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第16章「姫騎士の涙──誇りの裏にある弱さ」
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魔王城への旅が始まって一週間が経った。
五人は険しい山道を進んでいた。
「はあ……疲れた……」
セラは息を切らしていた。
「この山、いつ終わるの……?」
「もう少しです」
アリシアは地図を確認した。
「あと数時間で、山を越えられるはずです」
「頑張ろう、セラ」
蓮が励ました。
「うん……」
セラは再び歩き始めた。
夕方、五人は山の中腹で野営することにした。
「今日はここで休もう」
健太が提案した。
「ああ、賛成」
蓮も頷いた。
五人はテントを張り、焚き火を起こした。
夕食後、アリシアは一人、焚き火の前に座っていた。
炎を見つめながら、何かを考え込んでいる。
「アリシア、大丈夫?」
蓮が声をかけた。
「あ、神谷さん……」
アリシアは少し驚いた様子だった。
「ええ、大丈夫です」
「何か考え事?」
「……少し」
アリシアは炎を見つめた。
「父のことを、思い出していました」
「お父さん……」
蓮は隣に座った。
「騎士団長だったんだよね」
「ええ」
アリシアは静かに頷いた。
「父は、とても立派な人でした」
アリシアは、ゆっくりと語り始めた。
「父は、王国騎士団の団長として、多くの人々を守ってきました」
「常に正義を貫き、弱き者の味方でした」
アリシアの目に、懐かしさが滲む。
「私は、そんな父を尊敬していました」
「父のような騎士になりたいと、幼い頃から思っていました」
「……」
蓮は静かに聞いていた。
「でも、三年前……」
アリシアの声が震えた。
「父は、魔王軍との戦いで命を落としました」
「……」
「私は、父の最後を看取ることができませんでした」
アリシアは拳を握りしめた。
「戦場から遠く離れた場所にいて……父が死んだという知らせを受けただけでした」
「アリシア……」
「父の遺体を見た時……私は、何も言えませんでした」
アリシアの目から、涙が溢れた。
「ただ……泣くことしかできませんでした」
「……」
「それから、私は誓ったんです」
アリシアは涙を拭った。
「父の遺志を継ぎ、立派な騎士になろうと」
「誰も泣かせない、強い騎士になろうと」
「だから……」
アリシアは蓮を見た。
「私は、弱さを見せてはいけないと思っていました」
「常に強くあらねばならないと」
「でも……」
アリシアの声が震えた。
「最近、気づいたんです」
「私、本当は……とても弱いんだって」
アリシアは顔を伏せた。
「神谷さんと出会ってから、私は変わりました」
「仲間と共に戦うことの素晴らしさを知りました」
「支え合うことの大切さを学びました」
「でも、同時に……」
アリシアは蓮を見つめた。
「あなたに頼りすぎている自分に気づいたんです」
「え……?」
「あなたの支援がなければ、私は戦えない」
アリシアは自嘲気味に笑った。
「これって、弱さですよね」
「そんなことない」
蓮は即座に答えた。
「仲間を頼ることは、弱さじゃない」
「でも……」
「アリシアは、俺なんかよりずっと強い」
蓮は真剣な目で言った。
「剣の腕も、心の強さも」
「……」
「俺は、アリシアを尊敬してる」
蓮は優しく微笑んだ。
「父親を失っても、その意志を継いで騎士になった」
「それって、とても強いことだと思う」
「神谷さん……」
アリシアの目から、再び涙が溢れた。
だが、今度は悲しい涙ではなかった。
「ありがとう……ございます……」
アリシアは蓮の胸に顔を埋めた。
そして、声を上げて泣いた。
「うっ……うう……」
「いいよ、泣いて」
蓮はアリシアの背中を優しく撫でた。
「我慢しなくていい」
「……はい……」
アリシアは、長い間抑えていた感情を解放した。
父への想い。
騎士としてのプレッシャー。
弱さへの恐怖。
全てが、涙となって溢れ出た。
しばらくして、アリシアは泣き止んだ。
「すみません……取り乱してしまって……」
「気にしないで」
蓮は笑顔で答えた。
「みんな、弱い部分があるから」
「……そうですね」
アリシアは小さく微笑んだ。
「神谷さん、もう一つ聞いてもいいですか?」
「うん」
「私……あなたのことが好きです」
アリシアは顔を赤らめた。
