異世界に行けるようになったので胡椒で成り上がる

兎屋亀吉

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改稿版

28.宝箱の中身

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 元おじいさんやおばあさんの奴隷たちに問い詰められながら魔法を解除する。
 この魔法は解除するときが大変なんだよな。
 こんな大きさの真空空間なんて台風の目みたいなものだ。
 周辺の気圧に影響を与えてしまう。
 俺は誰も住んでいない砂漠地域の上空に指定した座標にワームホールを繋げて、空気を入れる。
 中の気圧が安定したのを確認してから結界を解除した。
 砂漠では周辺の空から雲を集めて、今頃雨が降り出しているかもな。
 恵の雨は俺からのプレゼントだ。
 遠慮なく受け取って欲しい。

「それで、宝箱はどこでしょうかね」

「あれじゃないか?」

 アレックスが指差すのは壁の中。
 カマクラのような丸い形に壁がくりぬかれ、そこに金属でできた箱が鎮座していた。
 なるほど、あれがこの地竜が守っていた宝箱か。
 良い物が入っているといいけどな。
 できれば魔法具がいい。
 
「罠が無いか確認します」

「ああ、頼む」

 このダンジョンの難易度はCランク。
 最奥の宝箱に罠があったなんて話も聞いたことはないが、念のためだ。
 このダンジョンよりも高難易度のBやA、Sのダンジョンには最奥の宝箱に罠が仕掛けられていることがざらなのだというからなんとも鬼畜な話だ。
 やっとのことで守護者の魔物を倒して宝箱を開けたら、罠が発動して全滅した冒険者パーティというのも聞いたことがある。
 車の運転じゃあないが、ダンジョンこそだろう運転はダメなんだ。
 常にかもしれない運転でいなければ、命を危険に晒すことになる。
 念には念を入れて問題は無い。
 宝箱の周りを見回してワイヤーやボタンの類が無いか確認していくアレックス。
 少し離れた場所から石を投げて最終確認を済ませると、やっと宝箱の安全は確認された。

「開けますぜ」

「ああ」

 宝箱に鍵はかかっておらず、アレックスの手によって簡単に蓋が開いた。
 ギィと建て付けの悪そうな音が響く。
 油くらい差しておいてほしいな。
 宝箱の中にはネックレスが一つだけ。
 地竜が守っていた宝箱にたったこれだけかよと一瞬思ったが、これが魔法具であれば大当たりだ。
 ネックレスは全体的にピンクゴールドをしている。
 なんの金属なんだろうか。

「これ、オリハルコンじゃないですかね」

 女性は貴金属に詳しいのか、ニーナがそう口にした。
 オリハルコンといえば俺が知っているのは伝説上の金属だということだけだ。
 この世界には実在しているらしいが、いったいどれほどの価値がある金属なのか。

「オリハルコンなら、間違いなく魔法具ですよ。オリハルコンは魔法具にしか使われていない金属ですから」

「へー、そうなのか」

 やはり魔法具の可能性が高いようだ。
 ネックレスのトップの部分には大きな青い宝石が埋め込まれている。
 もしかしたら水属性の魔法具なのかな。
 安直すぎだろうか。

「たしかニーナ、水属性の魔力を持っていると言っていたな」

「え、ええ」

 魔力には各々属性があり、自身に適性のある属性の魔法しか使うことはできない。
 この中で水属性の魔法具に適性があるのはニーナだけだ。
 アルベルトは魔法を使えないほど魔力が弱いし、アレックスは風属性、クラークは地属性だ。
 とりあえずニーナに試してもらい、ダメだったらアレックスとクラークにも試してもらえばいいだろう。

「ちょっと魔法を使ってみてくれ」

「わかりました」

 ニーナはピンクゴールドに青い宝石の入ったネックレスを首にかけ、魔法を行使する。
 なにやら魔力を練っているのを感じる。
 魔力が右手に集まる。
 指に魔力を集中させ、空中に魔力で模様を描くニーナ。
 俺の魔法具であるタトゥの模様に似ている。
 やがて模様を描きおわると、空中にコップ1杯分くらいの水が生まれる。
 水は玉のような形になりふよふよと浮遊する。

「これが水属性の基本魔法であるウォーターボールです。飛ばせば戦闘の妨害くらいには使えますし、そのまま飲めば水分補給にも使えます」

「発動したということはそれは魔法具なんだな」

「ええ。かなりの変換効率ですから、それなりにいい魔法具だと思いますよ」

 人間は素の魔力では魔法を使うことができない。
 性質の違いみたいなものらしいが、人間の素の魔力は物理法則に直接干渉することはできないそうだ。
 それを魔法を使える性質の魔力に変換してくれるのが、魔法具というものなんだそうだ。
 俺のはまたちょっと違うみたいだけど。
 とにかくその変換効率の良し悪しで、魔法具の質が決まる。
 このネックレスはそこそこ品質の良い魔法具のようだ。

「よし、それはお前が持っていろ」

「え、いいんですか?」

「ああ、もともとここに来たのはお前たちに魔法具を与えるためだ。魔法具は売ってないから直接取りに来たんだよ。まだまだダンジョンを回ってどんどん魔法具を集めるから、効率的に集めるならお前たちには戦力アップしてもらわないとな」

「魔力持ち全員分集めるんですかい?」

「当然だ」

「そりゃ大変だ」

「まあそんなに急いではないから、のんびりやればいいだろ」

「それもそうですな」

 さて、次は別のダンジョンにでも行くか。
 それともアルベルトの修行のために人型モンスターの多いダンジョンにでも行こうか。
 いや、でも効率を考えたらこのダンジョンの守護者を周回して特大魔石と魔法具を集めまくるか。

「まあ、効率を考えたらやっぱり周回だろうな。2回目はもっと素早く狩れるだろうし」

「また地竜を狩るんですか?いつか地竜に祟られても知りませんよ」

「次は顔を見られる前に倒すさ。そうすれば地竜も誰を祟っていいのか分からないだろ」

 もう実験は済んだんだし、開幕ぶっぱで倒せばいい。
 楽しくなってきたな。

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