【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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僕より、詳しい

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 席順が変わり、僕とアルアインさんが馭者席へ、ライラとエリザベス様が戦車に乗り、客車に入ったハキが覗き穴から顔を出す。悪口を吐かれて馬上のエヴィナは悪態を返すが、早く走ると言う一点で言えばこの中で最速だろう。その事を伝えるとエヴィナは押し黙った。

「すっかり女の顔でやすね」

「みんなそうだろうがっ」

「旦那様、俺も女の顔、してる?」

「してるしてる」

 致してないけどな!

私、わたくし初めから女でしたわよ?」

「は?」

 先行した戦車に聞き返したが、今のはエリザベス様は風魔法だ。こちらからの声は届いてないだろう。

「初めて目にした時から、私のわたくし目は貴方様を追っておりましたの」

 初めてっていつだ?学園なのは確かだろうけどどこだろう?演習場か、資料室か…。

「ユカタ!」「右前方より敵。数は…12」「敵が来ますっ」

 僕が考え事してる所にロシェルとエリザベス様、そして隣に座ってたアルアインさんがほとんど同時に声を上げる。車内にいたハキが覗き窓を開けた。

「敵って聞こえたぞ」

「食える奴なら殺れるだけ殺るぞ。今夜は焼肉だ」

 馬車を止めるのはあまり良くないが、食料が増やせるなら仕方ない。エリザベス様から、敵は四足との追加情報が入る。停車して迎撃した。

 新鮮な肉が手に入り、夕飯は焼肉となった。周囲はジュンの土魔法の壁で覆われて安全性が増し、解体に気を使う事が減ってとても心に余裕が出来る。捌いてる最中にお零れ頂戴しに来る魔物も多かったのだ。

「ユカタ、残りは後にして先に食べてしまいましょ?」

 肉が焼けたようでアルアインさんが呼びに来た。もちろん断る理由は無い。食事の場に向かうと既に肉食達が肉に齧り付いていた。

「いっぱいあるんだから落ち着いて食べなよ」

「んまっ、んまっ」「はぐっ、んーっ」

 ウォリスと謎の獣が肉を食う。相変わらずのロシェルだな。

「あ、そうだ。アルアインさんって獣人には詳しい?」

「まあ、ヒト族より少しは」

「ハキの種族って何だろうと思ってね。当人も知らないみたいなんだ」

「おえんておらったあら」

「食いながら話すな。捨て子だったんだと」

「丸耳で、尾が太く先細りの短毛…」

 アルアインさんは特徴を聞くと、復唱して自らに問いながら記憶を辿る。

「混血だと流石に分からないけど、ルトラリアンの血は濃そうよね」

「んっぐ。それが俺の種族か?」

「多分だけど、ルトラリアンだと思うわ」

「へー」

 ハキはへーってして、再び肉を齧りだす。種族が知れた所で目の前の肉には敵わないのである。手先が器用で泳ぎが得意だとアルアインは続けたが、確かにスリだったし器用なのかも知れないな。水の少ないこんな場所では泳ぐなんて出来ないだろうけど、噴き出した水柱の中でも気にせず身体を洗ってたよな。アレも得意に入るんだろうか。

 夜更かしして解体したので、明けて昼間は馬車の中で休ませてもらった。お腹の辺りで何かがモゾモゾしているが、きっとハキが甘えてんだろ。落ち着かないので抱き留める。薄ら柔らかいからやっぱりハキだな。尻尾は…腹にでも巻いてるんだろう。

「ユカタちゃ~ん、そろそろ起きなさぁい?」

「……セーナだったのか」

「誰だと思ったのよ…ってあの子か」

 僕の腹に収まってたのはセーナだった。セーナの言うあの子はと言うと、覗き窓に首を突っ込み、代わり映えのない風景を楽しんでいた。

「もうお昼?」

「魔石の加工が終わったから背嚢に仕込もうと思ったのよ。あンた背負ったまま寝てたから」

 降ろすと車内を圧迫するので背負ったまま寝たんだった。寝てたのを座り直して隣にセーナを座らせると、背嚢を外して渡す。

「重っ、何入れてんのよあンた」

「昨日の皮とか、着替えとか。後武器」

 持ってなさいと突き返されて、中に魔石を仕込まれた。そして魔力が通されると、背嚢から重さが消えた。コレにより、この背嚢は国宝になったそうだ。








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