「でも、リリアさんもセラさんも、あなたのことが好きで……」
「……」
「私、どうすればいいのかわからないんです」
アリシアは困惑した表情を浮かべた。
「一人の人を、三人で好きになるなんて……」
「……」
蓮は答えに窮した。
正直、自分でもどうすればいいのかわからない。
「ごめん、俺も……まだ答えが出せない」
「いいんです」
アリシアは微笑んだ。
「焦らないでください」
「でも……」
「今は、仲間として一緒にいられるだけで幸せです」
アリシアは空を見上げた。
「いつか、あなたの答えが出る日が来るでしょう」
「その時まで、私は待ちます」
「アリシア……」
「だから……」
アリシアは蓮を見た。
「これからも、よろしくお願いします」
「うん」
蓮は笑顔で答えた。
「こちらこそ」
二人は静かに微笑み合った。
その時、テントからリリアが出てきた。
「あら、二人で何を話してるの?」
「あ、リリア……」
アリシアは少し慌てた。
「別に、何でもないわ」
リリアは疑わしそうな目で二人を見た。
「……そう」
リリアは焚き火の前に座った。
「ねえ、神谷」
「うん?」
「あなた、アリシアと何を話してたの?」
リリアは少し不機嫌そうだった。
「え、えっと……」
蓮は困惑した。
「アリシアの過去とか……」
「過去?」
リリアはアリシアを見た。
「あなた、神谷に何を話したの?」
「……父のことを」
アリシアは正直に答えた。
「そう」
リリアは少し表情を和らげた。
「大切な話だったのね」
「ええ」
「……」
リリアは少し考え込んだ。
「ねえ、アリシア」
「はい?」
「私たち、ライバルよね」
リリアは真剣な目で言った。
「神谷を巡る」
「……はい」
アリシアも頷いた。
「でも」
リリアは微笑んだ。
「それでも、私たちは仲間よ」
「リリアさん……」
「だから、お互い正々堂々と戦いましょう」
リリアは手を差し出した。
「……はい」
アリシアはリリアの手を取った。
「よろしくお願いします」
二人は笑顔で握手した。
「何の話?」
セラがテントから出てきた。
「あたしも混ぜて~」
「セラ……」
「ねえねえ、何で二人で握手してるの?」
セラは不思議そうに尋ねた。
「ライバル宣言よ」
リリアが答えた。
「ライバル?」
「ええ。神谷を巡るライバル」
「あ、それならあたしも!」
セラは二人の手に自分の手を重ねた。
「あたしも、蓮のこと好きだもん!」
「……もう」
リリアは呆れたように笑った。
「三人でライバルってことね」
「ええ」
アリシアも微笑んだ。
「でも、仲間でもあります」
「そうだよ!」
セラは無邪気に笑った。
「あたしたち、家族みたいなものだもん」
三人は笑い合った。
「お前ら、仲いいな」
健太がテントから出てきた。
「ハーレムかよ」
「ハーレムって……」
蓮は顔を赤らめた。
「そんなんじゃないよ」
「まあ、お前が羨ましいよ」
健太は肩をすくめた。
「俺なんか、一人だからな」
「……」
蓮は健太を見た。
少し寂しそうに見えた。
「健太も、俺たちの仲間だよ」
「え?」
「一緒に旅してるんだから」
蓮は笑顔で言った。
「仲間だろ?」
「……」
健太は少し驚いた表情を浮かべた。
やがて、小さく笑った。
「そうだな。仲間か」
「うん」
「じゃあ、よろしくな」
健太は手を差し出した。
「こちらこそ」
蓮は健太の手を握った。
五人は、焚き火を囲んで笑い合った。
その夜、アリシアは一人、テントの中で考えていた。
「神谷さん……」
胸が温かくなる。
今日、自分の弱さを見せてしまった。
だが、蓮は優しく受け入れてくれた。
「ありがとう……」
アリシアは小さく呟いた。
「あなたと出会えて、本当に良かった」
窓の外には、満月が輝いていた。
翌朝、五人は再び旅を続けた。
「今日で山を越えられそうですね」
アリシアが言った。
「ああ」
健太は前方を見た。
「あと数時間だな」
五人は険しい道を登っていった。
山頂に到着すると、眼下に広大な平原が広がっていた。
「わあ……」
セラは感嘆の声を上げた。
「綺麗……」
「これが、魔境への入り口ですか?」
蓮が尋ねた。
「ええ」
アリシアは頷いた。
「この平原を抜けると、魔境に入ります」
「魔境か……」
健太は腕を組んだ。
「ここからが本番だな」
「ええ」
五人は決意を固めた。
だが、その時──
遠くから、黒い煙が立ち上っているのが見えた。
「あれは……」
