お前ら、何でスキルを1度しか習得しないんだ?ゴミスキルも回数次第で結構化けます

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スキルは買う物拾う物

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 こんにちは、ゲインです。今年で15歳になりました。冒険者に成るべく隣街に向かっている途中、目の前に居る3匹のハシリウサギに囲まれてとても困ってます。
 ハシリウサギは素早くて好戦的なウサギです。大きくもないし1匹の強さは大した事ないけれど、素早く後ろに回り込み、硬い頭を武器にして突進してくる知恵の回る奴です。
 何より戦いたく無いんです。可愛いので。

「ごめんね、縄張りだと知らなかったんだ。すぐ出てくから見逃してよ?ね?」

 草原を迂回して敷かれている街道をショートカットしようとした僕が悪いのだが、謝っても許してくれなそう。何より言葉を理解してなさそうです。このまま時間を無駄にしたくないし、お尻に頭突きされ続けるのは痛いので、仕方ないけどあれを使うしかない。

「これあげるから機嫌直しておくれ~」

 カバンからお昼の弁当にする予定だったソーサーを出して、小さくちぎってそっと投げてみる。ソーサーは生地を薄く伸ばしてお鍋に貼り付けて焼くパンで、麦等の穀物の粉と水と、少しの塩だけで作れる平民の味方な食べ物です。
 目の前に放り込まれたソーサーに鼻を近付けるハシリウサギ。けど警戒して食べてはくれないなー。1口サイズにちぎったのを先に食べて警戒を解いてもらいたいんだけど、その間にお尻に2発頭突きされて痛い。

「君達もこれあげるから。食べていいよ?」

 しゃがむ事で更に警戒心を解きたい。とは言え、しゃがむと顔や後頭部に頭突きが来るのでカバンで後頭部を守ります。草編みで多少厚いので何も無いよりはマシでしょう。
 体を小さく見せたのが良かったみたい。正面にいた子が拾って食べてくれました。僕のお尻を狙ってた子達も寄ってきてフンフンしています。これだけ見てると本当に可愛い生き物なんだけど、カテゴリー的には野獣なんだよね。
 この国の生き物にはいくつかのカテゴリーがあって、その1つが今目の前にいる野獣です。普段は大人しいけど近付くと攻撃してきます。他にも、人型で見つかるだけで殴りかかってくるモンスターや、モンスターを食べて体内に魔石を作ってしまった魔獣なんてのもいます。逆に、近寄っても攻撃してこなかったりすぐに逃げ出す野生生物もいます。

 3匹集まってモグモグ始めたので、ちぎったソーサーをぽいぽいっと追加してそっとその場を離れます。お弁当が減っちゃったけど、今の僕には戦う意味も力も無いからね。絡まれたのが野獣で良かったと思うしかありません。しゃがんだままで移動して、街道に戻ります。
 可愛いたかりに時間を取られてしまったので、ここからは出来るだけ走って向かいます。どこの街も変わらないと思うけど、夕方になると門が閉まって門前で野宿しなきゃいけないんだよね。野宿の準備なんてしてないし、強盗する奴もいるって言うから1人では絶対に門前で野宿はするなって両親と兄夫婦と道具屋のガリン爺さんと門番のミカさんに言われました。

 街道を街に向かって暫く走り、息を整えながら暫く早歩き。これを何度も繰り返しているうちに小さな門と見張り塔、柵の向こうに畑が見えてきました。木製の門と見張り塔には門番さんがいて、モンスターが群れを成してきた時とかに街の衛兵や冒険者に知らせる役目があるんだって。

「こんにちはー」

 門番には必ず挨拶しろってミカさんが言ってました。不審な奴程会話しないんだって。

「ん?何処から来たんだ?」

「隣村、ツデータ村長の村から来ました。ファルケの三男でゲインです」

「ああ、ファルケさんとこの。って事はこっちで働くのか?」

 父さんは街にも作物を卸してるし、名前は知られてるみたいだね。

「はい。冒険者になるつもりです」

「そうか。生きろよ?」

 変な言い回しだけど、死ぬなよ?よりは前を見てる感じがします。

「頑張ります!」

 ここの門は無料なので素通りです。手を振って別れ、再び走り出しました。左右の畑には麦が植わってて、緑色でスっと伸びた葉っぱが風に揺れるのを見ながら走るのと早足を繰り返し、夕方前に何とか正門に着きました。レンガ造りで凄く高い壁に、鉄と木で出来た分厚い門。どちらにもたくさんの傷と修理した後が見えて、モンスターの襲撃に何度も耐えてきたのがわかります。
 ここが今日から僕が冒険者として暮らす街、スタンリーガイです。

