異世界に転生したけど幼馴染がどう考えても悪役令嬢

兎屋亀吉

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1.婚約破棄

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 楽しいパーティ、そのはずだった。
 実際女の子とも結構話せたし、何人かとはあと一息でダンスまでいけるところだった。
 グラスの割れる音とともに、会場中が静まりかえるまでは。

「何度でも言ってやる!!お前のような女とは、とてもではないが結婚などできない!!婚約は破棄だ!!」

 会場中に響き渡るような大きな声で、誰かが誰かに婚約破棄を言い渡したようだ。
 まったく、こんな楽しいパーティの席で不愉快な修羅場を繰り広げているのは誰だろうか。
 僕は話していた女の子に一言断りを入れ、騒動の中心地を野次馬しに向かう。
 人ゴミをかき分けて最前列に陣取り、騒動の中心を見てみればどうにもこの騒動の中心人物が僕の知り合いに見えてしまう。
 見間違いかもしれないと思って目を擦ってみても騒動の中心人物の顔が変わることはなかった。
 婚約破棄を言い渡されていたのは僕の幼馴染にしてユーレンシア公爵家の令嬢、マリア様だった。
 言い渡しているのはこの国の王の息子、第二王子のラミレス王子。
 いったいどうなっちゃってるんだろうか。





 僕、ルイ・ミルファネス・フォン・カールネストは日本からの転生者だ。
 長い名前なので少しだけ説明しよう。
 ルイ(ファーストネーム)ミルファネス(先祖がもらった名誉ある名前)フォン(貴族ですってこと)カールネスト(ファミリーネーム)。
 僕は地球で45年ほどくだらない人生を生き、あっという間に死んだと思ったらこの魔法やら魔物やらが存在しているファンタジーな世界に記憶を保持したまま転生してしまっていた。
 だが、こんなことはよくあることなんだと最近思う。
 なぜならばこの世界にはあちらこちらに転生者の影が見え隠れしている。
 歴史に名を刻んだような人物の中には、転生者だったのではないかと思えるような人物が大勢いるのだ。
 大体平均して50年に1人くらいは地球からこの世界に転生してきているのではないだろうか。
 だからこの世界にはマヨネーズもあればリバーシもある。
 それどころか、エスパニョールソースやポマニョーラソース、豆板醤にオイスターソース、6ニムトにカルカソンヌ、バックギャモンに野球盤、なんでもある。
 直近では、おそらく80年ほど前に死去した風俗王がなんとなく転生者っぽい。
 そしてあの変態的な発想はおそらく日本人だ。
 いつの時代から転移してきたのかはわからないけれど、日本人というのは魂の奥底に変態性が刻まれている民族だから仕方がない。
 かくいう僕も……。
 僕の性癖の話はともかくこの世界にはこうして頻繁に異世界からの転生者が出没し、世の中を少しだけかき回す世界なのだ。
 僕はその異世界人ガチャのようなもので選ばれ、こうして前世の記憶を保ったまま生まれてきたものと思われる。
 この世界における転生者のアドバンテージはおそらく前世の知識だけではない。
 この世界ではスキルと呼ばれる特殊技能が一人にひとつ与えられるのだが、その成長スピードがどうやら転生者は大幅に早いようなのだ。
 僕に与えられたスキルは錬金術という特に変わったものでもないありふれたものだったが、15歳となった今現在錬金術スキルのスキルレベルは20だ。
 この世界の人のスキルレベルはマックス10らしいのでどうやらマックスレベルも転生者は引き上げられているらしい。
 錬金術スキルは文字通りの生産系のスキルなのだが、このレベルになればもはや聖剣やエリクサーといった貴重なアイテムを量産することもできる。
 第二の人生は神様がくれたイージーモードのボーナスステージなのかもしれない。
 覚えていないけれど、もしかしたら神様のミスで早死にして全裸土下座とかされたかもしれないし。
 僕の生まれた家は王族を除いたら上から3番目に偉い伯爵位を持つ貴族で生まれもやけに良いし、顔面偏差値も前世が40くらいだとしたら今世は60くらいにまで上がっている。
 あいかわらずのモブ顔ではあるものの、平均よりは整ったモブ顔だと思う。
 ポジティブな言い方をするならばぱっとしないイケメン。
 それが今世の僕だ。
 スキルの力を使えばいままでの転生者のように歴史に名を残すこともできるだろうけれど、僕はこの世界でゆるりと生きようと決めた。
 せっかくの貴族だし、若い体だ。
 思い切り青春を謳歌して勝ち組になり、高等遊民として遊んで暮らそう。

「ルイ様、馬車のご用意ができました」

「ああ、今行くよ」

 今日もこれから通っている学園の創立記念パーティーだ。
 女の子とたくさん話し、あわよくばダンスなんか踊っちゃったりしたい。
 女の子と身体を密着させて踊るんだ、同年代の子なら絶対に僕のことを好きになるに違いない。
 あれ、ルイ君ってよく見るとかっこいい。
 あれ、ルイ君って意外といい身体してる。
 ぽっ、今日は帰りたくないの。
 みたいなね。
 貴族としてそろそろ僕も結婚を視野に入れなければならない年頃だ。
 今日は絶対可愛い子のハートを射止めて見せる。
 僕は綺麗に折ったポケットチーフに先日町で買った女を本気にさせるという謳い文句の香水をワンプッシュしみ込ませ胸ポケットに飾る。
 僕も本気なんだよ。
 



 で、こうなった。
 本当にどうなっちゃってるんだろうね。

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