リリアは目を細めた。
「村……?」
「まさか、襲撃されてる……!?」
アリシアは驚愕した。
「急ぎましょう!」
五人は村へと走り出した。
村に到着すると、そこは地獄絵図だった。
家々が燃え、村人たちが倒れている。
「ひどい……」
セラは愕然とした。
「誰がこんなことを……」
その時、村の中心から声が聞こえた。
「クククク……」
低い笑い声。
五人が駆けつけると──
黒いローブを纏った人影が、村人たちを嘲笑していた。
「お前は……」
アリシアは剣を抜いた。
「魔王軍……!」
「よく来たな、トリニティ」
黒いローブの男は振り向いた。
「俺は魔王軍特務部隊長、ヘルファイア・グリム」
「お前たちを、ここで始末する」
グリムは炎を纏った。
「みんな、行くよ!」
蓮は叫んだ。
「グランド・サポート!」
四人の体が光り輝いた。
「行きます!」
アリシアが突撃した。
だが──
グリムは一瞬で姿を消し、アリシアの背後に現れた。
「遅い」
グリムの拳が、アリシアの背中に叩き込まれた。
「ぐはっ……!」
「アリシア!」
「フレイムランス!」
リリアが魔法を放つ。
だが、グリムは炎を吸収した。
「俺は炎の魔王だ。炎魔法は効かない」
「くっ……」
「はあっ!」
セラと健太が同時に攻撃した。
だが、グリムは軽々と二人を弾き飛ばした。
「弱い……」
グリムは冷笑した。
「これがトリニティか? 期待外れだな」
「くそっ……」
蓮は焦った。
支援魔法をかけても、歯が立たない。
「どうすれば……」
その時、アリシアが立ち上がった。
「まだ……終わってません……」
「アリシア、無理しないで!」
「いいえ」
アリシアは剣を構えた。
「私は……騎士です」
アリシアの目には、強い決意が宿っていた。
「弱き者を守ることが、私の使命」
「ここで倒れるわけには……いきません!」
アリシアは叫んだ。
その瞬間──
アリシアの体が、眩い光に包まれた。
「この光は……」
グリムは驚愕した。
「まさか……覚醒……!?」
アリシアの剣が、聖なる光を放ち始めた。
「私は、父の娘」
アリシアは剣を構えた。
「王国騎士団団長、ジークフリートの娘!」
「その意志を継ぐ者!」
アリシアは突撃した。
その速さは、光速を超えていた。
「はああああっ!」
聖剣がグリムの胸を貫いた。
「ガアアアッ!」
グリムは悲鳴を上げた。
「く……そ……こんな……はずでは……」
グリムの体が煙のように消えていった。
「覚えて……ろ……」
グリムは完全に消滅した。
「やった……」
アリシアは膝をついた。
「はあ……はあ……」
「アリシア!」
蓮が駆け寄った。
「大丈夫!?」
「ええ……何とか……」
アリシアは笑顔で答えた。
「でも、不思議です……」
「何が?」
「急に、力が漲ってきたんです」
アリシアは自分の手を見た。
「まるで、父が背中を押してくれたような……」
「……」
蓮は微笑んだ。
「きっと、お父さんが見守ってくれてたんだよ」
「そうでしょうか……」
「うん。絶対」
「……」
アリシアは涙ぐんだ。
「ありがとう……父さん……」
村人たちを治療した後、五人は再び旅を続けた。
「アリシア、すごかったね」
セラが言った。
「急に強くなって」
「覚醒したのよ」
リリアが説明した。
「強い意志が、潜在能力を引き出したの」
「へえ」
「でも、疲れました……」
アリシアは苦笑した。
「しばらく、あの力は使えないかもしれません」
「無理しないでね」
蓮が言った。
「うん」
アリシアは微笑んだ。
その夜、五人は再び野営した。
アリシアは、父の形見である剣を磨いていた。
「父さん……」
アリシアは呟いた。
「私、頑張ります」
「あなたの意志を継いで、立派な騎士になります」
剣が、月光を反射して輝いた。
まるで、父が答えてくれているようだった。
アリシアは微笑んだ。
もう、涙は流さない。
前を向いて、進んでいく。
仲間と共に。
そして──
大切な人と共に。
アリシアの心は、決まっていた。
五人は険しい山道を進んでいた。
「はあ……疲れた……」
セラは息を切らしていた。
「この山、いつ終わるの……?」
「もう少しです」
アリシアは地図を確認した。
「あと数時間で、山を越えられるはずです」
「頑張ろう、セラ」
蓮が励ました。
「うん……」
セラは再び歩き始めた。
夕方、五人は山の中腹で野営することにした。
「今日はここで休もう」
