女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

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 泣く子をあやすのはメイドに任せ、何事かと駆け付けたブルランさんに睨まれたメイドが苦しみ藻掻く。

「ブッ、ブルラン様っ」「誤解でございますっ」

「…カケル様、詳細を」

眉間に皺寄せメイドを睨むブルランさんが問うて来る。仕方無い、許してやるか。

「ケーキを焼いて来たら嬉し泣きしちゃったんだよ」

「左様でございましたか。全く…」

「泣いたハークを肉食獣の目であやしていたのは否定せんがね」

「……お前達」

「「違いますっ」」

「陛下?」

「う、ぐすっ…大体、あってう、ヒック」

空気を読める王様だ。ソファーに座して、皿とケーキを並べると、ホイップと糖蜜漬けをトッピング。泣いたハークが涎を垂らす勢いで凝視する。メイドの《威圧》はまだ解けて無いようで、必死に首を曲げようとしていた。

「ブルランさんもどうかな?」

「ふぅ、頂きましょう」

「メイド達にもね」

「畏まりました」

「「あ、有難き幸せっ」」

ソファーに着くハークとブルランにメイドの淹れるお茶が供されて、皆は見合って固まった。

「食べなよ」

俺の言葉に反応出来無い。

「カ、カケル。食べるよ?」

「食べなよ。アルアも食べてるから遠慮しなくて良いぞ」

「爺やぁ」

「で、では、お毒味を…」

代表してブルランさんが最初に手を付けるようだ。そしてフォークで小さく切り離すと、口髭に付かぬようゆっくりと口に入れた。

「っ!?…………なんと……」

「爺や?爺やー」

「っ、どうぞ、お召し上がり下さい」

咀嚼音も無く、静かに放たれた言葉に、ハークはフォークを突き刺し応えた。

放心状態の少年王に、涙を流すメイドが二人。ブルランさんは半分程を王に献上すると目を閉じて黙して語らず、皆が静かに食事を終えた。

「また遊びに来るよ。用があるなら暗部にでも伝えてくれ」

返事が無いのでお暇するか。その後、ハークとアルアのセカンドハウスに駐屯するメイド達にお裾分けをして狂喜乱舞され、セカンドハウスではブチ姉妹に崇められ、カロ邸に着くのは夕方を過ぎていた。ブチ姉妹の発情スイッチを押してしまったのだから仕方が無い。

「お帰りなさいませ。タマリー様もようこそお越しくださいました」

帰宅した家主等を出迎えるアルネスとラビアンに、家主のカロは短く返す。

「ええ、ご苦労」「呼ばれたから来たが、何なんだい?」

「カケル様がいらしてますので詳しくはカケル様から。私達は聞かされておりませんので」

「先ずは食事と風呂が先だな」

「カケル様!?」「パパ?」

「久しぶり、仕事にかまけて会いに来れなかったパパを許しておくれ~」

「へ~」

「ほれ、抱っこしててやるから着替えておいで」

「しゃわんなー」

我が娘よ、何故パパのハグを拒むのか。あ、泣きそ。ガンダーは大人しく抱かれていると言うのに。

『ケーキ作って来たのに』

「!パパらいしゅきーっ」

良し。愛娘の心を悪魔の食べ物で釣り、ハグする権利を得た俺は、ラビアン達と寝室へ向かうカロ達を見送り、ゆっくりと食堂へ向かうのであった。

「パパはやくっ」

「ママ達が来て、ご飯食べたらねー」

食堂に着いて、名残惜しくも愛息子と愛娘を引き剥がされると二人は子供用椅子に安置され、食事の支度が進められる。ラビアン達が居なくなった隙を突いて急かして来るシンクだが、身重のメイド達が入室したのを境に子供に戻る。

『あーケーキ。ケーキなんて暫く聞かなかったから二度と口に出来無いと思ってたわ。ケーキッ、ケーキッ』

その代わり《念話》が飛んで来た。俺の《念話》は龍に筒抜けなのだからシンクのだって筒抜けな筈だ。あまり迂闊な事は口走らないで欲しい。

『今度は何味なの?教えてくんなきゃ二度と抱っこさせないわよ?泣いて暴れてやるんだから』

『ママが悲しむから止しなさい。ご飯食べたら出すからね』

『う、ソレを出されると困るけど、楽しみ過ぎて転生しそう~』

『それもママが悲しむだろ』

ケーキを契機に転生スキル生えたら洒落にならんぞ。




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