スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉

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23.奴隷商

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 次は奴隷商に向かう。
 帰って攻撃魔法の練習でもしたいところだけれど、すでに宿を引き払ってしまっているので奴隷がいないと色々と困る。
 あの屋敷は2人で掃除できる大きさではないし、僕もザックスも料理は最低限しかできないから夕食が味気ないものになってしまうだろう。
 大きな家を買った以上は奴隷だけは買っておかなければならない。

「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ。お客さんはついてらっしゃいますね。今さっきミルディアから仕入れの馬車が帰ったばかりなんですよ」

 奴隷商の店員さんは少し陰気そうな顔色の悪いおじさんだった。
 肝臓とか悪そう。
 奴隷商の仕入れというのはあまり気分のいい言葉ではない。
 なぜなら奴隷商が扱う商品を仕入れるということはどこかから人間を買ってくるということだからだ。
 さすがにどこかで捕まえてきたわけではないだろう。
 この国では基本的には奴隷は借金奴隷か犯罪奴隷しかいない。
 金銭と引き換えに自分や家族を売るか、犯罪を犯して奴隷に落ちるかだ。
 しかし中には盗賊と奴隷商が結託して攫った人を奴隷に仕立て上げることもあると聞く。
 店員の人相が悪いせいで色々と想像してしまう。
 人を見た目で判断するのは失礼なことだ。
 きっと優しい世界の奴隷商に違いない。

「すぐに今日のおすすめを連れてので少々お待ちを。あ、来ましたね。おい、こっちだ。何をしている。抵抗するようなら鞭で叩け」

「へいっ。さっさと入れ!」

「きゃぁっ」

 優しい世界の奴隷商ではないようだ。
 おじさん店員はゴリマッチョの手下に女の子を鞭で打たせて連れてきた。
 最悪に胸糞が悪い光景だ。
 優しい世界とかを期待した僕が馬鹿だった。
 ソファに座らされた僕の前にずらりと女の子たちが並べられていく。
 大体15人くらいだろうか。
 みんな薄衣1枚の煽情的な恰好をさせられている。

「あれ……」

 女の子たちの中に、見知った顔があった。
 7人ほど。

「どうして……」

「あ、レンさん……」

 僕と目が合ったアリシアが小さく呟いたのが聞こえた。
 連れてこられた奴隷の中には、アリシアを含めて盗賊のアジトから逃げてきた女性たちが全員いたのだった。
 いったいどういうことなんだ。
 独身で行くあてがなかったアテナやクレアとクロエ、それに旦那さんが亡くなってしまったオリビアはまだわかる。
 食べていけなくなって奴隷になるというのはよくあることのようだし。
 でもアリシアとメリッサ、エマには旦那さんがいたはずだ。
 アリシアの旦那さんは飲食店を営んでいると聞いた。
 メリッサは旦那さんが逃げてしまったから旦那さん元へは戻り辛かったのだろうか。
 エマは大き目の農家の長男の嫁だ、村に戻ったところまで見届けたのにこんなことになっているはずがない。
 わけがわからない。
 まさか盗賊にまた攫われて今度は奴隷として売られたのだろうか。
 だとしたらこの悪人面の店員はやはり見た目通りの悪人ということになる。
 僕は憎しみを込めて店員をぎろりと睨む。

「お、お客様?」

「この奴隷たちはどこから仕入れてきたんだ!」

「へ?ですからミルディアですが……」

「そんなはずがないだろう。この中の7人と僕は知り合いだ。旦那さんがいる人もいる。違法に手に入れた奴隷でもなければこんなことがあるはずがない!」

「いえ、ですが、本当にミルディアの支店に彼女たちが……」

「レンさん、その人の言ってることは本当だよ」

「え?」

 怒りのあまり拳を握り締めていた僕の手をアリシアが掴んで止める。
 しかしアリシアの言葉で更にわけがわからなくなってきた。

「どういうこと?アリシア」

「一言で言ってしまえば、旦那に売られたってことだね。盗賊の使い古しの女房はいらないってさ」

「そんな……夫婦だろ?」

「盗賊に凌辱された女なんてこんなもんさ。男からしたら自分のものが汚されて返ってきたって感じなんだろうね。汚くて抱けないんだとさ」

「メリッサも、エマも?」

 僕がメリッサとエマに視線を向けると2人は俯いてしまった。
 どうやら本当のようだ。
 しかしそれで奴隷商に売るっていうのはあんまりだ。
 もう一緒にいられないっていうんなら離縁すればいいだけの話だ。
 僕の脳裏に女房を質に入れるという言葉が浮かぶ。
 きっとそういう価値観なんだろうな。
 この世界の男尊女卑を甘く見ていた。
 ラノベの主人公なら激怒して顔面パンチしているところだぞ。
 僕は主人公ではないのでアリシアたちの旦那さんを顔面パンチすることはないけれど。
 札束で奴隷商の顔面を叩くことで世の中へのうっ憤を晴らすとしよう。
 服の中に入れていた招き猫を首元から取り出し、中に入っている金貨の箱を出す。
 ガシャンという音がして床に箱がめり込む。

「ひぇっ」

 キラキラと眩い光を放つ金貨満載の箱からひと掴み、ふた掴みと金貨を取り出して店員のズボンのポケットに入れていく。 
 両側のポケットがいっぱいになったら尻のポケットだ。
 3つ目のポケットがいっぱいになる頃には重みで店員のズボンがずり落ちる。

「は、はひゅっ……」

 店員は呼吸困難で口をパクパクして白目を剥く。
 店員の頬をぺちぺちとはたき、意識を戻させる。

「この金貨で買えるだけ、奴隷をください」

「か、かしこまりっ」

 店員は敬礼して奴隷を集めに行った。
 やはり札束で誰かの顔面をぶん殴るのは気持ちがいい。


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