健太が提案した。
「ああ、賛成」
蓮も頷いた。
五人はテントを張り、焚き火を起こした。
夕食後、アリシアは一人、焚き火の前に座っていた。
炎を見つめながら、何かを考え込んでいる。
「アリシア、大丈夫?」
蓮が声をかけた。
「あ、神谷さん……」
アリシアは少し驚いた様子だった。
「ええ、大丈夫です」
「何か考え事?」
「……少し」
アリシアは炎を見つめた。
「父のことを、思い出していました」
「お父さん……」
蓮は隣に座った。
「騎士団長だったんだよね」
「ええ」
アリシアは静かに頷いた。
「父は、とても立派な人でした」
アリシアは、ゆっくりと語り始めた。
「父は、王国騎士団の団長として、多くの人々を守ってきました」
「常に正義を貫き、弱き者の味方でした」
アリシアの目に、懐かしさが滲む。
「私は、そんな父を尊敬していました」
「父のような騎士になりたいと、幼い頃から思っていました」
「……」
蓮は静かに聞いていた。
「でも、三年前……」
アリシアの声が震えた。
「父は、魔王軍との戦いで命を落としました」
「……」
「私は、父の最後を看取ることができませんでした」
アリシアは拳を握りしめた。
「戦場から遠く離れた場所にいて……父が死んだという知らせを受けただけでした」
「アリシア……」
「父の遺体を見た時……私は、何も言えませんでした」
アリシアの目から、涙が溢れた。
「ただ……泣くことしかできませんでした」
「……」
「それから、私は誓ったんです」
アリシアは涙を拭った。
「父の遺志を継ぎ、立派な騎士になろうと」
「誰も泣かせない、強い騎士になろうと」
「だから……」
アリシアは蓮を見た。
「私は、弱さを見せてはいけないと思っていました」
「常に強くあらねばならないと」
「でも……」
アリシアの声が震えた。
「最近、気づいたんです」
「私、本当は……とても弱いんだって」
アリシアは顔を伏せた。
「神谷さんと出会ってから、私は変わりました」
「仲間と共に戦うことの素晴らしさを知りました」
「支え合うことの大切さを学びました」
「でも、同時に……」
アリシアは蓮を見つめた。
「あなたに頼りすぎている自分に気づいたんです」
「え……?」
「あなたの支援がなければ、私は戦えない」
アリシアは自嘲気味に笑った。
「これって、弱さですよね」
「そんなことない」
蓮は即座に答えた。
「仲間を頼ることは、弱さじゃない」
「でも……」
「アリシアは、俺なんかよりずっと強い」
蓮は真剣な目で言った。
「剣の腕も、心の強さも」
「……」
「俺は、アリシアを尊敬してる」
蓮は優しく微笑んだ。
「父親を失っても、その意志を継いで騎士になった」
「それって、とても強いことだと思う」
「神谷さん……」
アリシアの目から、再び涙が溢れた。
だが、今度は悲しい涙ではなかった。
「ありがとう……ございます……」
アリシアは蓮の胸に顔を埋めた。
そして、声を上げて泣いた。
「うっ……うう……」
「いいよ、泣いて」
蓮はアリシアの背中を優しく撫でた。
「我慢しなくていい」
「……はい……」
アリシアは、長い間抑えていた感情を解放した。
父への想い。
騎士としてのプレッシャー。
弱さへの恐怖。
全てが、涙となって溢れ出た。
しばらくして、アリシアは泣き止んだ。
「すみません……取り乱してしまって……」
「気にしないで」
蓮は笑顔で答えた。
「みんな、弱い部分があるから」
「……そうですね」
アリシアは小さく微笑んだ。
「神谷さん、もう一つ聞いてもいいですか?」
「うん」
「私……あなたのことが好きです」
アリシアは顔を赤らめた。
「でも、リリアさんもセラさんも、あなたのことが好きで……」
「……」
「私、どうすればいいのかわからないんです」
アリシアは困惑した表情を浮かべた。
「一人の人を、三人で好きになるなんて……」
「……」
蓮は答えに窮した。
正直、自分でもどうすればいいのかわからない。
「ごめん、俺も……まだ答えが出せない」
「いいんです」
アリシアは微笑んだ。
「焦らないでください」
「でも……」
「今は、仲間として一緒にいられるだけで幸せです」
アリシアは空を見上げた。
「いつか、あなたの答えが出る日が来るでしょう」
「その時まで、私は待ちます」
「アリシア……」
「だから……」
アリシアは蓮を見た。
「これからも、よろしくお願いします」
「うん」
蓮は笑顔で答えた。
「こちらこそ」
二人は静かに微笑み合った。
その時、テントからリリアが出てきた。
「あら、二人で何を話してるの?」
「あ、リリア……」
アリシアは少し慌てた。
「別に、何でもないわ」
リリアは疑わしそうな目で二人を見た。
「……そう」
リリアは焚き火の前に座った。
「ねえ、神谷」
「うん?」
「あなた、アリシアと何を話してたの?」
リリアは少し不機嫌そうだった。
「え、えっと……」
蓮は困惑した。
「アリシアの過去とか……」
「過去?」
リリアはアリシアを見た。
「あなた、神谷に何を話したの?」
「……父のことを」
アリシアは正直に答えた。
「そう」
リリアは少し表情を和らげた。
「大切な話だったのね」
「ええ」
「……」
リリアは少し考え込んだ。
「ねえ、アリシア」
「はい?」
「私たち、ライバルよね」
リリアは真剣な目で言った。
「神谷を巡る」
「……はい」
アリシアも頷いた。
「でも」
リリアは微笑んだ。
「それでも、私たちは仲間よ」
「リリアさん……」
「だから、お互い正々堂々と戦いましょう」
リリアは手を差し出した。
「……はい」
アリシアはリリアの手を取った。
「よろしくお願いします」
二人は笑顔で握手した。
「何の話?」
セラがテントから出てきた。
「あたしも混ぜて~」
「セラ……」
「ねえねえ、何で二人で握手してるの?」
セラは不思議そうに尋ねた。
「ライバル宣言よ」
リリアが答えた。
「ライバル?」
「ええ。神谷を巡るライバル」
「あ、それならあたしも!」
セラは二人の手に自分の手を重ねた。
「あたしも、蓮のこと好きだもん!」
「……もう」
リリアは呆れたように笑った。
「三人でライバルってことね」
「ええ」
アリシアも微笑んだ。
「でも、仲間でもあります」
「そうだよ!」
セラは無邪気に笑った。
「あたしたち、家族みたいなものだもん」
三人は笑い合った。
「お前ら、仲いいな」
健太がテントから出てきた。
「ハーレムかよ」
「ハーレムって……」
蓮は顔を赤らめた。
「そんなんじゃないよ」
「まあ、お前が羨ましいよ」
健太は肩をすくめた。
「俺なんか、一人だからな」
「……」
蓮は健太を見た。
少し寂しそうに見えた。
「健太も、俺たちの仲間だよ」
「え?」
「一緒に旅してるんだから」
蓮は笑顔で言った。
「仲間だろ?」
「……」
健太は少し驚いた表情を浮かべた。
やがて、小さく笑った。
「そうだな。仲間か」
「うん」
「じゃあ、よろしくな」
健太は手を差し出した。
「こちらこそ」
蓮は健太の手を握った。
五人は、焚き火を囲んで笑い合った。
その夜、アリシアは一人、テントの中で考えていた。
「神谷さん……」
胸が温かくなる。
今日、自分の弱さを見せてしまった。
だが、蓮は優しく受け入れてくれた。
「ありがとう……」
アリシアは小さく呟いた。
「あなたと出会えて、本当に良かった」
窓の外には、満月が輝いていた。
翌朝、五人は再び旅を続けた。
「今日で山を越えられそうですね」
アリシアが言った。
「ああ」
健太は前方を見た。
「あと数時間だな」
五人は険しい道を登っていった。
山頂に到着すると、眼下に広大な平原が広がっていた。
「わあ……」
セラは感嘆の声を上げた。
「綺麗……」
「これが、魔境への入り口ですか?」
蓮が尋ねた。
「ええ」
アリシアは頷いた。
「この平原を抜けると、魔境に入ります」
「魔境か……」
健太は腕を組んだ。
「ここからが本番だな」
「ええ」
五人は決意を固めた。
だが、その時──
遠くから、黒い煙が立ち上っているのが見えた。
「あれは……」
リリアは目を細めた。
「村……?」
「まさか、襲撃されてる……!?」
アリシアは驚愕した。
「急ぎましょう!」
五人は村へと走り出した。
村に到着すると、そこは地獄絵図だった。
家々が燃え、村人たちが倒れている。
「ひどい……」
セラは愕然とした。
「誰がこんなことを……」
その時、村の中心から声が聞こえた。
「クククク……」
低い笑い声。
五人が駆けつけると──
黒いローブを纏った人影が、村人たちを嘲笑していた。
「お前は……」
アリシアは剣を抜いた。
「魔王軍……!」
「よく来たな、トリニティ」
黒いローブの男は振り向いた。
「俺は魔王軍特務部隊長、ヘルファイア・グリム」
「お前たちを、ここで始末する」
グリムは炎を纏った。