「ふう~」

 息を整え入門者の列に並びます。列には装備を着込んだ冒険者の人達や、外から来た商人の馬車が並んでいます。門はもう1つあって、そっちは貴族様と地元農民用。貴族様が通らない時だけ農民が使えます。
 ガチャガチャと音のする、目の前の金属鎧を見ながら待っていると、ようやく僕の番だ。

「どぉ~けぇ~い!どぉけどけぇ~い!」

 えらく抑揚のある声が後ろに並ぶ人達を散らしながらやってきた。けどあれは示威行為ですね。割り込みしたいなら直接門前に来たら良いのだから。抑揚のある人が僕の目の前で下から上へと何度も見てきます。そんなにまじまじ見ても平民がよく着てる布の服にズボンにサンダル。持ち物はカバンしか持ってないですよ?

「お前ぇ、どぉけぇ~つってんのがぁわっかんねぇのかぁ~?ごるぇ~!?」

「普通に通り過ぎたら良いと思いますよ?僕門が閉まる前に入れれば良いですし」

「おん前ぇ、こちらのお方がどなた様か知らねぇとはぁ言わせねぇぞごるぇ~!?」

 飛んできた唾を袖で拭きながら、後ろに控える三人の冒険者、多分この人達がこちらのお方のいずれかだと思うけど、こちらを見てニヤニヤ笑ってる。後ろにたくさんの荷物を背負った荷物持ちを引き連れてるし、依頼の帰りなんだろうな。

「こんにちは。街に来るのは10年振りなので分かりません。お名前を伺っても良いですか?」

「ふ、知らぬなら、聞かせてやろうこの俺は…、スタンリーガイ初のSランク冒険者にして超級魔法と超級剣技を極めし者、破壊王!ディレッツ・フラウバーだ!」

 真ん中の人がこちらのお方だったみたい。

「破壊王…。王様とお話できるなんで光栄です!」

「お、おう。…そうだな!光栄に思え。では先に行かせてもらうぞ?」

「どうぞどうぞ。けど王様。王様は貴族様なのですからあちらの門から通るべきでは?」

「そうだ!俺は貴族だ。だが同時に俺は冒険者だ。冒険者は貴族であっても緊急時以外はあちらを通る訳にはいかん!」

「王様でもですか?」

「王であってもだ!」

 マントをバサーっとなびかせて、顔パスで行ってしまった。あ、何か落ちた。

「王様、落し物です!」

「フラウバー様、スキルチップです」

 王様の後ろにいた2人のうちの1人が気付いて報告してくれますが、王様はチラ見すると「いらん」と言ってスタスタ行ってしまいました。荷物持ちの人達も拾う様子はなく、スキルチップはその場に置き去りにされてしまいました。

「おい、受付するなら早くしろ」

 門番さんが呼んでるので今度こそ僕の番ですね。挨拶して自己紹介したら、水晶玉を触って入街料を払います。水晶玉が赤くなると狭くて臭い部屋に叩き込まれるそうですが、透明のままでほっとしました。

「お前、ファルケの子だったのか」

 ここでも父さんの名前は知られてるみたい。

「はい。冒険者になりに来ました」

「だったらアレ、拾っとけ。スキルの有る無しで生き残る確率が上がるかも知れんからな。当人がいらんと言ったんだから拾ったもん勝ちだ」

「そうですね、ありがたく拾っておきます」

 5×3ドン程の小さな紙切れを拾い、門を抜けました。ちょっと厚めの紙で出来てて、裏表に黒いウサギの絵が描いてあります。チップと言うよりカードだと思うんだけど、チップと言うのだからチップなのです。

 これから向かう先の選択肢は2つ。冒険者ギルドか宿屋です。とは言え街には詳しくないので目の前にある冒険者ギルドから入る事にしました。王様達も入って行ったし他の冒険者も出入りしてるのであそこが冒険者ギルドのはずです。盾に剣と杖の看板が掲げられ、これで宿屋だったら詐欺ですよね。
 スイングドアを開けると、そこはまるで鎧とローブの見本市みたい。ローブは色数こそ少ないけど、その分装飾を凝らしてるみたいで紋様がキラキラ光ってる。鎧は素材も色も形も様々で見てて飽きないな。口減らしで家を出たけれど、これに憧れたから家を出てきたんだ。黒地に金の紋様が全体に施されたローブさんの後ろに並び、鎧等見ながら順番が来るのを待ちます。
 受付けのお姉さんが手際よく処理をして行き、やっと僕の番です。

