【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる

文字の大きさ
268 / 385

アルアインさんは、15馬力

しおりを挟む


「歓迎致します。心行くまでご逗留下さいませ」

 お屋敷では、執事長さんはそう言って迎えてくれた。皆湯に浸かり、遅い昼食を食べる。後はもう、夕飯の時間までゆっくりすべきだろう………。

「あ、薄皮。毛布も」

「オレ等タオルも買い直しだぜ?」

「ポーションは1つ、医療品も少し使いました」

 思い出して出た言葉にエヴィナとジュンが続く。とは言え死体を包んだ毛布を洗って使えとは言えないし、金品所か暴行まで受けた女性に金品を集るのも良くない。泣き寝入りだな。それよりも、無い物は調達せねばならん。

「ならさ、2人でくっ付いて寝る?」

 とか言う奴が出るからだ。

「夜警の時は使いまわせるけどね」

「ユカタのいけず~」

「けど薄皮は雨具でもあるし、医療品は買い足さないと困るね。明日はソレ等の買い物をして…乗り合いの予約もしなきゃ。当日でも大丈夫かなぁ」

「旦那様、よろしいでしょうか」

「旦那様?」

 旦那様。どうやら僕の事らしい。メイドさんが言うに、エリザベス様の馬車が家紋を取られて残されているそうな。本来なら中古として売られたりするそうだが、なぜか残してあると言う。それならなぜ男爵様の馬車を使う事になったのか?聞いたが出しやすかったから、と返って来た。

「使わないのでしたら頂きましょう?旦那様っ」

「馬はどうすんのさ。高いよ?」

「私、曳く?」

 そんな事をすれば人権団体が黙ってないぞ!?それにアルアインさんでも二頭引きは中々曳けまい。後1人は必要だ。

「アルアインさんは大事な人だ。馬じゃない。それに今8人でセーナが乗ったら9人だよ。あの馬車じゃ定員オーバーだよ」

「1人は馭者なので問題ありません」

「僕がやるのか…」

 補助席を付ければ9席あって、1人は馭者で外にいるので問題無しだとメイドさん。馬車を扱えるのは僕だけだろうし、防寒防雨対策もしっかりしなきゃ…。

「私も馬は扱えるから、一緒にやりましょ?」

「アルアインさぁん」

「私も馬には乗れます。教えてくれるわよね?旦那様?」

私だわたくしって乗れますわ。よろしいですわね?旦那様?」

「オレ戦車なら乗れっぜ?馬車と変わらんだろ。な?旦那ぁ」

 戦車とは、1人か2人乗りの荷車を付けた馬車で、その名の通り戦争で使われていた兵器だ。これは学園の図書室で知った。

「で、馬は?」

 ロシェルの言葉に皆固まる。馬は、高いのだ。

「馬なら御座いますよ」

 言葉の先には執事長さん。そりゃああるでしょうよ、貴族家だもの。問題はお値段なのですよ。

「当家の馬車をご入用であれば、馬もどうぞ所望なさって下さいませ」

「下さいませって言われても。僕達飛竜便に乗って魔獣帯を越えようと思ってるんだ」

「ではどちらもお貸し致しましょう。王都の本家にお返し頂ければ問題御座いません」

「ありがとう爺や。是非そうして頂戴」「ははっ」

 エリザベス様の一声で、馬車と馬を借りられる事になった。なってしまった、だな。更に夕飯の時間には僕達が欲しがっていた物が揃えられていた。薄皮に医療品にタオル。そして毛布。厚手のコートなんて2着もある。流石に頂けないので購入させてもらったよ。コート、高かった。

「ではな。旅の無事を」

「行ってらっしゃいませ」

「「「行ってらっしゃいませ」」」

 お父様と執事長、それにメイドさん達に見送られて馬車を出す。僕自身の慣らしも必要なので朝食はお弁当にしてもらい、早朝の内にお屋敷を出た。

「ユカタも食べて。はい、あ~ん」

「あ~「イチャイチャすんな!」」

 両手を手綱に取られて食べられないのだから仕方無いだろうが。馭者席の隣で味付け茹で肉挟み蒸しパンを持つアルアインさんは馬車の操作を習ってるハズなのだが、1つの蒸しパンを2人で食べてるので歯型が気になって仕方ない。僕の歯型を上書きしながら食べているのだが、獣人は皆そんな食べ方するのか?











しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です 再投稿に当たり、加筆修正しています

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -

花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。 魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。 十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。 俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。 モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

処理中です...