「みんな、行くよ!」
蓮は叫んだ。
「グランド・サポート!」
四人の体が光り輝いた。
「行きます!」
アリシアが突撃した。
だが──
グリムは一瞬で姿を消し、アリシアの背後に現れた。
「遅い」
グリムの拳が、アリシアの背中に叩き込まれた。
「ぐはっ……!」
「アリシア!」
「フレイムランス!」
リリアが魔法を放つ。
だが、グリムは炎を吸収した。
「俺は炎の魔王だ。炎魔法は効かない」
「くっ……」
「はあっ!」
セラと健太が同時に攻撃した。
だが、グリムは軽々と二人を弾き飛ばした。
「弱い……」
グリムは冷笑した。
「これがトリニティか? 期待外れだな」
「くそっ……」
蓮は焦った。
支援魔法をかけても、歯が立たない。
「どうすれば……」
その時、アリシアが立ち上がった。
「まだ……終わってません……」
「アリシア、無理しないで!」
「いいえ」
アリシアは剣を構えた。
「私は……騎士です」
アリシアの目には、強い決意が宿っていた。
「弱き者を守ることが、私の使命」
「ここで倒れるわけには……いきません!」
アリシアは叫んだ。
その瞬間──
アリシアの体が、眩い光に包まれた。
「この光は……」
グリムは驚愕した。
「まさか……覚醒……!?」
アリシアの剣が、聖なる光を放ち始めた。
「私は、父の娘」
アリシアは剣を構えた。
「王国騎士団団長、ジークフリートの娘!」
「その意志を継ぐ者!」
アリシアは突撃した。
その速さは、光速を超えていた。
「はああああっ!」
聖剣がグリムの胸を貫いた。
「ガアアアッ!」
グリムは悲鳴を上げた。
「く……そ……こんな……はずでは……」
グリムの体が煙のように消えていった。
「覚えて……ろ……」
グリムは完全に消滅した。
「やった……」
アリシアは膝をついた。
「はあ……はあ……」
「アリシア!」
蓮が駆け寄った。
「大丈夫!?」
「ええ……何とか……」
アリシアは笑顔で答えた。
「でも、不思議です……」
「何が?」
「急に、力が漲ってきたんです」
アリシアは自分の手を見た。
「まるで、父が背中を押してくれたような……」
「……」
蓮は微笑んだ。
「きっと、お父さんが見守ってくれてたんだよ」
「そうでしょうか……」
「うん。絶対」
「……」
アリシアは涙ぐんだ。
「ありがとう……父さん……」
村人たちを治療した後、五人は再び旅を続けた。
「アリシア、すごかったね」
セラが言った。
「急に強くなって」
「覚醒したのよ」
リリアが説明した。
「強い意志が、潜在能力を引き出したの」
「へえ」
「でも、疲れました……」
アリシアは苦笑した。
「しばらく、あの力は使えないかもしれません」
「無理しないでね」
蓮が言った。
「うん」
アリシアは微笑んだ。
その夜、五人は再び野営した。
アリシアは、父の形見である剣を磨いていた。
「父さん……」
アリシアは呟いた。
「私、頑張ります」
「あなたの意志を継いで、立派な騎士になります」
剣が、月光を反射して輝いた。
まるで、父が答えてくれているようだった。
アリシアは微笑んだ。
もう、涙は流さない。
前を向いて、進んでいく。
仲間と共に。
そして──
大切な人と共に。
アリシアの心は、決まっていた。
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【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる
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スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
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「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
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前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
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