなければ売ってくれないどころか店に入れてもらえない可能性がある。
ザックスは護衛なのでダンジョンに潜るときと同じ装備でいいとしても、僕だけは成金めいた格好をする必要があるのだ。
まず向かったのは不動産屋。
高額商品を扱う店に相応しく、格式ばった入りにくい店構えだ。
僕は遠慮なく扉を開けて中に入った。
「こんにちは。賃貸のご相談でしょうか」
額がテカテカと光る七三分けの男性店員さんが出迎えてくれた。
しかし僕が家を買いにきたとは思わなかったようだ。
僕の恰好は家を買いそうなほど成金には見えなかったのかもしれない。
賃貸物件の紹介依頼だと思われてしまった。
この世界の成金はいったいどんな悪趣味な恰好をしているというんだ。
ザックスに金貨で作ったスケイルメイルでも装備させればいいのかな。
「家を購入したいのですが」
「え、あの、お客様失礼ですが……」
「ザックス、出して」
「おす」
七三店員の表情には隠しようのない侮りが浮かんでいる。
僕が家の値段も知らずに買いにきた勘違いの小成金だと思っているのだろう。
この手の人には何を言ってもダメだ。
キャッシュを見せるのが手っ取り早い。
ザックスが持っていた袋をカウンターの上に乗せる。
ずっしりと重そうな袋を乗せられたカウンターは少し軋んだ音を響かせた。
袋の口を縛っている紐をほどけば、金貨が店内の灯りの魔道具の光を反射して僕たちの目を焼いた。
こんなときのためにコピーするためのひな型となる最初の1枚の金貨をピカピカに磨いておいたのだ。
ザックスの持っていた袋には少なく見積もっても500枚くらいの金貨を詰め込んできた。
日本円にして7億円以上のお金だ。
この金額を持っていて買える家がないのならこの世界の人はみんな家無しだ。
「し、失礼しました……」
札束で頬を叩くのは気持ちがいいけれど、そろそろ面倒になってきたな。
もう少し一張羅のグレードを上げてみるか。
それか高そうな装飾品でも付けてみるとしよう。
「こちらの物件はさるお貴族様が晩年に住んでいらした物件で……」
「うーん」
「こちらの物件は王国の英雄と謳われた勇者ヤマダ様の娘婿の兄の幼馴染の親戚筋の……」
「もう勇者関係ないじゃん」
「こちらの物件はムロト流剣術の開祖ムロト様の高弟であらせられる……」
「武術は興味ない。道場とか家に必要ない」
七三の店員に案内されて僕たちは何軒かの物件を見学に行った。
しかし気に入った物件が一つもない。
どれもこれも住んでいた人の逸話ばかりで物件の内装などは結構荒れている。
どう見ても築年数が古いか管理不足かのどちらかだ。
僕はそこそこ綺麗で少しの手直しで住める風呂付物件であればどこでもいいんだけどな。
やはり不動産屋を間違えたか。
最初のやりとりの時点でお客を侮るような不動産屋であることは分かっていた。
あと1軒だけ見学したら別の不動産屋に行ってみるとしよう。
「はぁ、次で最後です。次は別にそれほど有名な逸話はありません。たまたま商売で当たった成金が金にものを言わせて立てた大き目の館です」
僕がこの不動産屋から家を買う気がないことを悟ったのか、店員はなんとも適当な物件の紹介をする。
最後に紹介された家は街の中心地からは少し外れた倉庫街のような場所に建つ大きな屋敷だった。
外観はまあまあだな。
今までの物件と比べれば格段に綺麗だ。
店員が鍵を開け、扉を開けた。
建物の中からひんやりとした湿った空気が流れ出てくる。
なぜだか背中に鳥肌が立ち、寒気がした。
風邪でも引いたかな。
僕たちは屋敷の中へと足を踏み入れた。
中もとても綺麗で管理状態は非常にいい。
僕が求めていたのはこういう物件だ。
「へぇ、いいじゃん。お風呂はありますか?」
「はい。なにしろ成金が金にものを言わせて作らせた家ですからね。当然大人10人が同時に入れるような大きなお風呂が付いております」
言い方考えろよ。
僕も成金だぞ。
店員の案内するままについていくと、銭湯のような脱衣所があった。
その奥には大きな浴室。
浴槽はゴツゴツした岩がむき出しになった岩風呂タイプだ。
温泉みたいで最高じゃないか。
「この屋敷の設備には成金が金にものを言わせて作らせた大量の魔道具が使われておりますので魔石さえ補充していただければ、王侯貴族よりも快適な暮らしをしていただけるに違いありません」
「へぇ、すごいね」
成金成金うるさいけれど、この家の設備がすごいということはわかった。
家を買ったらついてくるならばお得だ。
気になるのは価格だ。
「でもお高いんでしょ?」
「いえいえ、お客様とはこれからもお付き合いできればと思っております。身銭を切る覚悟でサービスさせていただきます。今即決で購入を決めていただけるのでしたら、金貨10枚で構いません。お客様だけの特別価格でございます」
「金貨10枚!?」
安い。
ザックスの半額以下じゃないか。
なんてお買い得商品なんだ。
「なあ坊ちゃん、なんか怪しくないか?」
「何を言ってるんだザックス。こんな大きくて綺麗な家を金貨10枚で買えるんだよ?こんなチャンスはもう二度とないかもしれない」
こんなの即決で買いに決まっている。
いつもの村人のような恰好ではなく、仕立て屋で仕立てた一張羅だ。
少しゴワゴワするジャケットにループタイまでしている。
今日僕が買おうと思っているものはすべて高額商品だ。
