【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる

文字の大きさ
144 / 385

視線の、先に

しおりを挟む


 僕の姿は、黄色い歓声を上げる女性達と似たような姿なのだろう。ロシェルが呆れて声にするが、僕の耳には入って来ない。銀の鎧に白マントだぞ?マントの内側にカイトシールドを背負ってるのが分かると、どうにかチラ見せしないものかと凝視してしまう。

「ハハッ、村男が町娘になってら」

 何とでも言え。憧れの頂上がそこに居るんだぞ?ああ、生まれ変わったら銀装備になりたい。ダメならマント、マントの縫い糸でも…、なんなら蹄鉄の釘でも良い。

「「「キャーーッ」」」

 悲鳴にも似た歓声が湧く。近衛騎士に見惚れてて気付かなかったがパレードの華が近くまで寄って来ていたようだ。王子様もさぞ素晴らしい鎧姿に違いない。僕は屋根のない馬車に目を向けた。

「あ、あれ?」

 王子様は金の装飾を施した白い服であった。金髪を靡かせて下々を見遣る姿は爽やかな中に圧があり、列成す女性達の視線を釘付けにしている。そして女性達の視線はもう1人にも飛んでいた。

「レイさん?」

 黄色い歓声が溢れ返る中、僕の声が聞こえるハズは無い。だが、目が合った。僕は咄嗟にハンドサインを送る。レイさんは手を振って…いや、アレもハンドサインだ。

「おめでとうございますっ!」

 思わず声を上げた。王子様がこちらを見遣る。あ、エリザベス様が隣に来た。頭を下げてる。

「感謝するっ」「ありがとう」

 そう言って、馬車は進んで行ってしまった。観客の歓声が止まらない。周りの女性が声を掛けて来る。王子様がお声掛け下さるなんてあンた何者!?だそうだ。もしかして僕、とても畏れ多い事しました?

「エリザベス様、僕処されるととろでした?」

「後でこっそりと」「お嬢様に感謝してくださいね」

 滑舌悪くなった僕にメイドさん達が耳打ちする。迂闊に路地裏に入れなくなったな。

「ふふっ、私驚わたくしきましたわ。兄に自慢出来ます。それより、そろそろお暇しましょう。私もわたくし何か摘みたいですし」

 お嬢様の一声で、僕達はその場を引き上げる。露店街で串焼き…とはならず、オープンテラスにパラソルの花が咲くオシャレなお店に連れて来られた。ガサツな2人と僕はこんな事がなければ一生入る事がない店だろう。

 食事のメインは小さく切った挟みパンとお茶。焼き菓子なんかもあるようでメイドさん達が色々頼んでくれている。パラソルの下の席は4人掛けで、ガサツな2人と僕の3人、3人衆とエリザベス様の4人で2席を使う。メイドさん達は立ってるそうな。エリザベス様も座れと言ったが、ここが仕事の見せ場だそうで断ってた。

「ユカタ、貴方には本当に驚かされたわ」

 料理が並び、絶対神に感謝を告げるとエリザベス様が食事も取らずに切り出した。

「そうですね。王子様が下々に返される等…、エリザベス様がおられたおかげでしょうか」

「いいえ。あの時かの方はユカタを見ておいででしてよ?まさかとは思うけど、面識おあり?」

 マキにサーブしてもらってるレイナはエリザベス様が居たからと予想したが、エリザベス様は否定する。確かに王子様は僕を見てた。周りにいた女性達も僕と同じ事言ってたけど。

「まさか。けどお妃様とは、ね」

「ユカタ。人様のお嫁さんには手ぇ出しちゃダメだかんね?」

「相手が悪いぜ?」「首が飛びますよ?」

 ロシェルの言葉にエヴィナとエリザベス様が乗って来る。王子様を人様と呼ぶのはだいぶ不敬だと思うが、貴族様方はそんな事より僕が新婚さんに色目使ってた方が気になる様子。色目は使ってないのでレイさんとの経緯いきさつを説明した。

「セーナ様と貴族の方って、レイチェル様の事だったのね」

 3人衆とロシェルには名を明かさずに話をしていたので、そこにいた人物がレイさんだと知ってレイナは感心した。

「輿入れの旅に同行していたとは、貴重な体験をしたのね」

 エリザベス様の関心はそこみたい。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です 再投稿に当たり、加筆修正しています

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -

花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。 魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。 十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。 俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。 モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

処理中です...