「こんにちは。冒険者の登録に来ました」

「それはようこそ。ではこちらのカードと水晶玉2つに手を当てて下さい。文字は読めますか?」

 閉じっ放しの目でササッと道具を取り出すお姉さんは、きっとどこに何があるかを完璧に把握しているに違いない。これがプロフェッショナルの仕事と言うやつなのですね。

「はい、読めます。これで良いですか?」

 カードと水晶玉に両手を乗せるとポワーっと光ってそして消えた。これで良いみたい。カードに名前とF/-と言う文字が刻まれてる。

「カードは無くすと再発行に2万ヤン掛かりますので注意して下さいね。詳しくはこちらの冊子に明記されていますので必ず読んで覚えて下さい。良いですね?」

 お姉さんの笑顔に釣られて僕も笑顔になってしまう。

「はい。ありがとうございます」

「ふぅ、貴方良い子ね。頑張って働いて下さい。それと、話し方はもっと楽にしましょう。相手に見くびられたら仕事に支障が出ますよ」

「ありがとう、お姉さん」

「…まあ、頑張って下さい。それと、マーローネです」

 マーローネさんの閉じていた目がうっすらと開いて、すぐに閉じてしまった。綺麗な金色の瞳でした。

「わかった。マーローネさん、仕事は明日から始めるよ。安くて良さそうな宿を教えて欲しいんだけどどこかに無いかな?」

「ギルドを出て左に曲がったら最初の路地に入って下さい。50ハーン程先に、ベッドに剣と杖の看板がある宿がギルド直営店です」

 お礼を言ってその場を離れたら言われた通りに宿に向かいます。ギルドを出たら左に左。ベッドと剣と杖の看板を目と鼻の先にして男達に挟まれてしまいました。前に2人、後ろには3人。僕がお金持ちにでも見えるのでしょうか?正面の1人が薄ら笑いを浮かべて話しかけてきました。

「へっへっへ。わかってんだろ?」

「分かりませんよ?あ、違った。分からないよ?」

 言葉遣いはすぐに直せる物じゃないのでどんどん使っていくしかありません…使っていくしか、ないよな。

「あ?お前ぇ舐めてんのか?殺すぞ!?」

 急に現れて分かれと言われても困るし分からなくて殺されちゃ堪ったもんじゃない。

「身ぐるみ置いてきゃ命は取らねぇでやんよ」

 後ろにいる人は殺さない派かな?どっちにしても裸になったら生きていけないから結果的に死ぬ運命だ。

「とっとと脱いで失せやがれ。ヒヒヒ」

 正面のもう1人は…ホモなのかな?僕は女の子が好きなので遠慮したい。

「身ぐるみ剥いでお金を奪いたいなら、もっと持ってそうなのを選びなよ。僕、今日来たばかりで今夜の宿代しか持ってないんだよ?」

「スキルチップがあるだろが!」

「ああ、あれかー。そう言えば忘れてたな。これ1枚でいくらになるのさ」

「あのSランク野郎が持ってたんだ。10万20万じゃ効かねえはずだぜ。怪我しねぇうちにとっとと寄越しやがれ」

「そんな高価な物捨ておく訳無いと思うけどねー」

 カバンからスキルチップを取り出して正面にいる奴に投げてやった。元々拾い物だし、使い方も分からないから未練もない。

「馬鹿にすんじゃねぇ!!ゴミスキルじゃねーか!」

「勘違いしたお前達が間抜けだったんだよ。そんな価値ある物なら、僕があの時後ろにいた荷物運びだったら絶対拾ってるもん」

 干からびたカニみたいに頭まで真っ赤になっちゃったよ。折角くれてやったスキルチップを地面に叩き付けて悔しがってる。

「クソガキが!ぶっ殺してやる!!」

 5人揃ってナイフを出してきた。ギルドの裏手で殺しとか、自分達の行末が見えてないんだろうな。街でゴロツキに絡まれた時の対処法も門番のミカさんに聞いている。僕は大きく息を吸った。

「火ーーー事だーーー!!火事だぞーーーっ!!」

 ありもしない火事を捏造しながら、大声に怯んだ前の2人を躱して宿屋前に陣取った。目の前は宿屋、右隣に冒険者ギルド。脇道は無く、逃げ出せば大通り。声を聞き付けた冒険者とギルド職員が大通りへの出口を塞ぎ、宿屋からは冒険者がわらわら飛び出して来た。冒険者達は状況を見てすぐに強盗と判断し、ナイフを持った馬鹿5人は抵抗も出来ずに縛り上げられる事になった。

「ゲインさん、無事でしたか」

 さっき受付けしてくれたマーローネさんが駆け付けてくれた。目を閉じたまま走って来たよ。

「被害は拾ったスキルチップをまた捨てられた程度だよ。それに、あんなのより魔獣化した大人のクマ3頭に追い掛けられた時の方がよっぽど怖かったからね」

「…それは、本当に無事で何よりですね」

 投げ捨てられたスキルチップを再び拾い上げる。土の汚れを手で払い、マーローネさんにコレの値段を聞いてみた。買取価格5ヤンだって。鉄貨5枚じゃ売る気も失せるよね。使い方を教えて貰い、その場でスキルを取得する事にした。
 スキルチップの使い方はとても簡単で、スキルチップを破ると煙が出てきて破いた人の中に入って行くんだって。後はステータスを念じると手に入れたスキルを確認出来るそうだ。
 目を瞑り、ステータスを念じると体力等の数値の下にスキル欄が発生してた。集中すると内容もわかるんだって。

スキル : 走る

走る : 早く移動する為のスキル。速度が極僅かに増し、体力の消耗を極僅かに抑える。

「極僅かに早く走れるみたい」

「極僅かが命に関わる場合もあります。色々集めてみるのが良いですよ。それではそろそろ…」

「ありがとうマーローネさん、また明日」

 ギルド直営の宿に入ると、カウンターにいるおばさんに声をかけた。

「こんにちは、さっきは騒がしくしてごめんなさい。1泊だけど部屋はあるかな?」

「火事と聞いてびっくりしたけどあンたが無事で良かったよ。1泊500ヤンで先払い。食事は別に500ヤンでこっちは食堂で先払いだ。水は2杯目からは10ヤン取るよ?体を拭くお湯は500ヤンだが、同じ500ヤン払うなら公共浴場に行った方が気持ちがいいね。武器や服を洗うなら左隣に井戸があるからそこでおし。体は自信があるならやりな」

「色々ありがとう。1泊頼むよ」

 500ヤンを支払って、残りは660ヤン。お風呂は入れないや。絵の描かれた木の板を受け取り階段へ向かうと、壁に各階どの絵があるか書いてある。僕が受け取った花びらがいっぱいの花の絵は3階だな。階段を上がって部屋へと向かった。
 階段を上がってすぐ隣の部屋に、木の板と同じ絵が描いてある。この板は鍵になっていて、扉の横の鍵穴に差し込むと引き戸が開くようになっているんだ。で、内側から引き抜くとまた鍵が閉まると。夕飯の時間まで少し時間はあるけれど、外に行く程の時間はないのでカバンに入れっ放しだった冊子を読んで過ごす事にした。
 冊子にはランクの事や依頼の受け方、報告や提出の仕方、禁則事項や罰則なんてのが書かれてる。文字は読み書き出来るけど、読んでるうちに眠くなり、気付いたら朝まで寝ちゃってた。

 寝過ごして、夕飯を食べ損ねた早朝。まだ明けきらないのに廊下からガッチャガッチャと階段を降りて行く音がする。以前、村に来た冒険者に聞いた事がある。依頼は早い者勝ちだから、早起きして割の良い仕事を探すんだと。とは言え僕はまだ早起きする程良い仕事は取れない。F/-だから草毟りやお使い、薬草採取程度の依頼しかないんだ、仕方ないね。
 夕飯を食べ損ねたおかげで朝食にありつけた。具沢山スープにソーサー3枚と無料水で500ヤン。ソーサー2枚はお昼にするのでカバンに入れておく。スープはカバンに入れられないのでお腹の中だ。豆や雑穀がいっぱい入ってて食べ慣れた味がした。これなら腹持ちも良さそうだ。お椀に着いてるのもソーサーで拭って食べて、水を飲んだらご馳走さま。食器を纏めて持って行くと、置きっ放しで良いんだって。お礼を言って宿を出た。