このくらい金をかけた服装でなければ売ってくれないどころか店に入れてもらえない可能性がある。
ザックスは護衛なのでダンジョンに潜るときと同じ装備でいいとしても、僕だけは成金めいた格好をする必要があるのだ。
まず向かったのは不動産屋。
高額商品を扱う店に相応しく、格式ばった入りにくい店構えだ。
僕は遠慮なく扉を開けて中に入った。
「こんにちは。賃貸のご相談でしょうか」
額がテカテカと光る七三分けの男性店員さんが出迎えてくれた。
しかし僕が家を買いにきたとは思わなかったようだ。
僕の恰好は家を買いそうなほど成金には見えなかったのかもしれない。
賃貸物件の紹介依頼だと思われてしまった。
この世界の成金はいったいどんな悪趣味な恰好をしているというんだ。
ザックスに金貨で作ったスケイルメイルでも装備させればいいのかな。
「家を購入したいのですが」
「え、あの、お客様失礼ですが……」
「ザックス、出して」
「おす」
七三店員の表情には隠しようのない侮りが浮かんでいる。
僕が家の値段も知らずに買いにきた勘違いの小成金だと思っているのだろう。
この手の人には何を言ってもダメだ。
キャッシュを見せるのが手っ取り早い。
ザックスが持っていた袋をカウンターの上に乗せる。
ずっしりと重そうな袋を乗せられたカウンターは少し軋んだ音を響かせた。
袋の口を縛っている紐をほどけば、金貨が店内の灯りの魔道具の光を反射して僕たちの目を焼いた。
こんなときのためにコピーするためのひな型となる最初の1枚の金貨をピカピカに磨いておいたのだ。
ザックスの持っていた袋には少なく見積もっても500枚くらいの金貨を詰め込んできた。
日本円にして7億円以上のお金だ。
この金額を持っていて買える家がないのならこの世界の人はみんな家無しだ。
「し、失礼しました……」
札束で頬を叩くのは気持ちがいいけれど、そろそろ面倒になってきたな。
もう少し一張羅のグレードを上げてみるか。
それか高そうな装飾品でも付けてみるとしよう。
「こちらの物件はさるお貴族様が晩年に住んでいらした物件で……」
「うーん」
「こちらの物件は王国の英雄と謳われた勇者ヤマダ様の娘婿の兄の幼馴染の親戚筋の……」
「もう勇者関係ないじゃん」
「こちらの物件はムロト流剣術の開祖ムロト様の高弟であらせられる……」
「武術は興味ない。道場とか家に必要ない」
七三の店員に案内されて僕たちは何軒かの物件を見学に行った。
しかし気に入った物件が一つもない。
どれもこれも住んでいた人の逸話ばかりで物件の内装などは結構荒れている。
どう見ても築年数が古いか管理不足かのどちらかだ。
僕はそこそこ綺麗で少しの手直しで住める風呂付物件であればどこでもいいんだけどな。
やはり不動産屋を間違えたか。
最初のやりとりの時点でお客を侮るような不動産屋であることは分かっていた。
あと1軒だけ見学したら別の不動産屋に行ってみるとしよう。
「はぁ、次で最後です。次は別にそれほど有名な逸話はありません。たまたま商売で当たった成金が金にものを言わせて立てた大き目の館です」
僕がこの不動産屋から家を買う気がないことを悟ったのか、店員はなんとも適当な物件の紹介をする。
最後に紹介された家は街の中心地からは少し外れた倉庫街のような場所に建つ大きな屋敷だった。
外観はまあまあだな。
今までの物件と比べれば格段に綺麗だ。
店員が鍵を開け、扉を開けた。
建物の中からひんやりとした湿った空気が流れ出てくる。
なぜだか背中に鳥肌が立ち、寒気がした。
風邪でも引いたかな。
僕たちは屋敷の中へと足を踏み入れた。
中もとても綺麗で管理状態は非常にいい。
僕が求めていたのはこういう物件だ。
「へぇ、いいじゃん。お風呂はありますか?」
「はい。なにしろ成金が金にものを言わせて作らせた家ですからね。当然大人10人が同時に入れるような大きなお風呂が付いております」
言い方考えろよ。
僕も成金だぞ。
店員の案内するままについていくと、銭湯のような脱衣所があった。
その奥には大きな浴室。
浴槽はゴツゴツした岩がむき出しになった岩風呂タイプだ。
温泉みたいで最高じゃないか。
「この屋敷の設備には成金が金にものを言わせて作らせた大量の魔道具が使われておりますので魔石さえ補充していただければ、王侯貴族よりも快適な暮らしをしていただけるに違いありません」
「へぇ、すごいね」
成金成金うるさいけれど、この家の設備がすごいということはわかった。
家を買ったらついてくるならばお得だ。
気になるのは価格だ。
「でもお高いんでしょ?」
「いえいえ、お客様とはこれからもお付き合いできればと思っております。身銭を切る覚悟でサービスさせていただきます。今即決で購入を決めていただけるのでしたら、金貨10枚で構いません。お客様だけの特別価格でございます」
「金貨10枚!?」
安い。
ザックスの半額以下じゃないか。
なんてお買い得商品なんだ。
「なあ坊ちゃん、なんか怪しくないか?」
「何を言ってるんだザックス。こんな大きくて綺麗な家を金貨10枚で買えるんだよ?こんなチャンスはもう二度とないかもしれない」
こんなの即決で買いに決まっている。
37
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる