えぞのあやめ

とりみ ししょう

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一の段 あやめも知らぬ   約束(二)

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 また忍んで倉にやってきたとき、納屋でございます、と挨拶をしたのが、自分でもおかしかった。
 燭台の明かりは、渋く暗い。
 十四郎も面映ゆいのであろう。妙にいかめしい顔をして迎えてくれた。
 寺では出せないだろう肉や魚を重に詰めてもってきてやった。この地の人びとは、米や雑穀や野菜に乏しいためか、一年中、魚でなければ、平然と薬食い(肉食)ばかりをする。長く厳しい冬を生き抜くには、必要なのだろう。
 十四郎は思った通り、ひどくありがたがった。禅寺の戒律を破ることまた甚だしいが、この若者たちはそれには無頓着に近い。人目を忍べば、それでいいと思っている。思わざるをえないのだ。
「甘いものもございましてよ。いかが?」
「金平糖。」
と目を輝かせたのがおかしい。ものを食べさせてやっていると、一つか二つしかかわらぬ男が、以前にはよく感じたように、頼りない小さな弟のように思えてくる。ただそれも、ほのぼのとした気分だ。
(だが、うれしがってばかりもおれぬか。)
「お話をいたしたく存じます。」
 片づけると、容儀をただしていった。
「お聞かせください。」
 十四郎はそういうと、あやめをいきなり抱き寄せた。
 「あっ!……お話を……」
 頭が男の肩あたりにぴったりとつけられる。
「このままで……」
「そんなっ。こんな風では、できませぬ。お放しください。」
 十四郎は女の髪の匂いを嗅いだ。あやめの胸が柔らかくあたり、温かさが伝わってくる。
 あやめはあやめで、抱きしめられた感触に、静かに酔いかけている。
(落ち着く……こうしていると、とても落ち着く……)
 昂奮が高まっているのに、たしかに安らぐ。あるべきところに自分があるという感覚に襲われる。
「落ち着きまする。……なぜでございましょう、とても、やすらぐ。」
 そのくぐもった声に、十四郎は駆り立てられた。躰を巻いた手を女の頸に動かし、顔を仰向かせた。
 あやめは待っている。口を合わせて、吸った。
 最初から女の舌が入ってきた。男は受け止めて、こちらの舌をからめていった。
 しかし、男の手が着衣を剥ぎにかかったとき、あやめは強く抵抗した。
「北国の風、は、今宵はご勘弁くださいませ。」
「なぜ。」
「見られているやも、あっ、いけない、いけませぬ。見られているやもしれません。」
「明かりを消そう。」
 そういいながら、十四郎の力は強い。あやめは手で防ぐが、その手を片手で押さえられてしまうと、胸乳が簡単にむき出しにされてしまう。
(凄い、お力……)
 はみ出した乳首を、十四郎の唇が襲い、ついばんだ。
 あやめは思いもかけない強い衝撃に頭を後ろに振った。倒される。
 あやめは抵抗をあきらめた。剥されていく。男の目に躰の全てがさらされるのを、目をつぶって我慢する。
 十四郎の唇が、あやめの首筋に滑った。耳に達した、
 あやめの柔らかい耳朶がはさまれたとき、
「……!」
 あやめは一瞬で凍りつく。初めての感覚に息が止まった。
(これは、なに?)
 全身に鳥肌がたっていた。
「御曹司さま、ご覧になって。いま、こんなに。」
 唇のひと噛みで、自分の躰はこんなに反応したと報告した。あやめには、十四郎を喜ばせたい気持ちが強い。
 ただ、十四郎はそれで勇躍したかのようになってしまった。あやめの耳に舌を強く這わせ、息を吹きかける。
(あっ、そんなにしてはいけない……いけないっ。)
 あやめは慌てた。頭に快感の矢が突き刺さると同時に、自分でも驚くほどに下半身からあふれ始める。
「……耳は、もう、よろしうございます。……やめて。おやめになって。お願いでございますっ。」
 十四郎はあやめの制止の声が甘く濡れているのに気づいている。頭を押さえつけ、逃げようとする耳を執拗に舐めた。
 あやめは切迫している。下半身にむずがゆいものが走って、たまらない。十四郎の頭は自分の耳に吸い付いているが、片手は女の胸を探り当て、揉み始めている。
「……変になるぅ。変になりまするぅっ。」
 ついにあやめは、自分がいえるだけの言葉で告白した。このままでは、ただ濡れそぼるだけではすまないのがわかった。
 だが、十四郎は、初めて聴くあやめの高ぶった声に、かえって愉悦をおぼえたらしい。
「なればよい。」
(あっ、そんな?)
 あやめは声を漏らしながら、首を振ってしまう。若者の唇は耳をついばんだままだ。
「動いては、耳がちぎれてしまう。」
「お願いでございます。このままでは、変になりまするっ。」
「変になってくだされ。」
 若者は何をどう解釈したものか。やさしい耳への愛撫がつづくと、あやめは悲鳴をあげるしかない。
 それが起こってしまった。十四郎は驚いたようだが、小さく痙攣を続ける女の、羞恥に熱くなった躰を抱きしめた。

