女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

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 主婦に聞いていた石臼は横倒しにした円柱を転がすものだったが、此奴は球体だ。5ハーン程もある球体が二つ、直径二十ハーン程のドーナツ型の凹みの中をぐるぐる周回しながら、行く先の障害を押し潰す仕組みになっている。

「動力は魔石だろ?手持ちで足りたのか」

「こないだもらったのを使った」

「球体はゴーレムだ。ぶつかる事もはみ出す事も無い」

「人が入ると止まる」

なんとまぁハイテクな機械だこと。試しにと、リームがアマグキを敷いて行くと、ゴロゴログシャグシャと障害物を押し潰して球体が周り出す。搾り出された汁は一箇所ある穴へ流れて行き、バケツを置くスペースに流れ出る。バケツ置いてないので垂れ流しだ!慌てて桶を置いた。

「勿体無いじゃないか…。後、少し水を掛けてしっかり糖分を出したら良いよ」

「心得た」

「カケル、お鍋作って。火も」

石臼の横には五つ並んだ竈があり、火が入り、鍋が置かれるのを待っている。浅めの寸胴と木篦を作り、竈の中には業務用火の鉄板を安置した。だがまだ火を付ける事は出来無い。

「濾過器も無いとな」

鍋に乗るサイズで漏斗を作り、雑木濾紙をセットして搾り汁を注ぐとカスの取れた泥水に変わり鍋へと入って行く。火を付けて、後は掻き混ぜながらドロドロになるのを待つだけだ。

「主様、こんな感じでどうか?」

リームは石臼の上から水が出るよう改修していた。桶に溜まる液体は薄くなり、しっかり搾取出来ているように見える。

「これ、浄化したらゴミ取れないかな?」

「ん、試してみる?」

ミズゲルの核で作った魔石にネーヴェが浄化を付与したら、絞り汁の注ぎ口にくっ付けて魔力を注ぐ。

「透明になった…」

「水?」

「アマグキを交換して搾ってみたらどうか」

「そうだな」

搾り切ったカスを取り除き、新たなアマグキを敷き詰める。絞り汁は鍋へ注ぎ、一度《洗浄》してセットする。

「準備出来たぞー」

「うぇ~い」

ゴロゴログシャグシャ球体が廻る。水を注がれ薄まった汁はやはり透明だった。

「糖分まで浄化したりはしないよな…」

舐めてみると、甘い汁だった。成功ではあるのだが、これでは白糖になってしまう。魔石の効果を調節し、緑が稍残る程度にまで効果を落とした。結果、濾過は必要だった。

「思わず白糖を作る技術が手に入ってしまったが、これは封印したいと思う」

「糖の実が使われなくなってしまうからだな?」

「そうだ。それに安い白糖なんて争いの元にしかならん」

濾過しただけの汁、透明になった汁、調節して濾過もした汁と、三種類の鍋を火に掛ける。俺達三人汗かき掻き混ぜ、結晶が煌めき始めた所で金属バットに流し込み、魔力を注いで冷やし固めた。

「おお、氷砂糖ではないか」

透明な絞り汁からは細かい粒の氷砂糖が採れた。氷砂糖と言うよりグラニュー糖だがキラキラ好きなリームは嬉しそうだ。
濾過だけの物は普通に固まり黒糖に、調節して濾過した物は茶色いグラニュー糖になった。

「取り敢えず、浄化は辞めよう」

糖蜜の処理が面倒なので、浄化の魔石は使わずに運用する事となった。

「ママ上のトコ、持ってこ」

「んー、なら明日にしようか。そろそろ夕飯の時間だよ」

集中していたせいか、辺りが暗くなりつつある事に気付かないでいたようだ。急いで片付け家に向かうと玄関前でバジャイが待ってたので連れ帰る。

「旦那様よ、アレは干し上がっていたぞ」

「ミーネもナマコは嫌いか」

「好き嫌いはせんが好んでは食わんな」

好んでは食わんが食った事は無いと言う。そもそもの話、トカゲやら大動物が獲れるのに、こんな小さなモン獲って食う必要が無いのだよな。
食堂の隅に追いやられたナマコは柔らかさの残る程度に固まって、小さくなっていた。兎達も見て見ぬ振りだ。そんなに嫌か?

「美味しいのに」

「味は良かったですわね」

味を知る妻二人は肯定的だ。夕飯を食べ終え、片付けの終わった厨房で俺はトカゲのタケリと干しナマコのマース汁を作った。





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