追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太

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【第1章】追放と絶望の夜

第1話「追放の夜、月は冷たく」

「エリシア=ハーランド。貴女を国家反逆罪の容疑で逮捕する」
王宮大広間に、冷たい声が響き渡った。
華やかな夜会の音楽が止まり、数百人の貴族たちの視線が一斉に私に注がれる。シャンデリアの光が、まるで糾弾の照明のように私を照らしていた。
「……何を、仰っているのですか」
私――エリシア=ハーランドは、できる限り平静を装って問い返した。だが心臓は激しく脈打ち、指先が微かに震えていた。
「とぼけるな」
玉座から立ち上がったのは、私の婚約者であるはずの第一王子アルベルト殿下だった。整った顔立ちは冷酷な表情に歪み、かつて優しく私を見つめていた瞳には、今や嫌悪しか浮かんでいない。
「貴女がルベルタ公国のスパイとして、我が国の軍事機密を流していた証拠がある。ハーランド公爵家は代々、この国に仕えてきた名門のはずだが……まさか、裏切り者を育てていたとはな」
ざわめきが広間を満たす。
あり得ない。そんなことは、絶対にしていない。
「殿下、それは誤解です。私は――」
「黙れ!」
アルベルトの一喝で、私の言葉は遮られた。
「証拠はここにある。貴女の筆跡で書かれた密書だ」
侍従が羊皮紙の束を掲げる。確かに、私の文字に似ている。だが、あれは私が書いたものではない。偽造だ。精巧な、恐ろしく精巧な偽造――。
「それに……」
アルベルトは、私から視線を逸らした。まるで汚れたものを見るように。
「婚約は破棄する。このような女を、未来の王妃にすることなどできぬ」
世界が、音を失った。
婚約破棄。
その言葉の意味を理解するのに、数秒を要した。
私は、捨てられるのだ。
濡れ衣を着せられ、婚約を破棄され、全てを奪われる。
「待って、待ってください! 私は本当に何もしていません! 調査を、きちんとした調査をしてください!」
必死に訴える私を、誰も見ようとしない。貴族たちは顔を背け、侍女たちは冷たい目で私を見下ろす。かつて親しかったはずの令嬢たちは、ひそひそと悪意に満ちた噂話を始めている。
「やはり、あの完璧すぎる令嬢は裏があったのよ」
「哀れね。明日には全てを失うのだわ」
「ハーランド家も終わりね」
くすくすと、笑い声が聞こえる。
この状況を、楽しんでいる者たちがいる。
「エリシア=ハーランド。貴女に極寒の辺境、ノルディアへの追放刑を言い渡す」
国王陛下の宣告が、私の運命を決定づけた。
ノルディア。
王国最北端の、雪と氷に閉ざされた不毛の地。中央から見捨てられた罪人と異民族の吹き溜まり。そこへ送られるということは、すなわち死を意味する。
騎士たちが私の腕を掴んだ。
「お待ちください! 父上は、母上は! せめて家族に会わせてください!」
「ハーランド公爵家は、貴女との関係を断絶すると表明している」
冷たい声が、最後の希望を打ち砕いた。
家族にすら、見捨てられた。
いや、違う。
父や母が、私を簡単に見捨てるはずがない。きっと、彼らもまた罠にかけられ、私を守れない状況に追い込まれているのだ。
引き摺られながら、私は大広間を振り返った。
玉座の影に、一人の女性が立っている。
侯爵令嬢クラリッサ。アルベルト殿下に想いを寄せていた、あの女性。
彼女は、微笑んでいた。
――ああ、そういうことか。
すべてが、繋がった。
私を陥れたのは、彼女だ。王妃になりたい彼女が、私の全てを奪ったのだ。
「覚えていなさい」
私は、低く呟いた。
「このまま、終わらせはしない」
騎士たちは、私の言葉など聞いていない。
だが、私の中で何かが変わった。
前世の記憶――三十代まで生きた、現代日本のOLとしての記憶。経営戦略のプロとして、数多の企業再生に関わってきた私の、もう一つの人生。
転生してから十五年。
私はこの世界で、貴族令嬢として完璧に振る舞うことだけに集中してきた。前世の知識を持っていても、それを使う機会は無かった。
でも、もう違う。
「いいわ」
護送馬車に押し込められながら、私は静かに誓った。
「奪われたものは、全て取り返す」
そして、私を陥れた者たち全員に――。
「後悔させてあげる」
月明かりが、馬車の窓から差し込んでいた。
満月の夜。
私の人生が、終わった夜。
いや――。
私の真の物語が、始まる夜。
極寒の辺境ノルディア。
そこで私は、この腐敗した王国全体を揺るがす存在になってみせる。
前世で培った経営戦略、交渉術、人心掌握術。
そして、この世界の魔法。
すべてを使って――。
馬車は、闇の中を北へ向かって走り続けた。
私の、新しい物語の舞台へと。
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