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異本 蠣崎新三郎の恋 その七
しおりを挟むこの時代、奥州の出来事が上方まで伝わるまでには間がある。ましてや冬に入れば、大船の便も途絶え、峠も雪に閉ざされて、人の往来も不自由になる。
「伊勢の者」たちの人離れした能力と、故地である伊勢ひいては京との間に築きあげていた能う限り迅速な連絡の網の目をもってしても、情報の流れは不活発にならざるを得なかった。
堺にも雪が降った。奥州者のりくには、いっそ物足りぬほどに思えるが、薄くは積もる。遠い北の浪岡は、とっくに雪に閉ざされているのだろう、とりくは思った。
あれから、なんの音沙汰もないまま、ひと月が過ぎてしまった。
(亡くなった、という報せもないのだ。)
そう自分に言い聞かせはするが、不安は尽きず、ときに叫びだしたいほどの絶望に襲われた。
仕事の荷物を背負ったまま、堀のそばまでつい足が向く。その分、何かの報せを持った、「伊勢の者」の伝手に早く出会える気がしたのだ。冬の風に、土手の草が揺れている。冷たい色の濁り水に目を落とすと、りくは思わず首を振って、店のある宿院のあたりの繁華な町中に、力のない足を運んだ。
「いせやのおりくさんかえ?」
突然、声をかけられたとき、身が硬直した。雑踏の中とはいえ、自分に何らかの意図を向けている相手が近寄るまで、気取れなかった。それが不覚だが、同業者に違いない。
(若旦那に何かあった……?)
りくは目が眩むような思いだが、低い声の女に頷く。渡り巫女の風体だ。細かく畳んだ紙片をすばやくこちらの袂に放り込むと、何もなかったかのように雑踏にまた飲まれていった。
りくは軒裏に駆け込むと、震える手で紙片を開く。
涙があふれだすのを、止めることができなかった。
(生きていた……! 若旦那は、生きていてくれた!)
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