 宿を出て、ほぼ文無し。宿代と、3食と、お風呂に入って1日2500ヤン稼がなきゃいけない。雨が降ると仕事が出来ないので余裕分も出来るだけ稼ぎたいぞ。そんな訳で、右右右でギルドに到着。依頼が貼ってある掲示板に直行した。
 掲示板前には他に3人いたので僕も混ぜてもらう。Fランクの薬草採取は常設依頼。それ以外のお使い等の街中でやる依頼はこちらに貼られるそうだ。ゆっくり来たので何も無い。薬草採取はギルドに寄る必要はないのだけど、初めての薬草採取なので受付に向かうよ。この依頼は、冊子を読まないと損なのだ、と言う依頼だったりするのだ。5人くらい並んでるマーローネさんの列に並び、暫く待つと僕の番になった。

「おはようございます。今日は初めての薬草採取をする予定だよ」

「おはようございます。ちゃんと冊子を読んだみたいですね。ではこちらを使って下さい」

 マーローネさんに手渡されたそれは、木で作られたナイフ、そして布のカバンだ。ナイフは採取用で殺傷力は皆無だが、ないよりはきっとマシだと思う。布のカバンが貰えるのはかなりお得だ。値段的には今使ってる草編みのカバンよりお高いと思われる。

「モンスター等に見つかったら一目散に逃げて下さいね。カバンを提供した意味がありませんから」

 閉じた目でにこやかに笑っているけど、カバン代が浮くくらい採取しろって事だね。目標2500ヤン、頑張って取るぞ!布のカバンを畳んでナイフと一緒に仕舞ったら、行ってきますしてギルドを出た。
 街の出入りはギルド証を見せるとタダになるそうで、門番さんに挨拶しながら見せるとすんなり出してくれた。薬草は畑の先に生えてるやつの方が薬効が高いので、柵のある門まで走って移動する。昨日手に入れたスキルの効果もみたいしね。

 いつものように、走るのと早歩きを交互に使って木の門に到着した。

「ふう」

「お前、昨日のファルケさんとこの」

「ゲインです。おはようございます」

 昨日の門番さんは今日も門番やってます…って言葉が戻っちゃった。

「もしかして家に帰るのか?」

「まさか。これから採取に行く予定だよ」

「言葉遣いは冒険者ってか」

「受付の人にそうしろって言われてるから。なかなか慣れないけど」

「女か?」

「女だね」

「美人か?」

「綺麗だと思いま…思う。目は閉じてるけど」

「ちょっと冒険者になって「馬鹿もんが」」

 先輩門番に怒られてる。僕は静かに走って逃げた。

 ここからは街道を逸れて草原に入る。草を食べる野獣や野生生物がいないので草丈が高く、僕の胸の高さに届く程、伸び伸び密に生えている。この中から薬草を探すのだけど、僕は村生まれ村育ちなのでこの作業は慣れっこだ。畑仕事が終わった子供達のいくつかある遊びの1つだったのさ。
 しゃがみ込み、両手を合わせて草の付け根に沿うように伸ばし、腕を広げて草を掻き分ける。でもって左右を確認して薬草を探す。無かったら分けた草に乗っかって、掻き分け確認、掻き分け確認で進んで行く。
 あった。干して煎じて飲んだりポーションに加工される薬草、カツリョクソウだ。下の葉2枚を残して摘んでやれば脇芽が出てまた摘める丈夫な草で、ほんのり甘くて子供達のおやつだったりする。お金になるので堂々とは食べられないけどね。木のナイフで摘み取って、布のカバンに仕舞って肩にかける。近くにまだまだあるはず…、と言う経験則の通り、掻き分けるごとに2~3株見つかる。1本いくらか分からないけど幸先は良さそうだ。森の入口まで掻き分けて38本、少しズレて折り返し更に51本。もう1往復して81本。キリよくする為30本取りに行き、計200本。10本ずつ細長い草で纏めて20束になった。
 カツリョクソウの他にも、生のまますり潰して傷に塗る薬草、ウラアカキズフサギが30本。干して煎じて飲むと熱が下がる薬草、ネツザマシが30本。それぞれキリがよくなるように取れた。美味しくないけどこれらもポーションの材料だ。布のカバンと草編みカバンにたっぷり入って昼ご飯のソーサーが追い出されてしまった。もう取れないのでソーサー食べながら帰る。