「ああ、申し上げましたのにっ。」
 あやめは恨みがましい目を向けざるを得ない。自分の躰の変調が恥ずかしくてならないし、それを喜んでいるかのようにみえる男も憎い。男は、かわいらしい、あなたがまるで赤ん坊のように、と呟いた。
「よいのだ。」
「よろしくは、ございませぬ。わたくしは、消え入りたい……」
「消えてはならぬ。」
 あやめはその言い方にふっと笑ったが、強く抱きしめられて、また余裕が消し飛ぶ。
 若者の唇が胸にとりつくと、身を揉んで喘ぎ続ける以外、何もできない。快感が頭を射抜き、息が切れると、固く閉じた目に光が明滅する。
 指が躰の中に侵入すると、つらい。それよりも浅いところで、触って貰いたい芽が立ち上がっていた。そこにはなかなか触れてくれない。それでも先ほどからたえまなく潤いつづけている。
(また……)
 あやめの感覚が、十四郎の動かす指にあわせて、高まってきた。
(もう、すぐに。埒をあけてほしい。)
 あやめははげしく動く男の指を抑えた。
「お願いでございます。もう、……上に、上に乗ってくださいませ。」
 男はそうしてくれるが、まだ姿勢をそのように固めない。頸筋に舌をあてる。
 あやめは上にのけぞったが、十四郎と目をあわせ、小さなはにかんだ声で、
「……入れて。入れてくださいませ。」
 直截に乞うた。驚いたような若者と目があう。顔を横にそらした。
「あやめ殿。」
 十四郎が、確かめるように呟く。あやめは視線を外したまま、うなずいた。
 十四郎が腰を動かし、肉を肉にあてがった。あやめの躰内に入っていく。
(やはり、苦しい。痛い。)
 あやめの胸が大きく震えた。けれども、息をつめて、耐える。
 抱き合うと、体重がかかり、深くつながった。
 あやめはさらに固く目をつぶる。眉間にまた深く皺が刻まれた。汗が噴き出した。
「苦しうござるか?」
 突き当たるところまで行って止まった十四郎が、心配げに聞く。
「いえ、いえっ。よろしうございます。」
 許されたと思ったのか、十四郎は動きはじめた。

「あやめ殿……」
「はいっ。……はいぃ。」
 あやめは懸命に答える。痛みに冴えた頭のなかでも、揺蕩いに似たものが、あやめにはじまっている。
 苦悶そのものの表情を浮かべながら、あやめは立てた膝を持ち上げた。懸命に男の腰に巻こうとする。十四郎は驚いた。あやめは涙を流して苦しむばかりのようなのに、男の早からぬ動きに合わせて、自分も動こうとする。
(痛い、つらい。じゃのに、こうしたい。……)
「十四郎さま、十四郎さま……」
 あやめはうわごとのように男の名を呼ぶ。
 冷たい汗が、あやめの上気しきった肌に落ちた。十四郎の動きがはやまる。
「あやめ殿。」よいか、と訊く。十四郎はもう、耐え難くなっている。
 あやめは、無言で何度も頷いた。男の腰にからめた足の力を最後に強めた。どこまでも密着していたい。
 そしてあやめは、躰のなかに広がった、遣る瀬の無い異物感に、また大きく喘いだ。

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