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魔法より、剣が良い
しおりを挟む「良い子ね、撫でてあげたいけど汚ったないわ」
酔っ払いの血で、僕の体は血塗れだ。カバンの中が無事な事を祈るしかない。
「伏せろって言うからしたのに…」
「立ってたら二度と立ち上がれなくなってたわよ。行きましょ」
放ったらかしで大丈夫なのだろうか。そしてこの姿で銀座に入れるの?当たり前だが無理なので、銭湯に入って銀座は明日行く事となった。
「良かったぁ、カバンの中は血塗れじゃない」
「しっかり洗って来なさいねー」
番台越しにセーナが告げる。番台に座るおばさんも苦い顔してるよ。銅貨1枚の石鹸買うから許してください。
「うわっ!何だお前!?」「血塗れじゃねーか!」
「滔々と流るる水の精霊よっ、尾籠なる現世に顕現せしめっ、下卑たる不浄を隔絶せしめよっ、トイコス・ネローッ!」
「うべばっ!?ゲボッ、ばめろっ、温かいけどやめろーっ」
服を脱ぎ、浴室に入ったら魔法が飛んで来た。壁って侵入を阻む物だろ?直下から出してどうすんだ。おかげで全身掛け湯状態だよ。そして水の壁が温かい事を聞き付けた男達が魔法使いに寄って集ってお湯の壁で遊び始め、魔法使いの男は倒れた。魔力欠乏だって。
「珍しく賑やかだったわね。ケンカ?」
「お風呂で水魔法使うとね、お湯になるんだ」
「面白いわね。馬鹿馬鹿し過ぎて考えた事も無かったわ」
水場で使う水魔法とか、火のある所での火魔法が強くなる、なんて話はあるがお湯のある場所で使う水魔法が温まるなんて話は初めてだそうだ。
「あンたは魔法使えなそうたけど一応覚えておきなさい?ダンジョン入ったら基本的に土魔法以外は弱くなるから。特に風と光は弱まるわ」
「空気の流れが無いから?」
「あら、ご明察。回復魔法の効果が弱まるのよ。ダンジョンで怪我してもヒーラーを責めちゃダメよ?」
「怪我するのは自分のせいだよ」
「撫でてあげたいけど髪濡れてて気持ち悪そうね」
撫でなくて良いです。話をしながらセーナの店に帰る。ホリーさんにただいましたら、自室となる作業部屋に荷物を置いて、洗った服を干したら1階へと降りてった。
「仲良く銭湯行ったんだねぇ」
「セーナに汚されちゃってね」
「次からは脱いでおしよね」
確かに、血塗れになる前に服をしまっておけば洗うのは体とカバンで済む…かな?脱いでる時間が無いよな。
「ユカター、手伝いなさい。あンたの分も作ってんだからっ」
「はーい」
雛鳥じゃあるまいし、飯が来るのを待つだけなのは居候失格だ。セーナを手伝い、皿を出したり配膳したりした。
「あンた、料理は出来るの?」
「焼く、煮るは出来るよ?」
「で、見た目と味は?」
「魚は鱗毎焼いて皮を剥がして食べるんだ」
「野趣溢れてるわね。煮るのは?」
「切って煮て、柔らかくなったら塩付けて食べる」
「スープじゃ無いのね」
「お湯はお湯で飲むけどね」
「煮汁って言うのよ」
勿論家では普通にスープだったり平パンだったりしたのだけど、僕自身の料理じゃないから野外で作ったのを説明したんだ。内緒にしたけど実はお湯は捨ててる。川の水だからお湯にしても飲み過ぎは危険なんだ。
「あンた、どっちの神様?」
「僕ターフ」
「良かったわ一緒で」
ターフ教とダート教、なぜ食事前に聞かれたのかと言うと、食事の時の文言が違うのだ。村ではターフ教会しか無かったから、村人全員ターフ教だ。
豊かな実りのターフ教に、豊かな大地のダート教。絶対神ブが天から海に降り立った時、足元からは大地が産まれ、ブから放たれた光が種になり大地に撒かれ、芽吹いては枯れ、芽吹いては枯れを繰り返して豊かな大地となり、豊かな実りを付けるようになった…って神父さんが言ってた。だったら絶対神ブを信仰するのが普通だと思って聞いたら、絶対神ブは実りを奪い、大地に住み着く人が嫌いなんだって。だから実りや大地に感謝する事で絶対神を信仰するんだって。
料理してくれたセーナにも感謝だ。
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