「お、ゲインだっけか、もう帰りか?」

 さっき先輩に起こられてた門番さんが話し掛けてくれた。

「こんにちは、いっぱい取れたからもう帰るよ」

「流石村育ちだな」

「貴重なおやつとお小遣いだからね」

「今日からは生活費だ。しっかり稼げよ?」

「はーい。じゃあまた!」

 走って歩いて街に帰る。午後とは言えまだ早い時間なので街道を行く人は疎ら。正門も列がなくて直ぐに入れた。ギルドの中もガラガラで、マーローネさんがこっち向いて目を閉じて笑っている。軽く会釈して買取カウンターに向かう。

「いらっしゃいませ。買い取りですね?」

 パンパンに膨れたカバンを2つも下げてここに来るのは買取希望の人だけだよね。カバン2つをカウンターに乗せて、中身の買い取りお願いします。

「こんにちは。常設依頼のと、ポーションの材料になる薬草を取ってきたよ」

「確認させて頂きますね」

 カバンの中から中身を取り出すと、メガネをかけて、1本ずつ確認してくお姉さん。

「随分慣れてますね。どれもキレイに摘めてます」

「村育ちだからね」

「なるほど。薬効も充分です。ウラアカは塗り薬としての需要もあるので、あればあるだけ助かります。ネツザマシってこの近くに生えてました?」

「僕としては、この3つはどこにでも生えてるイメージなんだけど…?」

「薬品ギルドではいつもツデータ村長の村から買ってるんですよ」

「僕そこの子だから」

「へぇ。なら貴方の取ったネツザマシを買っていたかも知れませんね」

「あ、僕ゲインだよ」

「ゲインさんですね。私はメロロアです。今後ともよろしくお願いしますね。買取金額はこのようになっております。お売り頂けますか?」

 黒板にチョークで品目と数と金額、最後に総額が書かれてる。口で言わないのは防犯上のためだろう。

カツリョクソウ 品質高 200本×80ヤン 16000ヤン
ウラアカ 品質高 30本×120ヤン 3600ヤン
ネツザマシ 品質高 30本×100ヤン 3000ヤン
総額 19600ヤン

 1本10ヤンだと思ってたのに8倍もの値がついてびっくりだ。他のもだけど、子供相手に相当ぼったくってたんだな父さん…。けど、食べたら怒られるのも分かる気がする。

「大丈夫…ですけど急にお金持ちになると不安だね」

「すぐ使う予定がないならギルド証に預けておけますよ?ギルドと提携してるお店ならギルド証で買い物出来ますし」

「そう言えば冊子にも書いてあった気がするよ」

「何度も読んで覚えると良いですね」

「そうする。じゃあ3000ヤンを現金で、残りはギルド証でお願い」

「承りました。隣の宿屋ならギルド証で支払えますので試しに使って見て下さい」

「分かった。ありがとう」

 お金とギルド証、そしてカバンを下げて買取カウンターを離れると、にこりとしたマーローネさんと目が合った。目は閉じてるけどそんな気がした。

「こんにちは、ゲインさん。初めての依頼は上手くいったようですね」

「さっきはどうも。お陰様でお風呂に入れるよ」

「ゲインさんはお風呂好きなのですね」

「好きと言うより習慣だね、土まみれになるから。もちろん村にいた頃は川だったけど、ここだと川まで遠いし、野獣とか出るからね」

「少し遠いですが裏門近くの公共浴場がおすすめですよ?値段も変わりませんのでお試し下さい」

「散策がてら行ってみるよ。それじゃあまた」

 ギルドを出たら取り敢えず宿にチェックインだけして外に出た。そしてお店をチラ見しながら大通りを真っ直ぐ進んでく。大通りだから武器屋も道具屋もちょっと敷居が高いかな。中古で良さそうなのが売ってる店を探さなきゃ討伐も出来ないや。
 大通りから、更に開けた場所に出た。丸く開けてて露店がたくさん並んでる。きっとここが街の中心なんだろうな。人も多くて村育ちにはキツいけど、掘り出し物があるかも知れない。タオルとかパンツとか。けど中古のパンツは嫌だなぁ…。
 ぐるりと1周して、中古の服屋と武器防具屋を見つける事が出来た。けど今から風呂に行くのに武器や防具はかさばるので却下。洗い替え出来るように服が欲しい。後はタオルだね。服屋にて、上下とパンツとタオルを見繕ってもらうと、上下とパンツを1着ずつと、タオルが2枚で6000ヤン。ギルド証が使えないのでパンツ1枚とタオル2枚を2000ヤンで買った。それでも風呂無し1日分だ。心が折れそう。
 残金1160ヤン。風呂屋に向かおうとすると、露店の中に不思議な店を見つけた。始めはアクセサリー屋だと思ってスルーしてたのだけど、どうやら違ったみたいでスキルチップを売る店だった。

「こんにちは。これスキルチップだね?」

「買わないなら失せな」

「値段次第だよ。どんなのがあるの?」

 目付きの悪い男の人だが露店を広げてるなら登録とかはちゃんとしてるのだろう。効果と値段を聞くと、安い物で1枚200ヤンから、高いのは1万ヤンを超えるそうな。効果は色々。絵を見て想像するしかないと言う。

「こっちの塊は何?」

「ソイツはゴミだ。効果がしょぼい上に数ばかりありやがる。10ヤンで投げ売りしてんだ」

 それでもギルド買い取りの2倍なのね。見せてもらうと確かに被ってる。昨日使ったウサギの絵柄もちゃんとあったよ。70枚もあるのに3種類、ウサギとカメと石?しかない。

「買えよ」

「半額ならこの束全部買っても良いよ」

「200ヤンのを1枚買ったらその値段で売ってやる」

「悪くないね。じゃあ、そのハチの絵のやつで」

「550ヤンだ。まいど」

 残金610ヤン。71枚をカバンに放り込み、寄り道しないで風呂屋を目指した。目指したけど分からなかったので、巡回してる衛兵さんに場所を聞いて何とかたどり着く事が出来た。お湯に浸かると気持ちがいいね。おすすめされた意味は分からなかったけど、川よりはずっと良い。

 残金110ヤンで宿に着いた。銅貨1枚と鉄貨10枚じゃ何も買えないよ。宿代も食事もギルド証で出来てとても便利。けど残高が確認出来ないので使い過ぎが怖いな。
 ご飯を食べて部屋に戻り、ベッドに座って衝動買いしたスキルチップを使ってみる。先ずは200ヤンもしたハチのスキルから。厚紙を破ると煙が体に入ってく…。

スキル : 刺突

刺突 : 刺突武器を効率よく扱う為のスキル。攻撃速度と命中率が僅かに増し、無駄な動きを僅かに抑える。

 表示のされ方は走ると一緒だな。木のナイフも刺突出来るのでちょっと突いてみようか。ベッドから立ち上がり、ナイフを構えて目の前の空気を突いてみる。

スッ スッ

 なるほどわからん。けど何もないよりマシ…なはず。次はカメにしてみよう。ビリッとしてモコモコをすーはー。

スキル : 硬化

硬化 : 攻撃を受ける為のスキル。装備と肉体の防御力が極僅かに増し、痛みを極僅かに抑える。

 これは試したくないな。痛みが抑えられても怪我はするんだし。痛くても我慢して逃げられる…と思えば有用かな?残るは石?黒くて角ばった多角形、そんな感じのチップだ。

スキル : 投擲

投擲 : 投擲武器を効率よく扱う為のスキル。投擲速度と命中率が極僅かに増し、無駄な動きを極僅かに抑える。

 表示のされ方がハチとそっくりだ。効果は低いけど使えそうではあるな。ナイフを投げたら部屋を傷付けそうなのでこれも試せない。明日にでも石を拾って投げてみよう。

 ウサギ22枚、カメ34枚、石12枚残っちゃった。ギルドに売ってもまたあの露天商の所に行くんだろうなぁ。カバンに戻して明日考える事にした。



現在のステータス

名前 ゲイン 15歳
ランク F/-
HP 100% MP 100%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D

所持スキル
走る
刺突
硬化
投擲

所持品
布の服E
布のズボンE
パンツE
サンダルE

草編みカバンE
布カバンE

木のナイフE

冒険者ギルド証 0→18800ヤン
財布 銅貨1
首掛け皮袋 鉄貨10
 
冊子
中古タオル
中古タオル(使用済み)
中古パンツ

スキルチップ
ハチ 0/1
ウサギ 22/23
カメ 34/35
石 12/13
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